心臓を貫かれたキングトロールが大きな鉄塊を落として倒れていく。
ピクリとも動かないし、魔力探知にも反応しないので完全に終わりだ。
「あれ一つで死んじまう辺り、強化されてても上級は上級か……」
それに理性があるせいか、1000年前の暴走魔族よりも知能面は向上しているものの、基礎的な力で見た場合、大分弱い。
アリスもいるから手短に済ませたとはいえ、もう少し持ち堪えるかと思ったが、あの時ほどの脅威にはなり得ないと知って一人安堵してから2人に近付くと、フェンリルはいつも通りだが、アリスはポカンとした表情をしていた。
「……どうした、アリス?」
「……いえ、あのキングトロールをあっさり倒されていたので……。」
「キングトロールは上級魔族でも大した強さではないんだが……」
今回のキングトロールは明らかにおかしな事になっていたが、こいつ程度でその認識となると、大規模侵攻の爪痕も存外、俺が思っている以上に大きいのかもしれない。
「それに、空間魔法と魔眼まで……」
「魔眼は自前だが、空間魔法は別だよ。俺が固有で使えるのは、魔眼くらいな物だ。」
そう言って、俺は右手で黄色に光る右目を軽く指差す。
基本魔法は勿論使えるが、俺が使える大きな魔法はこの5属性の魔法を自在に操る事が出来る魔眼とあと一つだけ。
そのもう一つとはあまり役に立たないから無いに等しい。
いや、役に立つ様な事態になっても大分困る物だが………。
「そうなのですか?では、先程の空間魔法は……」
「アレは俺ではなく、同化してしまったアダムの書に記録されている物だ。それに、正確には魔法じゃない。」
大規模侵攻の後、ある事情からアダムの書と俺は同化している。
同化しても体外に出せるものか?と思いながら念じると、それはアッサリと掌に具現化する。
すると、アリスはそれを見て不思議そうに首を傾げた。
「………アダムの書?」
「アーティファクトの一つだ。分類としては、神器側だ。」
「アーティファクトって……、実在するんですか!?」
「ああ。ついでに言うと、バフォロスとこの鎖もそうだ。もっとも、これが何なのかは、俺も知らないんだがな。」
アリスにアダムの書を手渡しながら、右腕に巻き付けた鎖をジャラリ、と鳴らしながら持ち上げる。
実害もリスクらしいリスクも無いし、便利だから良いのだが、正体が分からないのはやはり、もどかしさの様な物を感じる。
「アルシアよ。アーティファクトの説明もいいが、先にやらねばならぬ事があろう?」
「……たしかに、そうだな。」
俺はアリスからアダムの書を受け取り、身体に戻してから収納魔法から眠っているバフォロスを取り出して、地面に突き立てる。
このキング・トロールの亡き骸と、アリスを襲った魔族を調べる為だ。