目が覚めた。
見覚えのない天井に蛍光灯。
それに……なんだ、視界にチラチラ過ぎる無数の光共は。
目がチカチカして気持ち悪い。
これが前世でいう『飛蚊症』ってやつなのか。
そんなことを思っていると、俺の耳に話し声が入ってきた。
「フィオラ! お友達が死んじゃってもいいの?」
女性の声,フィオラに怒声を放っている。
お友達……というのは俺のことか?
「よくない……。エリアスは大事なお友達。だからしたの」
したとかしてないとか、俺は何もされていないはず。
ナニだってしてないはずだし。
と、くだらない発想が出てくるだけ寝起きにしては頭がよく回転していると思う。
不思議と体のだるさもなくなった気がする。
「母さん,フィオラの行動をちゃんと見てなかった僕達も悪いんだ。この子だけを責めちゃいけない」
次は男性の声だ。
フィオラを庇うように間に入る。
「それは……そうね」
そして訪れる沈黙。
俺が目覚めて初めての空気感。
……正直気まずい。
せっかく起きたのに言い難い、そんな雰囲気だ。
しかし会話の流れからして、どう考えても俺が関わっている。
ここは無理にでも割り入ることでフィオラのためになるかもしれない。
そう思って俺は勇気を出した。
「えっと……ここは、どこ?」
知らない大人なので、ここはどう見ても4歳児だと言わんばかりの声、表情で体を起こした。
「い、生きてた……」
「まさか、適合したのか?」
そこには目を丸くしたフィオラ似の銀髪美女と優しそうな男性の姿。
「わぁぁん、エリアスごめんなさいぃ」
フィオラは大人の声を掻き消すほどの泣き声でベッド上の俺に飛びついてきた。
こんな乱れた彼女は初めてだ。
いやしかし、フィオラも歳でいうと5歳。
初めてできた友達が自分のせいで死ぬなんて、さすがに内容が重すぎる。
例え大人だとしても立ち直れないレベルだ。
今、俺の視界には泣きじゃくるフィオラにとホッとする大人2人がいる。
とりあえずこの場の空気は平穏を取り戻したようだが、この状況はなんなのか知りたい。
が、フィオラが泣き止むのが先だ、そう思って静かに頭を撫でてあげた。
するとしばらく経って彼女は俺の胸の中で眠りについたようなので、本題を大人方に確認しようか。
「エリアスくん、だったかな? 娘が本当に悪いことをした。君が生きていてくれてほんとうによかったよ」
そう思っていると、男性の方から声をかけてくれた。
話を進めやすくて助かる。
「えっと、これは一体どういう状況ですか?」
俺のシンプルな質問に、男性は答え始める。
まずこの2人は想像通りフィオラの両親らしい。
そしてここからは2人で話を、とお父様が言うと、お母様がフィオラを抱いて別室へ向かった。
「……じゃあ話の続きをしようか」
今からが本題ということで、
さっそく俺の体調不良ついてだ。
正直俺もそれが1番気になっていた。
結論から言うと、フィオラにもらっていた昼食のお弁当……ではなく、あの名もない飲み物だったらしい。
まぁあえて名付けるなら自家製ジュースとでも呼ぼうか。
実はあの自家製ジュース、フィオラの血液が微量に入っていたという。
おいおいフィオラさんや、何をしてくれてんだ。
たしか前世の知識でも型の違う血液型を輸血することは、体に異常反応を……ホニャホニャ言ってたような気がする。
それがどうだ、血液の型どころか種族の異なる生命の血を知らぬ間に分け与えられていたとは。
俺、死んじゃうよ?
あ、だから体調子悪かったのか。
少し遅れて俺の脳はそう理解した。
「エリアスくん、君の周りに宿る魔力が異常に喜んでいる。どうやら君の体はエルフの血に適合したみたいだね。……とは言ったもののそんな事例は今まで聞いたこともない。正直、僕自身まだ混乱してる」
「魔力、が喜ぶ……?」
ダメだ。
急に話がスゴい方向にいって脳みそがついてこない。
え、これ実はカルト宗教だったりしないか?
魔力をもっと喜ばすにはこの魔法の壺が……的な。
「あ、そうかごめん。一から説明がいるよね」
フィオラの父はポリポリと頭を掻きながら微笑む。
そしてそこからエルフの説明に移った。
どうやらエルフの血には魔力を視覚化できる力、魔力と同化する力が含まれているらしい。
魔力の視覚化ってのはなんとなく分かるが魔力と同化、とはどういうことだ?
説明を聞けば、魔力と一体化するということらしいが、今はまだ難しいことだからと話を流された。
「じゃあさっきから目に映るチカチカってもしかして飛蚊症じゃないんだ」
「……ひ、飛蚊症? いやそれよりも、エリアスくんにはもう魔力が視えるんだね。思ったよりも早くエルフの血に適合しているのか」
俺の思わず呟いた病名には一瞬引っかかりはしたものの、フィオラの父は俺とエルフの血の適合具合に興味津々といった様子。
そして少し間を置いてから、彼はこう言った。
「エリアスくん、頼みがある」
「えっと、なんでしょうか?」
かしこまったその姿に、俺もつい恐縮してしまう。
「これはこの件の罪滅しという訳じゃないが、ぜひ僕に稽古をつけさせてくれないか? エリアス君がエルフの力を正しく身につけられるように」
それは……むしろコチラからお願いしたいこと。
稀少なエルフ族の力、こればかりは父さんや母さんから教えを乞うのも難しそうだし。
「は、はいっ! こちらこそお願いします!」
俺は快く承諾したのだった。