夜空に舞う七色の輝きに目を奪われていた私たちは、その光がゆっくりと中心に集まり始めるのを目にした。異なる色彩が互いに溶け合い、学院の中心へと吸い寄せられるように流れ込んでいく。その動きは、まるで世界が息を潜め、その瞬間を見守っているかのようだった。
すべての光が一つに収束した瞬間、輝きは増し、空間全体を神秘的な光の柱で照らし出した。その光は次第に形を変え、眩い閃光とともに圧倒的な存在感を持つ巨大なクリスタルが現れた。
七色に輝くクリスタルは、その表面に無数の光の軌跡を宿し、見つめる者を深淵の中へと引き込むような奥行きを湛えている。透き通るような輝きの中には、過去と未来が交錯し、凝縮された時間の流れが垣間見えるようだった。そのあまりにも神秘的な光景に、私たちは言葉を失った。
「な、七色に輝く…クリスタル…!」
ミレーユさんが小さな息を呑みながら呟く。その声には、圧倒的な美しさに心を奪われた感動が滲んでいた。彼女の瞳は潤み、クリスタルの輝きが反射してきらめいていた。
「なんだ、これは…」
ヴィクター先輩は驚きと困惑を含んだ声で呟きながら、ゆっくりとクリスタルに手を伸ばした。その先には、彼が聖天の魔道師団に加わり、人々を導く姿が映し出されている。「こ、これは…未来なのか…?」
その声には、期待と畏怖が入り混じり、未来の自分を前にした戸惑いが滲んでいた。
隣では、ニア先輩がクリスタルを見つめ、柔らかな微笑みを浮かべている。「おそらく、これはマナが示す未来の可能性の一つだろうね」と囁くように言いながら、自分の未来に映る光景をじっと見つめた。そこには、道場で教え子たちに稽古をつける彼女自身の姿が映っている。
「え…!ボク、武闘家で師範に?」
ニア先輩は驚きの声を漏らし、思わず肩を揺らして笑った。「このまま今年、学院を卒業できるのか心配になっちゃうね」と冗談交じりに笑う彼女の姿に、私たちも自然と微笑みを返した。
私もクリスタルに引き寄せられるように近づき、その奥に広がる光景を見つめる。そこには、赤いコートを纏った男が双剣を握り、私と背中合わせで戦っている姿が映っていた。(…この人、誰なんだろう?私もいつか学院長みたいに、冒険する日が来るのかしら…)。
七色の輝きは私たちの心にさざ波を立て、それぞれに新たな道を示していた。その中で、私は隣に立つミレーユさんにそっと声をかけた。「どう?何か見えた?」
ミレーユさんは小さく頷き、少し震える声で答えた。「あ…あの…アタシの帰国までに、無事に間に合いました…アルマさん、ニア先輩、ヴィクター先輩、本当にありがとうございます…」
その言葉に、私たちは一瞬息を呑む。そうだ、ミレーユさんは夏の終わりと共に、遠く西の大陸へ帰る。その短い時間が彼女にとってどれほど特別なものだったか、改めて気付かされた。
「何、これしきのこと、俺にとっては余裕だ」
「ボクも持ち帰る成果を作れたんだ。いいチームだったんじゃない?」
「ミレーユさんに助けていただいたからこそ、私もここまで来ることができたんです」
一人一人が言葉を紡ぎ、ミレーユさんは感極まり涙を流し始める。だが、その涙が光を反射する中で、彼女の表情に一瞬影がよぎった。怯えたように視線を落とし、小さな声で囁いた。「でも…ご、ごめんなさい…アタシ、この瞬間をずっと待ってたんです…」
そう言いながら、彼女は一度も使ったことのない無色のカードを静かに差し出した。その手はかすかに震え、彼女の決意の深さが伝わってくる。
「…無、展開」
その一言が響くと同時に、世界が白光に包まれた。眩しい光が空間全体を染め上げ、私たちは時間さえも止まったかのような静寂に包まれる。ただ、目の前に広がる光の奔流の中で、すべてがその輝きに飲み込まれていった。
─
第七不思議、ここに終幕。
次なる試練は“無”──
少女の無垢な願いが、天の審判に委ねられようとしていた。