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第4話 「アルシアはもうオネム」


「そぉらぁっ!!!」


押し寄せる暴走魔族の大群を、俺は切断魔法を乗せた「無銘の鎖」を振り回して両断していく。

この鎖も間違いなく神器アーティファクトの一つだが、残念ながら何なのかは俺にも分からない。

魔法、神術を乗せればそれに応じた能力を発揮するし、無限に伸びて、無数に拡散する。

当然ながら本来の鎖としての機能も有していて、壊れる事なく何もかも繋ぎ止める便利な鎖だ。


バフォロスを巻き付けた鎖を群れの中央目掛けて投げ飛ばすと、刀身は再びモヤに包まれ周囲の餌へと喰らいついていく。

敵陣が総崩れになるのを確認すると、フレスベルグはそこ目掛けて駆け抜け、魔族の尽くを斬り伏せていった。


「アルシア、こちらはもういい。君はニーザを。」

「あいよ。」


フレスベルグの指示に短く答えてから剣を拾い、なんの許可もなく竜化したニーズヘッグの背中に跳躍して着地する。


「ちょっと!レディーの背中に許可なく乗っかるとかどういう了見よ!」

「そう思うならもう少しナイスバディにでもなるんだな、ぺったんドラゴン。」

「むきー!今すぐここで噛み砕くわよ、この白チビ!!」

「分かった、冗談だ謝るよ。取り敢えず……」


怒っているニーズヘッグを宥めつつ、その身体に予め用意していた生命修復魔法を掛けていく。

人間の身体に使う回復魔法は魔族には効き目が薄いが、生命修復魔法ならば癒すことは可能だ。

面倒だからと身体の頑丈さに任せて暴れて出来た傷や砕けた鱗がみるみると治っていき、それを見たニーズヘッグがきょとんとした顔で背の上にいる俺に視線を移した。


「……レディーなんて言うなら、少しは自分の身体を大事にしろよ。竜化すると面倒くさいからって理由で物理メインで戦うんだからよ。」

「ふん、余計なお世話よ。………でも、ありがと。」


ぶっきらぼうに返されるお礼を聞いて苦笑しつつも、その場を離れて最後はフェンリルの元へと向かう。

しかし、辿り着いた時には殆ど全てが倒されており、残った付近の魔族を鎖で斬り裂きながらフェンリルの隣に立つ。


「相変わらず便利な鎖よな。」

「お気に入りを2つほど無くしたからな。その分、働いてもらうつもりだよ。」


ここに来る前、王都で戦う仲間に手持ちの武装を2つ渡している。

無くなってすこしばかり不便ではあるが、その分、この鎖やバフォロスを主体に戦えばいい。


「まあ、それはいい。取り敢えずこれで……」

「ああ、暴走した魔族の全ては全滅した。七日と暴れる羽目になったが、これで一先ず安心じゃろう。」


ルーリア平原……いや、もはやルーリア渓谷と呼んだほうがいいレベルで原形を留めない程破壊されたその場所には夥しいという言葉ですら可愛いと思えてしまう程、魔族と人間の死体が転がっていた。


七日も寝ずに戦って、くたくたの身体で伸びをしてから、フェンリル達に向きなおり、俺はずっと言いたかった一言を口にする。




「取り敢えず………もう寝ていい?」




この戦いが後の世に於いて、人魔戦争と呼ばれている事を俺が知るのは、俺が目覚めた後。

つまり……、遥か先の話である。



―――――――――――――――――――――


第0章「人魔戦争編」・完




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