「いい加減に起きぬか、馬鹿者めがっ!!」
怒号と共に、顔面に爆炎が直撃する。
「熱っちぃ!!?」
黒焦げになりかねない程の熱によって叩き起こされ、俺は魔法で水を出しながら鎮火し、その辺を転げ回る。
回復魔法をかけて、暫くしてからやっと痛みも引いたので、俺はこんな事をしでかした元凶を涙目で睨みつける。
「なんて事しやがるんだ!このクソオオカミ!!」
「やかましいわ、クソガキが!!貴様、「あと5分……」なぞと抜かして、予定の時間から何日過ぎたと思ってるんじゃっ!」
「やる事終わったんだし、別にいいだろうが!ムチムチスケベボディの脳筋オオカミが!!」
「何じゃと、このエロガキがっ!!」
「やるか素っ頓狂!!」
お互いに好き放題言って、素手で取っ組み合いを始める。
知り合ってから最早何度やってきたか分からないやり取りだ。
違う事と言えば、俺は気付いていなかったが、知らない少女がフェンリルと一緒にいた事くらいだろう。
「あ、あのっ!!」
「ん?どうした、アリスよ?」
「もがー!?」
遠慮がちに掛けられた声に、今までの苛つき具合が嘘の様に、フェンリルは優しい声で返す。
おい、俺とのその真逆の対応は何だ。
因みに、俺は高位魔族の純粋な筋力になんて当然勝てるわけもなく、フェンリルの胸に顔を押し付けられて何も出来ずにただ離れようと藻掻いていた。
「そ、その……、そちらのアルシアさんという方は……まさか。」
「おお、すまんの。アホなガキンチョを躾し直すの夢中になって、ついな。ほれ、スケベ小僧。さっさと挨拶せい。」
「そう思うなら歳頃の男の子をそのでかい胸に押し付けるんじゃねえ。」
「あやつの言う通り、一番効く仕置きがこの手の物しか無いからじゃろうが。」
「………あのアホ鴉め。それで、この子は?」
フェンリルの背後で困惑しながらこちらを見つめる金髪の少女に目をやる。
ライトグリーンの服の上から白いマントを羽織った、青い目の少女………。当然ながら、1000年後の世界なので見たことのない顔だ。
「この子はアリス・リアドール。貴様のバフォロスに危うく喰われそうになった。さっさと起きぬからじゃ、戯けめが。」
「………そりゃあ、完全に俺のせいだ。すまなかった。」
こうしてファルゼアがまだ残っていて、俺達が生きていることに安堵して二度寝どころか十度寝くらいはしてたのだ。そりゃあバフォロスだって暴れてもおかしくない。
何せ、こいつも1000年の封印期間が終わった後はろくすっぽ食事なんてしてないのだ。
俺は素直にアリスと呼ばれた少女に謝罪する。
「い、いえ、その!フェンリルさんには助けていただきましたし、それに……貴方が
「………ああ。あの、って言うのは何のことか分からないが、俺はアルシア。アルシア・ラグド。1000年間、昼寝していた者だ。」
「あ、アリス・リアドールです。それは、昼寝とは呼ばないのでは……」
「まったくもって、その通りじゃな。」
「うっさいよ。」
軽く自己紹介をし、握手を交わすと、アリスの言葉にフェンリルは「うんうん。」と腕を組んで頷いているので、軽くジト目で睨んでから、改めてアリスに向き直る。
「……それで、『あのアルシア』ってのは、どういう事なんだ?」
「はい……その………」
気になっていた事を聞くと、アリスは凄く言いにくそうに口を噤んでしまう。
「アリスよ。気に病む事はないぞ。汝は伝え聞いた事をそのまま言うだけでよい。約束したろう?必ず守ると。」
「お前は俺を何だと思ってるんだ、フェンリル………。まあ、あいつの言う通り、1000年後の世界でどう語られてるのかなんてお前のせいじゃない。怒ったりなんてしないから、遠慮なく教えてくれ。」
「………あの、人魔戦争に於いて。」
人魔戦争、という単語には聞き覚えはないが、話の流れ的にはあの戦いの事だろう。
俺は「うん。」とだけ返して続きを促す。
まあ、その後の言葉はまったくもって予想外の物だったが。
「3体の魔族を従え、人類の七割を滅ぼした伝説の破壊神と伝えられてます。」
………………おい。誰だ、人をそんな化け物みたいに面白可笑しく伝えたやつは。