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第17話「痕跡調査・後編」


アリスがきょとんとした顔をしている。

たしかに、これは当事者でないと分からない話でもあるので仕方ないだろう。


「ああ。色々と説明したいが、どうにも俺達が思ってる以上に面倒な事になってるらしい。」

「それで、どうしてそのバフォロスさんを出すのですか?」

「こいつは普通にバフォロスと呼べばいい。食いしん坊で我儘……いってぇな畜生!」


バフォロスがモヤを出して殴ってきたので文句を言うが、主人を舐め腐ったこの剣はやはり「知ったことか」と言いたげにそのモヤを引っ込めて沈黙する。


「くそ、マジで圧し折ってやろうか、この野郎……」

「止めぬか。それよりも、バフォロスが消化し切る前に調べぬよ。」

「………分かってるよ。」


溜息を吐きながら、バフォロスの柄を握り、アリスを襲ってきたという魔族達の魔力の質を調べる。

目を瞑り、バフォロスの内側に意識をダイブさせると、先程食われたらしい夥しい数の魔族の悲鳴が聞こえてくるが、それらを顔を顰めながら無視しつつ、魔族の種類を見ていく。


「スライム、オーク、ゴブリン、コボルト、ゴースト………トロールにリッチー、ワイバーンか……。」


それらの魔力を記録魔法で複写し、バフォロスの内部から意識を浮上させ、目を開く。

そのまま、複写した記録を2人に見えるように空中に映し出した後、先程見た魔族達の通常の状態、そして1000年前に念の為にと回収した暴走魔族の記録も映し出して、演算魔法で手早くその差異を書き出していく。


「アルシアさん、これは?」

「バフォロスがさっき喰い漁った魔族達の魔力と、1000年前の暴走魔族の魔力、それと、俺が知ってる時期の通常状態の魔族の比較数値だ。同じ魔族の種類でも個体差があるが、それぞれの平均値で出してるから、殆ど正確な差異で出せてるはずだ。」


通常時の比較数値から、残りの2パターンを見比べる。

すると、それを見ていたフェンリルが口を開いた。


「たしかに、1000年前とアリスを襲った魔族の魔力パターンは幾らか一致しておるな。」

「ああ。だが一部のパターンが明らかに違う……。たぶん、そこで転がってるキングトロールと同じだろうな。」


今度はキングトロールの死体から魔力数値を引き出して、同じ様に比較数値を書き出していく。

キングトロールはあの時……、大規模侵攻に於いても戦っている。

あの時のキングトロールと、こいつの差異は間違いなく一つだけある。

確信を得る為に、俺はアリスに聞くことにした。


「アリス。襲われた時の事だが……」

「はい。」

「そいつ等、理性とかはあったか?」

「………ありました。連携は取っていましたし、私がトロールの心臓をフォトン数発叩き込んで破壊した時も、怯えて逃げていきましたし……。」

「……今、サラッとエグい事を言ってた気がするが……まあ、いいか。なら、それでこの差異は説明が付く。」


大規模侵攻時の暴走魔族と、ここを襲撃する為に来たであろう魔族の違い。

それは理性を持った上で、大規模侵攻時に近い状態の魔族になっていた事になる。

そんな中で暴れ倒して持ち堪えたアリスも中々だと思うが、話の論点はそこではない。


「大規模侵攻時に近い強さで、理性を維持した魔族………。ここを襲撃したのは、偶然と思うか?」


当事者であるフェンリルと、何となく事態を察しているアリスが俺の問いに対して、殆ど同時に首を横に振る。

目覚めたばかりで、何も分からないのは当たり前だが、一つだけ言えることがある。


何かは分からない。もしかすれば、大規模侵攻はあれで終わりではなかったのかもしれない。

いや、あの大規模侵攻でさえ、その為の布石だったのかもしれない、と思える程に見えない悪意が俺達2人に未だ絡み付いている。


「はあ……。」と溜息を吐く。

俺は物語に出てくる正義の味方でもなければ、救国の英雄でも何でもない。

正直、面倒だから投げ出したいくらいだ。

ただ、もう一度あんな地獄が興されるのであれば、それは止めなければならない。


「――――フェンリル。」

「……何じゃ?」


フェンリルは楽しそうに微笑みながら聞き返す。珍しく俺がやる気だからだろう。


「王都へ向かうぞ。今のまま動くには、俺達は何も知らなすぎるからな。」


フェンリルはその言葉に「仕方ないのう。」と、ただ笑って返した。





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第3章「アルシア覚醒」・完

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