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第7話 「大量発生」


翌日、私はルーリア渓谷へと来ていた。

学校の課題である渓谷の生物、植物調査のレポートの為だ。

本当は友達とやりたかったところだけど、学校の休みに合わせて家族と予定を入れてしまっていたらしいので、残念だけど私一人で調査をする事にしたのだ。


魔道具で生物とかの写真を撮ったり、植物の種などを預かっている試験管、袋に詰めては収納魔法に入れていき、集めた情報、補足事項、自分用のメモをノートに書き記していく。

私が指定された区画はそこまで広くはなく、本来なら数日に分けてやろうと思っていた作業も、気付けばもう殆どが終わっていた。


「それに、気付いたらもうこんな時間だし、大分深くまで来ちゃってるな……。」


集中し過ぎたせいか、指定区画の範囲外の少し過ぎたところまで来ていたので、懐中時計を開いて確認すると、もう夕方に差し掛かるところだった。

私は王都の寮で一人暮らしだし、申請さえ通しておけば門限などは心配はない。一応、外出時に申請は出してはいるけど、わざわざ今日中に片付ける内容でもない。

というよりも、屋外での作業は全て終わってしまっていたので、あとは学校でやったとしても余裕で間に合ってしまう。


平原に住む魔族を一々相手にしてまでする作業でも無いので、素直に帰り支度を整える事にした。

そんな時だった。


念の為にと広げていた魔力探知が異様な数の気配を捉えたのは。


「………なに、この感じ……!?」


形容し難い気配、というよりも滅茶苦茶な数の気配が押し潰すように辺りに充満する。


(さっきまでは何も感じなかったのに、どうして……!?)


それでもどうにか冷静に、感じた気配を分析すると、感じる気配の種類は魔族のそれとあと3つ。

しかし、その3つは今まで戦った事のあるどれにも該当しなかった。


「私が戦った事があるのは中級クラスの魔族まで……、でも、それも違う…………。」


王都魔法学園の生徒は戦闘授業、またはギルドでも、中級までの魔族の討伐は行っている。

しかし、感じたそれは中級などではなく、それに加えて故郷の大人が相手していた上級から特級魔族の気配ですらないし、当然ながら下級でもない。ならば……、


「高位魔族………?」


自分で言って全身が泡立つ。

高位魔族は特級魔族の更に上、最高位の存在と呼ばれている。

魔王直属の部下である為、私ではどうにもできないし、下手をすれば王国軍ですら倒す事は出来ないかもしれない。


人魔戦争の記録によれば、当時存在した3体の高位魔族は既に死んでいる可能性もあるらしいが、それとは別個体が元々いたとしてもおかしくはないし、新しく生まれている可能性だってある。


あとの2つの反応に関しては本当に見当が付かない。内1つは人に近い気もするが、何かが混ざり合った気配を感じるからだ。

いずれにせよ、どうこう出来るものではないし、すぐに王都に戻ってこの事を街の憲兵なりギルドなりに伝えなければならない。

逃げなければ。と、有事に備えて走り出す。

だが………、


「嘘でしょ……!?」


ここから逃げなければ、と考える私を嘲笑うかのように、探知魔法は無数の魔族がここを目指してる事を知らせた。

気配遮断をかけてどこかに隠れようにもタイミング的に間に合わないし、そもそもこの数では不可能だ。


「もう、やるしかない……。」


諦めて、収納魔法から杖を取り出して構える。

杖は収納魔法にしまってある予備も含めて6本。魔銃の残弾数は30。設置型の魔道具は4。


生き延びるためには、ただ一つ。

幸いにも、正体不明な気配は消えはしないが今のところ動く様子も見られない。

感じる魔族の気配も、何故か100近くはいるが、そのどれもが大きくて中級止まりだ。


目の前にようやく現れたゴブリンやオーク達を目にして武器を握り直す。

戦闘は自慢じゃないけど得意ではない。それでも、最早やるしかないのだ。


「3つの気配が動く前に、ここから逃げなきゃ……!」


襲いかかってくる魔族の群れに、こちらからも仕掛けながら、僅かにだけど一昨日の事や昨日の夜の事が過る。

倒され、存在しない筈の破壊神や高位魔族の事が………。



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