夜の寮、私の部屋には静かな緊張感が漂っていた。窓の外には夜空が広がり、月明かりがわずかに差し込んでいる。小さなテーブルを囲む私、ミレーユさん、そしてニア先輩。七不思議に絡む引き籠りについて、私たちは今夜も考えを巡らせていた。
「引き籠りが七不思議の影響って考えていいと思う。でも、何の属性が関係しているのか、原因が何なのかはまだ掴めてないの。」私はメモを見つめながら言った。
隣でミレーユさんがノートをめくりつつ、小さな声で答える。「うん…その、何度か引き籠ってる子に話しかけてみたんだけど…『放っておいて』とか『聞かないで』って、誰も何も教えてくれないの…」
「そっか…」私は返事をしながら、彼らの異様な態度について考えた。単なる疲れや体調不良でここまで拒絶するのは不自然だ。そんな私の思考を察したかのように、ニア先輩が腕を組んで呟く。
「普通の体調不良で、あそこまで怯えるかな…やっぱり何か変だよね。」
その時、ミレーユさんが顔を上げて、少し戸惑いながら口を開いた。「うん…しかも、『見たくない』とか、そんな風に言ってて…まるで、何か怖いものを見せつけられてるみたいで…でも、本当に危険なものだったら、学院全体でもっと大騒ぎになるはずだよね?」
彼女の言葉に私は深く頷いた。「確かにね。もし怪物やモンスターが関係してたら、学院もすぐに対応するだろうし、他の生徒だってもっと警戒するはず。でも、彼らが怯えてるのは外からの脅威じゃなくて、もっと心の奥深くに関わる何か…そんな気がするの。」
部屋は再び静まり返り、それぞれが考え込む。もどかしさが重くのしかかるような沈黙の中で、ニア先輩がふいに手元を見つめながら言った。
「ねぇ、もしかしてさ…あの子たち、自分自身と向き合わされてるんじゃない?普段見ないようにしてる本心とか、隠してた部分を無理やり引き出されてるような…そんな感じ、しない?」
その言葉に、私ははっとして顔を上げた。「それだとしたら…もし、それが自分の本当の姿や見たくない部分を無理やり映し出すようなものだとしたら…『鏡』かもしれない。」
ミレーユさんが驚いたように目を丸くした。「か、鏡…?どうして、鏡なの?」
私は考えをまとめながら二人に向き直った。「例えば鏡って、自分の姿を映すだけじゃなくて、心の奥底に隠しているものや、目を逸らしたいものまで映し出すことがあるわよね。もし、ただの鏡じゃなくて心に触れる“特別な鏡”だったとしたら、そこに映るものに怯えて引き籠るのも、わかる気がするの。」
ニア先輩がゆっくりと頷き、視線を伏せた。「そうだね…鏡であれば、自分が見たくない本心や弱さも容赦なく映し出してくる。それに向き合うのは、きっと誰だって辛いよ。」
部屋の緊張が一層深まる中、ミレーユさんが視線を落としながら小さな声で言った。「そ…それに、もし闇の力が関係しているとしたら…その鏡が心に何か、直接影響を与えてるのかも…」
その一言に、私たちは息を飲んだ。「鏡」という存在が学院内で七不思議の一つとして潜んでいる可能性が頭をよぎる。
「よし…まずは学院にある鏡の場所を確認してみましょう。」私は意を決して言った。「そこから手がかりを探りましょう。」
私たちは机に広げたメモに、鏡がありそうな場所を書き出していった。大講堂、資料室、化学実験室…いくつも候補は挙がったものの、どれが七不思議に関係しているのかはわからない。焦りが胸にじわりと広がる中、私はふと呟いた。「でも、こんなに鏡があっては、どれが関係しているのか見当がつかないわ…」
その時、ニア先輩が顔を上げた。その瞳には、何かを閃いたような光が宿っている。
「そういえば…」ミレーユさんが、記憶をたどるように小さな声で話し始めた。「引き籠ってる生徒たちって、ほとんどが室内で活動する運動系の部活の子たちだったって…報道部の部長さんが言ってた気がします…。」
「室内…?」私は思わず声に出し、二人と視線を交わす。新たな手がかりに胸が高鳴るのを感じた。
「それなら、まず体育館を調べてみましょう。」私は静かに提案した。その場所が私たちを待っているような気がしてならなかった。
夜の寮はひっそりと静まり返り、月明かりだけが淡く部屋を照らしていた。その中で私たちは目を合わせ、次の謎に挑む決意を固めた。