咆哮を上げながら見た目の割に素早い動きで距離を詰めたキングトロールが身の丈を超えるほどの鉄塊を振り下ろすのと、それを受け止めるように拡散させた鎖が張り巡らされるのは同時だった。
鈍い金属音が引っ掻き合う様な音を立てて衝突する。
人間どころか、下手な金属くらいなら一瞬で両断するであろう一閃を、鎖は難なく受け止める。
受け止めている間に新たに分裂させた鎖で目の前の魔族を両断しようと薙ぎ払うが、それを読んでいたと言わんばかりに魔族は大きく飛び上がって避けた。
俺は少しだけ驚く。
「たかだか上級のトロールにしちゃ、動きが俊敏だな。」
口ではこうは言うものの、キングトロールは確かに強い。中級のトロールとはその筋力も速度も、頭脳も比較にならない程。
だが、それはトロールと比べてであり、俺やここにいるフェンリルの敵などではない。
今の一撃も避けられるのは想定してたとはいえ、通常のキングトロールであれば確実に仕留められるタイミングだった。
もう一度、同じ様な速度で鎖を5本に分裂させた後、その身体を貫くような軌道で放つが、これも同様に躱される。
この妙な魔力といい、やはり何かあるのは間違いないようだ。
「アルシア。」
静かな声で呼ばれるので、そちらを見る。
フェンリルは「またか……」と言いたげな顔で、アリスは心配そうな顔でこちらを見ていた。
「真面目にやれ。」
「……手を抜いてるんですか?」
「遊んでおるわ。あの顔は……。」
「まだこの身体を把握しきれてないだけだ。それより、そっちに行くぞ。」
ある事情から封印の過程で色々変わってしまった身体の感覚を探るように戦っていると、キングトロールはいきなり標的をフェンリル達に変えて素早く距離を詰めていった。
アリスは少しだけ恐怖を感じた顔で武器を構え、フェンリルは腕を組んだまま、護るようにアリスの前に立つ。
俺は焦ることなく分裂させた鎖をまた射出するが、当たり前のようにそれも躱される。
そして目の前のフェンリル達に鉄塊を振り下ろそうとし………
「グガアァァァアアアアッッ!?」
周囲の空間を割いて現れた無数の鎖に身体を貫かれて、キングトロールは悲鳴をあげた。
「余所見するなよ。」
空間操作と組み合わせて射出した鎖を引き戻しながら、俺はそう言い放つ。
致命傷を避けてはいるものの、全身を貫かれて激昂したキングトロールが再度こちらに迫ってきた。
身体を貫かれて遅くなって尚、凄まじい速度だが、充分間に合う。
自身の魔法……魔眼を起動して瞳の色が染まるのを感じながら、人差し指と中指をキングトロールに向ける。
指先に凄まじい音を立てながら雷電が集まり、収束する。
こちらに向かってくるキングトロールがそれを見て即座に回避運動を取るがもはや手遅れだ。
「――瞬雷。」
「ガッ――――ッ、」
指先から放たれた光の線はキングトロールに避ける暇を与えることなく、その心臓をやすやすと貫いて、その命を奪い取った。