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第12話 「存在しない世界」


夢を見た。

何も無い夢。いや、もしかしたらあまりにも色々なモノが在りすぎて、何も無い様に見えるのか……そんな夢だ。


たかだか夢だ。

普段ならそう思うところだが、この夢はそうは思えなかった。


生まれては死んでいく。

死んでは生まれていく。


作られては壊れていく。

壊れては作られていく。


見える訳ではない。

全てはこの無色の世界で、何となくそれを感じてるだけだ。

そんな中、俺の意識は浮上していく。

まるで、深い水の底から掬い上げられるかの様に、俺の意識も、身体も輪郭も生み出されていく。


相変わらず声は出せない中、どういう事かと辺りを見渡すと、3つの光が等間隔に輝き、その内の一つが強く輝いて、俺を飲み込んでいく。


眩しさに目を閉じ、光が収まったところで再び目を開くと、目の前では大きな戦いが起きていた。

(ここは………、ファルゼアか?)

実際にここが何処なのかは分からないが、何となく大昔のファルゼアなのだろうというのは分かった。

そして、これが誰かに見せられている本当にあったのだろう光景だという事も……。


目の前で繰り広げられている光景は苛烈という他無かった。

地の底に鎖で繋がれ、光すらも呑み込みそうなほど深い闇を纏う巨大なが、大陸を割り砕きながら地上へと這い上がろうと藻掻いている。

そして、それに立ち向かうべく武器を手に向かっていく少年と少女と、人の姿をした


巨大な化け物は翼を生やして飛び立とうとするが、鎖で繋がれてまた地に落ちる。

そこに、人の姿をした一人が無数の光の槍を生み出し、それらを一斉に撃ち出す。


数千もの、それぞれ形の違う槍がその巨体目掛けて降り注ぎ、その翼を、身体を抉っていく。

それに続いて他の者達も自身の司る力を顕現し、地の底に縫い留められた異形を攻撃していく。

しかし、その巨大な怪物もただ黙ってやられているだけではない。

巨体がぴしりと割れ、大きな口が生まれると、その口から全てを消し飛ばさんばかりの闇の奔流が放たれる。


立ち向かっていった幾人かはそれに呑まれ、死に絶えていく。

だが、仲間を討たれても人の姿をした者達はそれを気にするでもなく、ただ機械的に態勢を整え、再び強大な力を奮い出す。


(大規模侵攻が可愛く見えるな………)

目の前で繰り広げられている戦いを見て、感じた物はそれだった。

あれが楽な戦いだったかと聞かれれば決してそんな事は無いが、これを見せられれば嫌でもそう思ってしまう。

一つ一つの一撃が天変地異に匹敵し、場合によってはそれすら上回る暴威の応酬が繰り広げられる。

太陽の如き灼熱の炎、大地を操る力、空から降り注ぐ無数の隕石、そして、刻の裁き………。

自分では、いや、人類では決して辿り着けない程の戦いが永遠とも思える程続き、遂に巨大な何かは2人の少年と少女の手によって敗れ、大地を砕きながら昏い地の底へと落ちていった。

彼ら、2人の人間と人の姿をした者達の勝利だ。

失われた物は、あまりにも大き過ぎたが…………、


世界は暗転し、場面は変わる。

失われてしまった物の中に、存在もいたらしい。

その者は世界との接続が切れてしまう前に、打ち倒された怪物の一部を封じた後、残った身体の一部を世界の修復へと当て、自身の子らへある物を作るよう指示を出した。


生命を浄化する場所を。

もう一度同じ事が起きないように……。

その場所が出来るのと同時に、彼、または彼女はその場所を管理する者を生み出した。

俺がよく知る、黒い羽に身を包んだ男を………。

そして、その者が誕生して更に後に、やはりというべきか、これまた俺がよく知る3人が生まれた。


再び世界は暗転し、俺は元いた場所に戻される。

先程と同じ、何も無い世界。

違うのは、


金色の装飾の入った、ゆったりとした服を着た誰か。

男なのか、女なのか……そもそも、性別など存在しないようにも思える。

表情筋など存在しないような、それでいて全てを見透かすような、無機質な表情と金色の瞳。

そんな顔で、その誰かは俺を見ていた。


誰なのか、と声が出せないまま問い掛ける。


―――――。その誰かは、言葉すら持たない、とでも言いたげに変わらない顔で俺を見つめている。


お前は………、そう問いかけようとした時だった。


『いい加減に起きぬか、馬鹿者めがっ!!』


聞き慣れた声による罵声と、顔を焼く熱によって、俺の意識が強制的に現実に引き戻されたのは。

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