『ミィシェリアの羽根と身代わり護符があれば、この空間にミィシェリアを呼び出せるかもしれないぞ』
えー、そんなことができるんですか⁉
空間が断絶されていていて、スークル様でも連絡が取れないんですよね?
『羽根は触媒だな。お前とミィシェリアを繋ぐ唯一のものだ。今は空間断絶によって途切れているが、それがわずかでもつながれば、そのつながりを辿ってこの空間から抜け出すことができるはずなんだ』
おっしゃっていることが理解できるようなできないような……。つまりどういうことなんですか?
『まずお前が死ぬ』
えっ⁉
『まあとりあえず最後まで話は聞け』
スークル様が鼻で笑う。
死ぬのはこわい……ですけど、とりあえず聞きます!
『死ぬと身代わり護符が発動する』
はい、そうですね? それで護符はわたしが死んでしまう身代わりになってくれる、んですよね?
『そうだな。代わりに護符が死ぬということだ』
そうですね。そこまではわかります。……で?
『使用された護符がどうなるかわかるか?』
えーと、役目を終えて消える? もしくはー、燃えるとか?
『消えるというのが見た目上は正しい。しかし、実際には消えるわけではなく、本来の持ち主――ミィシェリアのもとに戻っていく。身代わり護符が使用されたという結果を伝えるためにな』
なるほど? 領収書みたいなものかなー。「たしかに使用されました」と。
『これには非常に強い力がある。強制力と言っても良いだろう。死んでこの空間から脱出できないでいる魂たちとはパワーが違う。女神の行使する力で護符の使用結果を引き戻すわけだから、空間が断絶しているくらいは飛び越える、はずだなと』
「はずー⁉ ここにきて、はずって何ですか⁉」
はぁはぁはぁ。
思わず大声を出しちゃった。
ごめんごめん、魂ちゃんたち、そんなにビビらないで?
『確信めいたものはあるが、実際にこのような場面で使用されたことはないからな。やってみる価値はあると思うのだがどうだろう』
どうだろうと言われましても……。
そんな憶測だけでわたしは死にたくないというか……。
『実際には死なないぞ? 身代わり護符の力は強力だから、必ずお前の身を守ってくれることだろう』
ううーん。
そこだけ力強く念を押されましても……。
『ええい、じれったい! 今からお前を殺すぞ!』
うわっ、発言がすごく怖いっ!
女神様が言って良いセリフじゃないですよ⁉
『失敗しても身代わり護符が無駄に使用されるだけだから安心しろ!』
ぜんぜん安心できなーい!
ホントにただしく身代わり護符が使用できるかも怪しいし、使用できなかったらわたし、魂ちゃんたちの仲間入りですよ⁉
『その時は……責任をもってもっと良い世界に転生させてやるよ……』
絶対いやですよー! この空間からも出られないのにどうやって転生するんですかー⁉
『いちいち細かいヤツだな! ここから出るためにお前が死ぬ必要があるんだよ!』
うわー、堂々巡りだー!
なんかミィちゃんが言いたかったことがわかってきちゃった自分が怖い。
わたしとスークル様が意気投合したらやばい。
たぶんその通りだ。
今はわたしがしり込みしているからまだ何とかなっているような気がしているけれど、これで「いいですね、やりましょう!」みたいなテンションで進んだら、きっとこの空間も力尽くでぶっ壊して……あれ? それはそれで良いのかな?
『ごちゃごちゃ余計なことを考えていないで早くしろ。この間にも国が危険にさらされているかもしれないんだぞ?』
それは困る……でもわたしが死ぬのもなー。
「あ、スークル様は身代わり護符を持っていらっしゃらないんですか?」
『あるぞ』
なーんだ。
じゃあそれを試しにくださいよー。
『限られた信徒にしか渡してないからな』
「いや、さすがにこの状況ですし、わたしを信徒にしてくださったりは……」
『お前をか? そうだな~~~~~~』
えー、そこ悩むところ⁉ この異空間に囚われてから、運命共同体みたいな感じでずっと一緒にいるのに……わたし振られかけてる⁉
『ミィシェリアもマーナヒリンもリンレーもお前のことを気に入っているからな……ここでオレも祝福を与えたりした日には、あいつらの「ですよね♡」みたいな顔がな~』
お三方の顔を想像したのか、これでもかというくらいに渋い顔をなされている。渋柿を100個食べた後みたいに渋そうな表情……。
「もしかして、仲悪いんですか……?」
『そんなことはないんだが……あいつらに先を越されているのに釈然としないだけだ。……まあいい。グダグダ言っていても仕方あるまい。アリシア=グリーン、お前を信徒にしてやろう。たった今から戦いの女神・スークルの信徒だ』
「ありがたきお言葉感謝いたします」
膝をつき、首を垂れる。
『そういう儀式的なの好かん。ほれ、護符と羽根も渡しておこう。あいつらの手前やらないわけにはいかないからな……』
そう言って照れ臭そうに頬を掻きながら渡されたのは、ミィちゃんからもらったのと同じ身代わり護符。そして薄い水色をした美しい女神様の羽根だった。
「ありがとうございます! えーと、信徒になったからにはスークル様ってお呼びするのも他人行儀ですよね……スーちゃん?」
『馴れ馴れしいな……だが、ほかの女神のことも愛称で呼んでいるのだろう? 許す。今日からオレはスーちゃんだ』
わーい♡
スーちゃん! スーちゃん!
『なんだ。その……気恥ずかしいな。こういう信徒は初めてだ』
そうなんですか?
『オレは戦いの女神だから、信徒は軍所属の戦士か、冒険者ばかりだよ』
うへぇ。ガチムチおっさんばっかりですか……。
『おっさんばかりということはないが……みんな戦闘がどうの、相手に勝つには、魔物と有利に戦いを進める、みたいな話ばっかりだな』
筋肉のことしか考えてなさそう……。スーちゃんのことを愛称で呼ぶ信徒なんていない、ですかね。
『そうだな。だから新鮮な気持ちだよ。女神でも新しい経験をすることがあるんだなと驚いている』
へへ♡
わたしがスーちゃんの初めての人ですね♡
『お前、そういうところだぞ……』
スーちゃんが深いため息をつく。
「どういう意味ですか⁉」
『同性にも異性にも引かれるからやめておけよ……』
うわーん! マジダメ出しだー!
『……なあ、おい』
なんですかー! わたしけっこう傷ついてるんですからね!
『気づいたんだが、オレの渡した身代わり護符を使ってみて、ちゃんと身代わりが発動するか試してみたいんだよな?』
そうですけどー。1回試さないと、本番でホントに死んだら困るじゃないですか。
『この1回目で失敗したら、その時お前は死ぬわけだが、それで大丈夫か?』
「大丈夫なわけないよー!」
この作戦、早くも失敗だー!