「ここはあの時から……だいぶ縮んだな。」
1000年ぶりの王都に足を運んで、最初に感じた感想だった。城はあの時と比べて小さくなった分、色々と見た目は変わっているし、市街地は外から見た感じ、一回り二回りは小さくなってるように見受けられる。
「あんな事があった後じゃからな。それに、当時のファルゼアの国王は保身優先のマヌケじゃった。大方、また何かやらかして玉座を追われるか何かをしたんじゃろうて。」
「そうだといいんだけどな。アイツのせいで酷い目に遭った。」
「亡くなってるとはいえ、当時の王様にすごい言いようですね……。」
城門前では、そんなやり取りが行われていた。
アリスの言い分ももっともだが、フェンリルがそう言いたくなるのも無理はない。
「当代の国王も、そんなのじゃないと良いけどな……。」
「それは大丈夫だと思いますよ?ファルゼア王国は一度、城どころか町レベルにまで衰退したらしいのですが、現国王の家系によって、ここまで立て直す事が出来たらしいので。今の国王様も、頻繁に市井に顔を出しては国民の声を聞いては必要な意見を取り入れてくださる方なんです。」
「………逆に考えよ、アルシア。あれレベルは早々存在しないのだと。」
それで納得するのもどうかと思うが、残念ながら納得せざるを得ない。
「因みに今の王家っていうのは……。」
「カーラー家です。現国王は4世にあたる方ですね。」
「……カーラー。知らん名前だな。」
「地方の村の方ですからね。今のファルゼア王国になるまで色々あったらしいので、知らないのも仕方ないかと……。」
だとすると、本当に大出世も良いところだ。
と言うよりも、町レベルにまで落ちるとは、本当に何があったんだ……。
などと考えながら門から城に入ろうとしたところで、フェンリルは急に足を止めた。
どうしたのだろう、と俺とアリスは振り返る。
「アリス。汝とはここでお別れじゃ。もう家に帰るがよい。」
「え、フェンリルさん……?」
たしかに、もう夜だからというのもある。
しかし、アリスが困惑してるのはそこではない。先程までとは打って変わって、フェンリルは冷たい表情でアリスを拒絶している。
(こういうとこは鈍いんだよな、コイツ……)
魔族のくせして俺なんかよりもよっぽど常識人なのに、その辺の機微を理解できないところがあるのが、フェンリルの悪いところだ。
見てみろ、アリスがこれから捨てられる事を理解したような子犬みたいな顔になっていくのを。
「フェンリル。言葉にしないと伝わらない事だってあるのをいい加減に気付け。アリス、こいつはお前を巻き込みたくないんだよ。」
「……え?」
「アルシアっ。」
泣きそうだった顔が、再び困惑の顔に変わる。
隣からフェンリルが抗議するが、この辺は譲っては駄目だろう。
「この子の顔を見てみろ。こんな顔させるくらいならあんな優しくすんじゃねえ。さっさと家に帰せば良かったろうが。」
「いや、しかし…結果的にでも、我らを守ってくれていた訳じゃし……」
「だったら、尚更ちゃんと理由を言って納得させろ。言葉にしなくても伝わるなんてのは、死ぬ程一緒にいて相手を理解してるか、余程の咄嗟の状況くらいだろうよ。」
「分かったら早く言え。」とフェンリルの背中をぐい、と押すと、申し訳無さそうな表情でアリスに頭を下げた。
「すまなかった、アリスよ。」
「あ、いえ……。」
「此処から先は危険な旅になる可能性が高い。たぶんじゃが、今から城に入っただけでも面倒事になる。何せ、現代では伝説の破壊神とそれが従えた魔族の内の一体らしいからな。」
そこで一旦言葉を切って、フェンリルはアリスの頭に手をやり、その頭を撫でて、娘に言い聞かせるような優しい表情をした。
「だから、今日はここでお別れじゃ。お主はこの国の学校の学生なのじゃろう?ならば、その大事な時間を妾達と一緒にいて潰してしまうでない。巻き込まれぬ様、早く家に帰りなさい?」
会いたくなったのなら、迎えに行くからと付け加えると、今度こそ納得してくれたアリスは嬉しそうに「はいっ。」と言って笑った。
「最初からそうしておけば良かったのに………いてぇ?!」
余計な事を言うなとばかりにフェンリルに殴られ、それを見たアリスはくすくすと楽しそうに笑うのだった。