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災い起こしのアルシア―二つの災厄と忘れられた墓標―
災い起こしのアルシア―二つの災厄と忘れられた墓標―
時計屋
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年12月17日
公開日
8.7万字
連載中
第4回NSP賞参加しています。
応援してくださると嬉しいです!(^^)

人類の絶滅という形で幕を引こうとしたこの戦いを防いだのは「災い起こし」と呼ばれる白髪の少年、アルシア・ラグドと3人の高位魔族だった。
しかし、その4人は大規模侵攻の終わりと共に人知れず姿を消してしまい、悪意ある者の手によって彼らの存在は悪として後世に語り継がれてしまう……。

それから1000年後………。
ファルゼア王立魔法学園生徒である一人の少女、アリス・リアドールはある出来事から歪められた歴史の中で悪の存在として語られているアルシアと高位魔族の一人、フェンリルと出会う。

災い起こしのアルシアと魔狼フェンリル…………、

2人が表舞台に姿を現した事によって、物語は再び動き出すのだった………。


第1話「争う事に、何の意味があるのか。」


始まりの大陸、ファルゼア……。

勇者マグジール一行の手によって魔王が滅びたあの日から数日後………、

王が失われ狂暴化、そして異常なまでに強化された夥しい数の魔族の手によって、戦う力を持つ者と持たない者、例外なく多くの人間が殺され尽くした。

大陸に存在する村や町も暴走する魔族の手によって破壊し尽くされ、残っている人間は唯一無事だった王都ファルゼア、その城壁の中で死を待つ人々と戦場で戦っている者達だけという状態になってしまった。




◆◆◆


場所はルーリア平原。

本来であれば、何もないという程に静かなその場所も、今は耳を塞ぎたくなるような恐ろしいいくつもの音に包まれている。


自我を失った魔物達の咆哮と断末魔。

それに抗う騎士や魔導士、剣士達の戦う声、指揮を取る声、そして多くの悲鳴と泣き声、破壊音。


何処までも続くのではないかと思える程の美しい平原も、今や血と火炎に染まり、あちこちが大きく抉れており、もはや地獄という他にない程の惨状だった。


声を発する暇もなく頭が吹き飛ぶ巨体、ゴリッ、ゴリッ、と何かを咀嚼する音、怒りのままに細切れにされる異形の者、槍のような尾で敵対者を貫く魔人……


どちら側であろうと生命の存在を許さないその場所に、俺は立っていた。

名はアルシア・ラグド。

そんな地獄の中で一人戦うことを選んだ哀れな魔導士、それが俺だ。

消えゆく命を悲しむような表情で、俺は呟く。


「どうして…俺達はこうまで殺し合うのだろうか……。」


誰に言うでもなく、そんなしょうもない事を呟いて、馬鹿らしくなって溜め息を吐く。

……いや、考えるまでも、悲しむフリをするまでもない。

こうなったのは俺達の話を一っっっつも聞かなかったあのバカな国王とカッコつけたがりな勇者一行が魔王と呼ばれた彼を殺したからだ。

自覚があるのか無いのか……、くだらないとしか言えない自身の見栄と悪意を押し通した。

何をされようと人間を滅ぼす意志をこれっぽっちも示さなかった彼を殺せば、それはこんな大惨事にだってなるだろう。

自業自得もいいとこだし、人類滅亡レベルの巻き添えなんていい迷惑どこの話ではない。


神界、人界、地界グレイブヤード間で締結された三界条約を読まなかったのか?いや、読んでないのだろうな、アレは。

死んでいった者達にも抗っている者達にも悪いが、人類は一度滅亡一歩手前か、もしくは本当に滅亡する方がいいのかもしれない。

都合が悪くなければ、こうやって動ける者達に丸投げした挙げ句、ろくすっぽ対策らしい対策も出来やしない。

どうせ、あの愚かな国王はこの戦いが終わった後、自分は悪くないと開き直って玉座にしれっと座っているのだろう。

そう考えるだけでも腹立たしいし、馬鹿馬鹿しい事この上ない。

少し悩んだ後、ある魔法を使う事にした。


「……アホらし。長い昼寝でもするか。」


冬眠魔法。指定した時間まで自身の時間を凍結、封印して眠りにつく魔法だ。

眠る時間は500年くらいにしよう。誰も自分の事を知らない時代で戦わずに平和に過ごしたいし……。

愛剣を地面に突き刺し、手に持った鎖の先を宙に放り投げて魔法の準備をする。

「ふわぁ…」と大きなアクビをして、起動の為の術式を次々解凍していくのだが……


「ガアァァァァアアアアッ!!!!」

「ぐっ!?」


凄まじい咆哮が背後から聞こえ、常人なら粉々になりかねない膂力で後頭部を殴られて前のめりに倒れたあと、草原を転げ回った。

鎖を巻いた手で後頭部を擦りつつ、俺は背後を見やる。

そこには、地平線の彼方まで埋め尽くす程の数の魔族が立っていた。

主戦場がこのルーリア平原というだけで、魔族の大規模侵攻は各地で起きている。

百なんて単位では利かないだろう。恐らくは千……いや、それ以上はいるのではないか。


「コルルルルルルルルルルルル………」


俺を殴ったであろう大型の魔族は涙目の俺を嘲笑うように唸りながら見下ろしていた。


そうして、それを見た俺の口の端は段々と引き攣っていき………


「畜生テメェ!この野郎っ!!!!」


地面に突き刺した剣を引っこ抜いて構えつつ、寝るのを邪魔しに来た愚か者共に罵声を浴びせながら、俺は売られたケンカを買うのだった。



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