わたしが抱きついたミィちゃんの体は、思っていたよりもずっと小さく……ていうか、わたしよりもちっちゃくなっちゃってない?
「わー、ミィちゃんの体が縮んじゃった⁉」
『お前やってくれたな……』
しりもちをついていたスーちゃんが立ち上がり、お尻の埃を叩いて落としている。
「わたし、何かやっちゃいました……?」
やれやれのやつじゃなくて、ホントにやっちゃった系ですか……?
「アリシアが私の手を引っ張ったので、スークルとの綱引きのバランスが崩れてしまいましたね。最後に私の一部がこちらの空間に千切れ落ちてしまったんです」
ミィちゃんが抱きついていたわたしの体を遠ざけるように離すと、手を広げて見せる。
ああっ! やっぱりミィちゃんがちっちゃくなってる! わたしの肩ぐらいまでしか身長がないかも。
これって……ミニィちゃん?
『せっかく空間がつながったのにな……まさか一部だけこちら側に落ちてくるとは予想できなかったが』
「アリシアの力が想像以上に強く……でも、千切れたのはスークルが最後まで手を離してくれなかったからですよ?」
『オレのせいか? 手を離すのが遅れたか。それはすまなかったな』
スーちゃんがミニィちゃんの頭の上に手を乗せて、ポンポンと撫でた。
「小さくなったからといって、頭をポンポンするのはやめなさい。それとアリシア、気にする必要はありませんよ。あちらの私はこれまで通りちゃんと存在しています。……たぶん」
たぶん⁉
「空間断絶の影響で、本体との接続が切れてしまいましたから、推測に過ぎませんが、あちらはあちらで焦っているでしょうね」
だいぶ他人事なんですが……。
「女神は概念ですから、こういったことはよくありますし、もともと各地で並列的に活動していますから問題ありませんよ」
またデュアルコアの話ですかー?
やっぱり女神様って人間とは根本的に違うんだなって思い知らされる出来事ですね……。千切れたり、並列稼働したり、ミニサイズになったり。
『しかし、もうミィシェリアの身代わり護符がないから、向こうの空間とつながる手段がないな……』
「そういう作戦だったんですね。一度ここの状況を教えてもらえますか? 私はまだ状況把握できていないので」
異空間に来たばかりのミニィちゃんに、これまでの経緯を話して聞かせる。結界の修復をしている最中に穴が開いて落ちてきたところの辺りから――。
「そういうことがあったんですね。2人とも大変でしたね。私が来たからにはもう安心ですよ」
ミニィちゃんが微笑みかけてくる。
いつもよりもずっと若い……というより幼さの残るミィちゃんの微笑み……これはこれでかわいくて好き♡
『ミィシェリア、具体的に何か思いついたのか? ぜひ聞かせてくれ』
「いいえ? 私が愛を持って2人を見守りますので、もう安心ですよ」
うわ、ノープランだった!
この状況で何のアイディアもなしに、100点満点のピッカピカの笑顔でいられるのはなぜなの⁉
『聞いたオレが悪かったよ……』
「ですね……」
ミィちゃんは愛の女神だもんね。心を癒してはくれても、空間を破壊してわたしたちを連れだしてくれたりはしないよね……。
『めでたく囚われの身が増えたわけだが……』
3人……千切れたから2.5人? あとどこかにいらっしゃるかもしれないイニーシャ様も入れると3.5人。
「あれ? もしかして、スーちゃんも千切れてここにいるだけで、本体はダメージを受けてない、とか?」
『残念ながらオレは本体だよ。結界の修復のために力を集約して事に当たっていたからな』
そっか……。
そうなると、イニーシャ様も同じ状況かなー。
『おい、警戒しろ。動きがあるようだ』
スーちゃんが低い声で呼びかけてくる。
動き? もしかして敵のですか?
『どうやら空間に穴を開けたことで、あちらさんに我々のことが脅威の存在だと認めたようだな』
「アリシア、わたしの後ろへ」
わたしはミィちゃんとスーちゃんの間に挟まれるように保護される。
ちょっとー、ミニィちゃんの翼がこそばゆいよ。
「千切れた分身なので、見た目を操作するのにリソースが割けないのです。翼をしまうことができずごめんなさいね」
ううん。いいのー。
天使っぽいミィちゃんもかわいいし、ミニィちゃんって感じする♡
「ミニィちゃんだなんてそんな……」
『おい、イチャついている場合じゃないって言ってるだろ』
スーちゃんの声で、現実に引き戻される。
わかってますよー。わたしだってTPOくらいわきまえられますから!
あ、わたしにも感知できた。
これは爆発的な魔力量ですね……。
それもかなり不快な、攻撃的に膨らんでいるのがわかる。
「これって絶対怒ってますよね……。間違いなく敵だなー」
ボス部屋に入った瞬間の恐怖感みたいな感じ?
あきらかに格上だわって感覚と、みんなで力を合わせて倒さなきゃっていう感覚と。
【こんにちは。パストルラン王国の諸君】
突如目の前の空間が裂け、わたしたちの前にそれは現れた。