甲高い鳴き声を上げて襲いかかってくるゴブリン達目掛けて、私は中級光魔法であるフォトン・ウェーブを全力で発動してそれらを薙ぎ払う。
放たれた光の奔流によって魔族だけでなく、草木や大きな岩もそれに巻き込まれて吹き飛んでいった。しかし……、
パキンッ、と乾いた音がして手元で杖が折れ、それを見て私は顔を顰める。
(たかだか中級魔法一発を全力で撃ったくらいで……!)
私が戦闘が下手な理由……それは力加減がまったく出来ず、いつも杖を壊してしまうからだ。
座学ではちゃんとした成績を修めてはいるものの、戦闘術の授業に関しては先生どころか特別講師で来てくださった王宮の騎士様や魔導士の方々でさえも頭を悩ませてしまい、最終的には匙を投げられる始末だった。
故に私は複数本、杖を持ち歩いている。
初めは学園が――私の能力調査目的も込みで――ミスリルやチタン、果てはオリハルコンやアダマンタイト製の杖まで用意してくれたのだが、精々数時間、よくて何日保つか程度で破壊してしまうので、学園が厚意で質の良い物を無償で用意してくれるのも構わず安価な杖を何本かと、念の為にと強い杖を一本、持ち運んで使用する様にしている。
魔銃を持っているのも、杖が無くなった時の為だ。
加えて、指導してくれた方達が頭を悩ませる理由はもう一つある。
それは私が………
「えぇいっ!!」
「ぎぁっ!?」
砕けた杖の先端部分を顔面に投げつけられたゴブリンが悲鳴を上げる。
そう、私が乱暴な戦いばかりをするからだ。
私は適正や得意な魔法の関係上、将来的には神官職に立つつもりでいる。それでなければ魔法使いなどの後方支援か……。
だというのに、ある日急に魔法のコントロールが出来なくなった私はそれを補う為に戦い方を変えた。
魔法を放って使えなくなった杖は用が無くなれば投擲物や他の手段で消費するし……
「………フォトン!」
「ガぅッ!?」
初級魔法のフォトンを放つでもなく、拳や足に纏わせて魔族を殴り倒すので「もう格闘家になった方がいいのでは?」と指導に来てくださった神父様にまで真顔で言われてしまった。
挙句の果てには、私を笑いに来た上級生をそれでボコボコにしてしまった為、その認識は学校全体に広まってしまい、遂には「王立魔法学園のやばい女」と悲しくなる2つ名まで付けられてしまったのだ。
多少の余裕が出てきた為か、そんな事を思い返して一人嘆きながら、抜け出る方角にいるオークとコボルトの群れ目掛けて、今度は新しい杖を取り出してフォトン・ブラストを叩き込んでいく。
杖は砕けはしなかったものの、次の魔法を撃てば壊れてしまいそうなので、それを左手に持ち替えたあと、転がっているコボルトの死体からシミターを奪い、フォトン・ブラストで仕留めそこねたオークの首を落とし、次の獲物目掛けて更に駆けていく。
「グオォオオッ!!」
「やあぁ!!」
立ち塞がるオーガ目掛けて、手にしたままの壊れかけの杖に、わざと壊れる程の魔力を注ぎ込んでから、その杖を思いっきり投げつけると、杖は大爆発を起こし、オーガとその取り巻きを爆炎に包み込んだ。
それでもどうにか耐えきり、よろよろとこちらに向かってくるオーガに腰から下げた魔銃を数発、その首目掛けて撃ち、脆くなったその首をシミターで斬り裂いて、更に私は走っていく。
その直後、「ドォンッ!」と背後で爆発が起きたが、先程こっそり設置した魔道具だろう。こちらを追ってきている大量の魔族が吹き飛んでいた。
ひたすら森の出口目掛けて走りながら、自身の置かれている状況を確認していく。
今のところ怪我は無いし、魔族も思ったよりかは大した事はないけど、状況は寧ろ悪くなっている。
「急がなきゃ……っ、」
探知も片手間に行っている為、気付いていたのだが、これまで動かなかった3つの気配の内の一つが急に動き出したのだ。
一方向に絞って動いてる分、もう少しで森からは抜けられそうな位置にいるけど、相変わらず魔族の追撃はある。このままでは武器も魔力も保たない。
どうすれば……、と思いかけたその時、更に事態は動いた。
2つ目の気配も動き出したのだ。
そして、その気配の方向を向いた直後、無数の