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第3話 「高位魔族」


目を焼くほどの光が迸り、暴風が戦場を抉るように駆け抜ける。

断末魔も破壊音も、死の奔流が全てを消し去り、何も聞こえない。


光と暴風が収まり、目の前に広がるのは平原ではなく渓谷だった。

美しい平原だった痕跡など何処にもない。

俺を包むように存在した黒いモヤも霧散し、先程まで暴れていたバフォロスも沈黙している。

もう充分だから、あとはお前が何とかしろとでも言わんばかりに、だ。


「まったく……、だからお前の本気の食事に付き合うのは嫌なんだよ。」


刀身から立ち昇る煙を振り払って文句を言った後、収納魔法に仕舞う。


バニシングフィールド。バフォロスが魔力を喰らうことで発動出来る大規模魔法だ。

普段はここまで酷い威力ではないが、それは喰らった物が原因だろう。

暴走した魔族を喰らう事は時折あるとは言え、こんな数を食い尽くした事は流石に無い。


腹が減ったと言うから食わせれば、喰らった分を吐き出す。

それでいいのかと昔、問い詰めた事はあったが煩いとばかりに小さな黒いモヤが頭に噛みついた後にふて寝してしまった為、圧し折りたい気持ちを我慢して追求するのを止めた。

まあ、魔装具の破壊なんてしようものならとんでもない事になるので、実際はやらない。労力に対して何のメリットも存在しないし。


バフォロスは早くてもあと一時間は起きない。

再びアダムの書を開いて加害範囲外から尚も俺を殺そうとする魔族相手に構えるが、遥か彼方から大きな力の気配が動くのを感じて俺はそちらにも意識を向ける。


襲いかかってくる魔族に目を向けることもせず、魔族達の首目掛けてピンポイントで空間切断を発動していく。

攻防両方、そして燃費に優れた神術であり、指を弾くと同時に魔族の首は空間每落とされ、瞬く間に絶命していった。


「これでしばらくの間は集中出来るな。気配は3つ。俺の予想が正しければ、間違いなく……」


言い切る前に、目の前に強大な魔力反応がまだ降り立った。


最初の1つは、和風の衣装を身に纏い、白銀の居合刀を携えた寡黙そうな灰色の髪の青年。


2つ目は竜の角、大きな翼、尾を持つ露出の多い黒髪赤眼の少女。


最後の3つ目は、額に4つの剣が合わさったような十字の紋章を持つ、三又の尾の巨大な狼。


面識のあるコイツらを見紛うはずなどない。

敵ではないため、構えを解いて向き直る。


「フレスベルグ、ニーズヘッグ、フェンリル……。高位魔族が3人も揃ってお出ましとはな。」

「一番魔族の反応が多い平原で単独で戦うとは、随分無謀だな、アルシア。」

「そうよ、アルシア。いくらやらなきゃいけないとはいえ、どうしてアタシ達が来るまで待てなかったのよ?」

「あー、いや………。いきなり魔族に背後からぶっ飛ばされたから頭にきて………、そのまま?」


殴られた怒りで手当たり次第、暴走魔族を倒していたらいつの間にか平原の真ん中にいた、と誤魔化すように苦笑を浮かべる俺に、ニーズヘッグは「アンタはまったく……、」と呆れたように溢してジト目を俺に向けた。


「取り敢えず、アンタは変な無茶しないの。ここからは4人で行くわよ。」

「分かってるよ。こんなしょうもない事で死ぬつもりも無いからな。」

「素直で嬉しいよ、アルシア。君が暴走魔族のど真ん中で単独で戦ってる、と分かった瞬間にニーザが大慌てで早く行くぞ、とうるさかったのでな。」

「ちょっと、フレス!?ち、違うからね、アルシア!!」


顔を真っ赤にしてフレスベルグに掴みかかろうとするニーズヘッグに曖昧な返事を返して、視線を逸らす。

下手に突っ込めば俺がこの場で炭にされる。

そこで俺は、先程から黙っている青色の耳と尻尾を持つ白銀の狼に目を向ける。


「…………怒ってるか、フェンリル?」

「勿論。ただし………、」


恐る恐るそう聞くと、フェンリルは初めからそう言うと決めていたと言わんばかりに即答して、その四肢に蒼い炎を纏わせる。だが……


「説教は全て終わってからじゃ。よいな、アルシア。」


フェンリルは三つの尾から無数の光線を放つと、再び周囲に集まってきた暴走魔族を纏めて屠りながら走り去っていく。


「後でかぁ…………。」


どうやらお説教は確定らしい。

暴走魔族達の殲滅をしながら遠ざかっていく銀狼の姿を眺めながら、俺は憂鬱な気持ちで武器を構え走り出した。

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