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第40話 炎魔の太刀


 俺達は、作戦を実行に移した。

 アーゼル、、ラニアは倉庫奥側の大人を、俺は入口側の大人を相手する。

 つまり俺は目の前の大人をこの先に通しちゃいけないわけだ。


「あの小せぇガキが遊んでほしいとよ! 少し相手してやろうぜ!」


「よっしゃ、ぶっ殺してやる……ってあのガキ、何持ってんだ?」


 ようやく中の1人が気づいた。

 俺が手に持つ炎の剣を。

 そう、今一瞬にして魔法で構築したのだ。


 「……炎の、剣か?」


 男は見たままを口に出す。


「そうそう、さっきここで拾ったんだ」


「んなわけねーだろっ! もういい、あんなもん気にすんな。どーせみてくれだけだ!」


 俺の炎魔の太刀を、みてくれと。

 一応前世使ってた刀身のように薄く細い構造にして、反りや片刃風の形状とか、結構こだわり持って創ってるんだけどな。

 ……まぁ魔法と言われないだけマシか。


 あ、ちなみに名付け親はマオ。

 無刀【残影】やら《炎魔の太刀》やら。

 本人が気に入って付けてるようなので一応使わせてもらってるが、ちょっと……いやかなり恥ずかしい。


 なんて思っている間に、余裕ぶった大人がぞろぞろと近づいてきた。


「武器持ってんのがお前だけだと思うなよっ!」


 まず寄ってきたのは、懐から短刀を出してきた男。

 躊躇なく俺を刺さんと駆け寄ってきた。


 俺は迫る短刀の刃に標準を合わせて太刀を振るう。


 互いの刃が交わった瞬間、ジュッと焼ける音がして、短刀の刀身がカランッと地面に落ちた。


「……は?」


 男はすでに無くなった短剣の刀身部分を見て、目を丸くしている。

 その間に俺は、斜め下から斬り上げた。


「グ……ッ!」


 胴に斜め線の焼き跡ができ、そのまま男は後ろにぶっ倒れた。

 浅めに斬っておいたから死にはしないだろう。


「まぁ刺突で攻めてきたのは短剣として正しいけど、太刀とはリーチの長さが違うんだからもうちょっと警戒しないと」


 一応アドバイスしたけど……さすがに聞こえてないか。


「……なんだコイツ!? 躊躇なく斬りやがった」


 今の一撃で他のヤツらも警戒したらしく、ゆっくり後ずさり始める。


「まぁその、俺もできるだけ殺したくないからさ、よかったら降参してほしいところなんだけど」


 俺自身あまり戦う意思はない。

 別にコイツらに対して恨み辛みがあるわけでもないし。


「くそ、誰が……っ! これだけ人数がいて負けるわけがねぇ! 全員で行くぞっ!」


 今の光景を見て尻込みしつつも、1人の男の声に鼓舞されたようだ。

 再び戦意を剥き出しにして迫ってきた。


 大勢の敵に対して剣1本ではどうしても不利になる。

 それは剣聖と呼ばれた前世でも同じだった。

 そりゃいくら剣が速く振れたとて、同時に斬れる相手は1人なのだから。


 しかし今の俺、剣聖を過去に持つエリアスには大した問題でもない。


 そんな俺から言えることはただ1つ。


「マジで魔法、覚えといてよかったわ」


 この言葉がヤツらにしっかり届いたのかは分からない。

 だがその前に、この《炎魔の太刀》から放った赤い炎の斬撃が見事全員に命中していたので、俺の言葉なんぞ飲み込んで理解する暇なんてなかっただろう。


「……なんなんだよ、お前っ!」


 あのよく喋る男はそう言いながらゆっくりと立ち上がり、他のヤツらもぞろぞろと体を起き上がらせていく。

 一応手加減はしておいたので体は切断されることなく、びっしりと焼き跡の横線が入った程度。

 しかし奴らの目はまだ死んでいない。

 まだ立ち向かわんとするような敵意をひしひしと感じさせられる。


 これ以上は相手する時間もない。

 次の一手で諦めてもらえなければ、覚悟を持って殺していくことにしよう。


 俺は《炎魔の太刀》に高火力な炎を纏わせていく。

 さっきよりも熱く……熱く……もっと熱くだ。

 炎の色も赤から黄色、白と温度により彩りを見せていく。

 そして最高温度の青へと移り変わった時、奴らへひと声かけた。


「これを見てわかっただろ? さっきは手加減したんだ。今度は本当に殺すつもりで放つ」


 さてどうする?

 もう彼らにかまう時間もないので、敵意が見えた瞬間、速攻で撃つ。


「……こ、こんな危ない仕事だって聞いてねぇぞ! 俺は降りるっ!」


 そう言って1人はここから飛び出した。


「わ、私もっ! 死ぬのだけは勘弁よ!」

「お、俺もだ!」

「俺も!」

「じゃあ私も!」


 次々にこの場から出ていった。

 順に飛び出していき、最後に残ったのはやはりお喋りな男だけ。

 未だに鋭い視線をあててくるが、少ししてチッと舌打ちを鳴らした。


「……くそ、外は出てぇが命には変えられんか。俺も降りるぜ」


 最後の男がこの場から出ていって、ようやく一仕事終えた。


 俺はふと後ろを振り返る。

 アーゼルとラニアは大丈夫かと。


 彼らは未だ戦闘中。

 しかし一目で分かった。

 心配ないと。


 悪いが、先に行かせてもらう。

 イオナの婆さんが心配だ。


「あとは頼んだ!」


 俺はその言葉を吐き捨てて、外へ向かった。



 まず辺りを見渡す。

 やはり予想通り、俺達を運んできた竜車はどこにもなかった。

 まぁ仕方ない、走って行くか。


「クゥッ」


 すると何かが聞こえた。

 思わず振り返ると、そこには倉庫の影からチラリと覗く竜の姿。

 俺を見るなりドスドスと近寄ってきた。


「え、お前……」


 傍に寄るなりスリスリと頭を俺の体に擦り付けてくる。


「もしかして3年前、水をやったやつか?」


 記憶が定かではないが、モーリス率いる部下と戦ったあの鉄の荷台を引いてくれた竜に氣の流れが似ている。

 人も竜も氣の流れ方には個人差があるからな。

 見た目で個々の竜を判別できないため、これ以外の判断基準がない。

 だからこそ確信はないが、俺の直感が正しいと言っている気がする。


「クゥンクゥン」


 まるで正解だとばかりに頭をスリスリ繰り返す。


「はは、分かったって。それよりなんでお前ここにいるんだ?」


 俺がそう聞くと、竜は自らの脚で地面を後ろ向きに蹴り出した。

 しかもそれを何度も繰り返している。


「もしかして乗れって?」


「クゥンッ!!」


 今までで1番強い鳴き声。

 そして熱い眼差しを向けてくる。

 言葉は分からないが、気持ちはしっかり伝わった。


「ありがとうっ! 恩にきる!」


 俺は竜に飛び乗った。


「クゥゥゥンッ!」


 そして間もなく走り出した。

 しかも正しい方角で。

 コイツ、まるで行き先が分かってるかのよう。


「頼むぞ、竜……」


 いや、このまま竜ってのも変か。


「えっとじゃあクゥンクゥン鳴く竜だから『クウリ』でどうだ?」


「クゥンッ!」


 竜は駆け出しながらも活気良く鳴いた。


「そうか嬉しいか! よし、頼むぞクウリ! 俺を街まで連れてってくれ!」


「クゥンッ!」


 多分名前も喜んでくれたと思う。

 まぁ……分からんけどそう信じよう。


 そんなことを内心思いつつも、俺は街へ向かっていくのだった。

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