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第41話 アリシア、妹に立候補する

「アリシア、今回もお見事だったわね。ワイバーンがあんなにあっさりと! その魔道具、すごいわね~」


「暴君! 暴君!」


「暴君最高!」


 防護フィールドの中に戻ると、ソフィーさんたちは完全くつろぎモードで焚火を囲んでいた。応援すらも適当だー!


「あのねー。スークル様ががんばっていらっしゃるんだから、あなたたちもちょっとは緊張感持ちなさいよ!」


 戦闘中なのにすっかり鎧や刀を外しておやつ食べてちゃダメでしょうよ。

 なんていうか……人として!


「でもオレっちたちにできることはないぜ?」


「そうだね……。スークル様もずっと見られていては迷惑だろうし……」


 そりゃそうだろうけどさ。なんかこう、あるじゃない? 一緒に戦っています感を出すとかね!


『オレのことは気にするな。人は戦いの後は休まねばならぬ。お前もよくやってくれた。しばらく休め』


 はいー! 全力で休ませていただきます! おやすみなさい!

 寝袋を出して……しばし睡眠を。


『いや、そこまで休まなくてもな……。あれだ。日乃本酒とやらを飲んでいてもかまわんぞ』


 え? 日乃本酒ですか? わたしは未成年なので! ほかの人たちにも日が明るいうちには飲ませないことにしているのでノンアルコールをふるまっておきますね! スークル様も何かお飲みになりますか?


『オレは今、結界修復のために女神力を練っている最中だから手が離せない。あとでもらうことにするよ』


 そうですよね! わたしったら気づかずに。手を使わなくても飲めるようにストローをご用意しますね!


『いや、そういう意味ではなく……。女神力練成中は飲んだり食べたりしない。これで伝わるか?』


 わっかりました! 女神力を練るって大変なんですね。わたしは暇な時にある程度練ったものを準備しておくので、あまり理解していませんでした!


『本来はそうしておくべきだ。しかし今回は急を要する事態で準備を怠っていた。女神としてあるまじき……イニーシャはどこへ行ったんだ』


 イニーシャ……様? もしかして、ここの結界を維持されていた女神様ですか?

 初めてお聞きするお名前!


『そう、イニーシャ。知恵の女神・イニーシャ。オレの妹分ということになっている』


 妹!

 女神様にも姉妹の関係があるんですね! ステキー♡


『もちろん血のつながりという意味ではないよ。誕生の過程でそのように定義されているという意味だ』


 ということは……義妹⁉ 危ない関係⁉


『いや……オレたちは女神だから義理や実といった関係は存在しない。お前の好きな薄い本とやらの想像の中に組み込まないでほしい……』


 なんと! スークル様は薄い本にも造詣が深いと! わたしも前世の知識として存じ上げているだけなので……やっぱりリアルに女神様たちの危ない関係を拝謁できると想像が捗りますね!


『邪な想像はやめてね?』


 ああっ、スークル様とまだ見ぬイニーシャ様! やはりイニーシャ様は知恵の女神様であらせられるので、知的で繊細でお美しい女神様なのでしょうねー♡ 凛々しいスークル様がイニーシャ様をそっと見守るお姿……ス・テ・キ♡


『いや……イニーシャはオレより背が高いし、力も強い……』


 えっ? それはちょっとイメージと違う……。


『イメージ、と言われてもな……。それはイニーシャに直接言ってくれないか。知恵の女神なのに、たいていのことを力で解決しようとするので困っている。オレに憧れて、ということだが理解に苦しむ……』


 やはりそこは知恵を使ってほしい……。

 でも、スークル様が慕われていることは間違いなさそうですね♡ お姉ちゃんのマネをしたがるなんて、妹の鏡です!


『そういうものか……よくわからないが』


 あのー、わたしもどうにかスークル様の妹的な扱いにならないですかね⁉ こんなかっこいいお兄さん……お姉さん……姉神様を持ちたいですっ!


『持ちたいですと言われてもな……。人間を妹にするわけにはいかないと……思う』


 思う⁉

 禁止されているわけではなくて思うだけですか⁉


『前例がないな』


 前例!

 それは逃げ口上ですよ!

 最初の例を作らなければ、前例がないのは当たり前です! 作りましょう! 歴史的な第一歩を!


『そういうものなのか……しかし人をな……』


 大丈夫です! わたし、人族じゃなくて転生人族ですから!


『あまり変わらない気がするが……』


 1回転生してますし、並みの人族よりもそこそこチートなステータスにチートなスキルを持っていますから大丈夫です!


『う~む。ほかの女神たちにも確認を取ってから返事をさせてもらおう……』


 わーい! ミィちゃんとマーちゃんとリンちゃんはきっと賛成してくれますよ♪ 早くスークル様の妹になりたーい♡


『あいつらはずいぶんお前に入れ込んでいるからな……』


 みんなやさしくてみんな好き♡


『しかし、今は女神力練成だ。集中するからしばらく休んでいてくれないか』


 はーい! 何かあればあなたの妹をすぐにお呼びくださいね♡


『まだ妹にすると決めたわけでは……』


 ふふふ。わかってまーす♡

 じゃあ、集中するお邪魔になるといけないので、みんなのところで待ってますねー。


 妹♪ いもうと♪ い・も・う・と♪

 スークル様かっこよすぎるぅ! ステキステキステキ! あんなお兄様がほしかったの!


『いや、聞こえてるから……さすがにこそばゆい』


 エッチ♡

 義妹の心の声は聞いちゃダメです♡


『まだ妹にすると決めたわけでは……イカン、全員ふせろっ!』


 それまで坐して女神力練成をされていたスークル様が立ち上がり、わたしに覆いかぶさる。


 その瞬間――。

 大地が激しく揺れた。


 わたしとスークル様は、足元に開いた大穴に吸い込まれるようにして落ちた。


 真っ暗闇の中を――。


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第六章 アリシアと北の大地~北部・孤児院訪問 編 ~完~



第七章 アリシアと女神・スークル 編 へ続く


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