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第9話 アリシア、追加スキルを勝ち取る

「さあ、洗礼式は終わりましたよ。胸は狩られたくはありませんので、速やかにお帰りください」


 ミィシェリア様は自身の胸を抱いて、わたしに背中を向けてしまった。


 ちぇっ。なんか冷たいなあ。

 わたしはもっとミィシェリア様とお話ししたいのにぃ。


「あれー? 大切な信徒にそんな態度を取っていいんですか? あることないこと言いふらして評判を落としますよ?」


「あなた悪質なクレーマーか何かですか……」


「クレイマン? ママはそう呼ばれることもありますけど、わたしは土魔法は使えなさそうですよ」


 ミィシェリア様は頭を抱える。

 どうしたんだろ。わたしの小粋なジョークがおもしろくなかったのかな? あれ、もしかして、急な体調不良? 胸元を緩めたほうがいい?


「それは呼吸が苦しい時の対処法です。私が痛いのは頭です」


「んー、頭が痛いところ悪いんですけど、そろそろチート能力をもらえますか?」


 それさえもらえれば黙って退散しますから!


「チート能力?」


「はい、チート能力」


 さっきくれるって言いましたよね。


「ギフトスキルはすでに与えたと思いますが……」


「ギフトスキルのことじゃないです。チート能力の話ですよ?」


「アリシア、あなたはいったい何のことを言っているんですか?」


 おや? 女神様ともあろうお方が、とぼけていらっしゃるので? ご自分のおっしゃったことをなかったことにしようとしているのですかね?


「えーとですね。わたしが『チート能力をください』とお願いした時、ミィシェリア様はこうおっしゃいました。『わかりました。まずは先に洗礼式を終えてから、あなたの人生に必要な能力を授けます』とね」


 思い出しましたかな?


「ええ、ですからギフトスキルを――」


「それは洗礼式の一部ですよね?」


「そうですね。ステータスの解放とギフトスキルの付与が洗礼式の内容……なるほど、わかりました」


 ミィシェリア様は「しまった」という顔をした。

 ふふふ、思い出したようですね?


「たしかに、私は『洗礼式を終えた後』と言いました。そして今が」


「まさに洗礼式の後、ですね」


 つまり今が! チート能力をもらえる時なのだ!


「まったく、あなたという人は……」


 ミィシェリア様が深くため息をついた。でもどことなく楽しそう。口角が上がって見える。


「あれれ? ミィちゃん、ため息なんてついてると、しあわせが逃げていくよ?」


「はいはい、わかりました。あなたのずる賢さには頭が下がります。ですが約束は約束。女神が約束を違えることはありません」


 一瞬あがった口角も下がり、ただまっすぐとわたしのほうを見つめ、その言葉を伝えてくる。

 そこは良いも悪いも後悔も憂いの感情も一切感じられない。


 さすが女神様、というべきなのかな。

 女神様相手に引っ掛けるようなマネはやりすぎたかな、とは思うけれど……まったく反省はしていない!

 だってチート能力ほしいもん。


「それでー、わたしはどんなチート能力をいただけるのでしょーか?」


 ギフトスキルの『交渉』『構造把握』と組み合わせて使えるやつがいいかな?

 でも、やっぱり寝てても楽に生活できるやつがいいなあ。

 指先から無限にお金が出てくるとか?


「あなたって人は……。触ったものをすべて金に変える魔法はあるにはありますが……」


「さすがにそれは前世の記憶にありますよ……呪いの類ですよね」


 本はラノベしか読んでこなかったけど、さすがに有名な童話の内容くらいは知ってるよ!


「ええ、ですから私としても授けたくはないですが、アリシアがどうしてもと望むのであれば……」


「違うのでお願いします!」


 わたしとしても怒りに任せてミィシェリア様を金に変えてそのお金で豪遊はしたくないからね。


「あなたって人は……。女神に対しての敬意など少しはあったりしないのですか……」


「ありますとも! わたしほど女神様に熱い信仰心を持っている者なんていませんよ⁉ 将来の夢はミィちゃんとの結婚です!」


 決まったな。


「それは信仰心とは違うものなのではないですか……。それに女神と人間は結婚できませんよ」


「えー。前世の記憶によると、神話ではわりとよく女神と人間が結婚してましたよ? だからいけるんじゃないですか? 要はお互いの気持ちの問題というか、勢いで駆け落ちしてしまえば何とでもなるというか?」


 さあ、わたしの手を取って、誰も知らないどこか遠い国に行って、悠々自適な毎日を過ごしましょう。


「気持ちの問題も無理だと言っているんですよ」


 あれ? 今わたし、振られた?


「ひどいわ! ミィシェリア様は信徒のことがお嫌いなのね!」


「そうではなく……。と、あなたの話に付き合っているといつまででも時間が過ぎてしまいます」


「そんなにわたしとの会話が弾んで楽しいですか? まるで付き合ってるみたいだね?」


「ぜんぜん違います。時間の浪費です……」


 会話なんてもともと時間の浪費でしかないんだからいいじゃない! わたしはミィシェリア様とお話しするの楽しいし!


「あれ? どうしたんですか? 顔が赤いですよ?」


「なんでもありません。私は神託を下す身。会話が楽しいなどと言われたことはこれまで一度もなく……」


 なーんだ、うれしかったのね? 素直になりなよー。

 今この瞬間、この会話がとても楽しいのはわたしの本音だからね。もっともっとお話ししましょう?


「そういうわけにもいかないのですよ……。私は信徒たちに分け隔てない愛を届ける必要がありますから。……さあ、アリシア。あなたの人生に必要な能力を授けます」


 はいぃ! 何をもらえるんでしょうか⁉


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