「進むと言っても、先に明かりがあるわけでもないし。どれくらい行けばいいんでしょうね」
この洞窟なのか通路なのかもうまく把握できない道のようなものを、真っすぐっぽい感じで進んでいく。
一応、ライトサーベルの発光モードで辺りの様子は照らしてみてはいるんだけど、スーちゃんとミニィちゃんの顔が見えるだけで、ほかに目標物っぽい何かはぜんぜん見えてこない。
「わたし、ローラーシューズでひとっ走り行って、先を見てきましょうか?」
『単独行動は危険だ。焦らず固まって進め』
「そうですよ。危険ですから、スークルの後ろに隠れながら進みましょう」
そう言うミニィちゃんは、別にスーちゃんの後ろに隠れながら進んでいるわけではない。片方の手をわたしと、もう片方の手をスーちゃんと繋いで、両手をブラブラさせながら楽しそうに歩いている状態だ。
これってまるで、親子3人のお散歩みたいですね♡
『おい、ミィシェリア。緊張感がなさすぎるぞ』
「スークルは相変わらずまじめですね~。ここまできてしまったら、何か起きる時は起きますし……そうだ! ここは1つ、アリシアのラッキーに賭けましょうよ♪」
ええー。
なんか分身体になって、ミィちゃんの性格がだいぶ軽くなってない?
『分身体は思考回路も小さくなっているからな……。本来なら並列処理のために分身しているから、複数の分身体がいて初めて成立するんだ。分身体を単体で動かすことは想定されていない……』
つまり……。
「このミニィちゃんはちょっとおバカさん?」
「失礼ですね! 私は愛の女神・ミィシェリアですよ! みんなに愛を届けるのが役目。バカで務まると思ってるんですか⁉」
小バカにされて地団駄を踏んでいるミニィちゃん……かわいい♡
そっか、こうしてほっこりした小さな愛を届けているのね。
『それは……おそらく違うと思うぞ……』
えー。きっとそうですよー♡
『待て。どうやら向こうからお出ましのようだ』
「え?」
とくに何も感知できていないんですけど……あ、引っかかった。
スーちゃんから遅れること数秒。
わたしにもその魔力が感知できた。
さっきの黒い球とは違う魔力の塊。
圧倒的に強大で、でも先ほどとは違って敵意むき出しというわけでもない……のが逆に不気味かもしれない。
これがたぶん、あの黒い球が言っていた『殿』なんだよね。
スーちゃんやミィちゃんは普段から魔力を押さえていらっしゃるから、単純比較はできないけれど、本気を出しても勝てるか怪しい気がする。なんとなくの勘だけど。
『それはお前が心配しなくていいことだ。オレが何とかする』
スーちゃんのその言葉には少し焦りが感じられた。
つまり目の前の相手を、強敵と認めていらっしゃる、ということなんだと思う。
わたしにできることが何かあるだろうか。
アイテム収納ボックスの中に何かあったかなと、意識を内に向けた瞬間だった。
目も眩むような光量で辺りが満たされる。
目つぶし⁉
わたしは反射的に目をつぶり、スーちゃんの後ろに回って背中にしがみつく。
そしてミニィちゃんはいつの間にか、わたしの背中に同じように張り付いていた。
『問題ない。攻撃ではない。もう目を開けても平気だぞ』
スーちゃんの声は落ち着いたものだった。
わたしは素直に従い、恐る恐る片目の瞼を薄く開けてみる。
『これはなんだ……?』
あ、ここは――。
眼前に広がっているのは、とてもよく見知った風景だった。
「『龍神の館』のホールです……ね」
自分でそう言いつつ、わたしは自分自身の目を疑っていた。きょろきょろと辺りを確認。うーん、どう見てもソフィーさんのお店だよね。もしかして転移させられた? でも、人っ子一人いない……。
【失礼。殺風景だったものですから、記憶をお借りして投影させていただきました】
またしても脳内に響いてくる平板な合成音声。
投影ね。
つまり本物じゃないってこと。
「あなたがお殿様、ですか?」
お店の風景の中には、わたしたち3人のほか誰もいない。
【はい。あなた方の言葉で言うところの『殿』というのがしっくりくるのかもしれません。それでかまいません】
『そうか。では殿とやら、オレたちに姿を見せてくれないか』
【姿ですね。ではあなた方にわかりやすいように肉体を生成します。これでよろしいでしょうか】
わたしたちの目の前、ほんの数m先に音もなくぼんやりとした人影が現れる。
輪郭のぼやけた影。
それがだんだんはっきりと境界線を帯び、人型から人へと成形されていく。
数秒後、わたしたちの前にいたのは――。
「ステンソン⁉」
よりによってなんでアイツ⁉
あの石積みしか能のない兄弟子の姿に⁉