「「「「ガルルル」」」」
俺を囲う10頭のブラッディウルフ。
今の状況、特段怖いことはない。
しかしだからといって為す術があるわけでもないのだ。
よく考えろ、俺が今できることは……。
「ガウッ!」
知能があるのか、様子見でまず1匹。
アホなのか賢いのか、単体での攻めは本当に怖くない。
「おらっ!」
俺は飛びつく狼の下を滑るように手刀で腹部を体に沿って斬り込んだ。
手にベッタリついた血、倒れたブラッディウルフ。
柔らかい腹部だったため、エリアスの手刀でもしっかり刃が通ったようだ。
よし、タイマンなら手刀はいけるな。
「ガルッ!」
さすがに今ので俺の事を完全に敵と認識したようで、1番大きい群れのボスみたいなやつが短く吠えた。
そしてそれを合図に狼全軍が突撃してくる。
「うわ、これはさすがに無理だっ!」
俺は持ち前の俊敏さで手前の木の中間地点ほどまで登ってみせる。
逃げるのなんてお手の物、元剣聖舐めんなよ。
……くそぅ我ながら情けないっ!
あと自分のできることといえば、剣聖時代と同じく氣を取り込むことでの身体強化。
しかしまだエリアス体としての熟練度が低いため、複数体を相手にするのは無理がある。
それと魔力に性質変化を加えることくらいか。
これはまだ魔法ってほどじゃ……いや、待てよ?
たしか前世、山で戦ったことがある。
あの時の敵はやたら姑息で、俺が残党を相手している内に仲間ごと燃やしてやる勢いで山に火を放ってきた。
ありゃもう困ったのなんのってんだ。
もう二度と自然に入るかって思ったね。
よし、燃やすか――
いやまぁ俺としてもこんな温暖化が進んじゃうような環境破壊したくないよ?
だけどこの世界の環境がどうとか4しゃいの僕には分からないのだ。
そしてさらに言えば、この『亡者の森』危ないらしく、毎年行方不明者を続出させているときた。
ならば燃やさぬ理由がない。
そうだ、燃やしてしまおう亡者の森!
「こ、こっちくるなよっ!」
「ロドスくん……っ!」
「や、やだ……」
しまった、俺が木に登ったせいでターゲットが他の子供達に切り替わってしまった。
エリアスのあほうめ!
俺は急いで子供達と狼の間に飛び降りる。
そして手に集めた凝縮していないエネルギーに、全力で炎の性質変化を加えた。
さすがにその立ち昇る炎エネルギーに警戒して、狼達は寄って来ようとはしない。
よし、今だっ!
そう思い、俺はその魔法とは呼べないただの塊を前に向かって放った。
大きさにして、およそ3メートル程度か。
普通の火くらいの威力があればいいが。
するとその火はまず木々に移り、それは大きな炎と化す。
狼はそれに怯えるように後ずさった。
「よし、なんとか燃えたぞ」
もちろんブラッディウルフにも火の粉は届いたが、あくまでこれはただエネルギーの塊。
熱そうな反応を示すも倒すまでとはいかなかった。
しかしモンスターとはいえ結局は獣。
烈火のごとく燃え盛る炎に恐れを成して逃げ去っていく。
「よし、俺達も逃げるぞっ!」
「「「え……?」」」
火を見てぽかんとする3人。
「え、じゃない。逃げるのっ! 燃えちゃうぞっ!」
「「「え、えぇぇぇっ!?」」」
ようやくガキンチョ達も事の重大さが分かったようで、一緒に駆けてくれた。
「火、消せるのかと思ってましたぁーっ!」
走りながらガリガリ君がそう叫ぶ。
「だよなぁっ! あんなスゴい魔法使えんだ、次はどーやって消すのかと思ってたんだぞ!」
それに続いてロドスも叫んだ。
「いや、そんな期待されても。あれただのエネルギーだし」
そう言うと突然視線が俺に集まった。
皆、なぜか目を丸くしている。
「そんなぁ……父様の炎魔法くらい威力あったんだけど」
走りながらロドスが肩を落とす。
「いや、今は集中して走れよぉぉっ!」
俺達は残りの道をフルパワーで走り抜けたのだった。
「な、なんとか外に辿り着いたな」
ようやく森から抜けられた。
俺達は、皆一様に乱れた呼吸を整える。
「……ねぇ。火が」
初めに声を上げたのは銀髪の美少女。
彼女は森の方を指差している。
「あれ? 火が止んでる……?」
おかしい。
あれだけ激しく燃えていたのだ。
あの勢いじゃあっという間に森全体行き渡っていてもおかしくはなかった。
だが実際はどうだ、俺達が入る前と同じ少し薄気味悪い、噂通りの『亡者の森』そのまま。
もしかして燃え盛るまでに時間がかかっているだけ?
そう思ってしばらく眺めていたが、景色は何も変わらない。
まぁ出られたんだし、細かいことはいっか。
もう入らなけりゃいいんだし。
他の子供達もそう思ったのか、ガリガリ君とロドスは俺に一言お礼を言って帰っていった。
ちきしょう、命助けたのに一言って軽いな。
まぁ何かがほしくて助けたわけじゃねぇけどよぅ。
「……まぁ俺も帰るか」
とまぁもうすでに夕暮れに近い。
親も心配するしそろそろ帰ろうかと踵を返し、森に背を向けようとすると、突然キュッと服の裾を引っ張られた。
振り返るとそこには銀髪美少女。
ここで初めて彼女の顔まじまじと見たけど瞳もすっごいキレイな青色、まるで物語に出てくるエルフそのもの。
「……私、フィオラ。フィオラ・ヴェリーシア」
あ、名前か。
そういえば自己紹介すらしてなかったな。
「あ、えっとエリアス・アールグレイです」
面と向かって名を教え合うなんて、エリアス史上初めての出来事。
しかもその相手が絶世の美少女ときた。
これで緊張しない4歳児はまぁいないだろうよ。
「えっと、その……」
言いにくそうに青色の瞳を泳がせている。
やはりお礼を言うのも恥ずかしい、そんな可愛い年頃なんだろうか?
それか私と友達になってください、とか?
どちらにせよ嬉しい言葉だ。
「私に……」
私、
想像してなかった助詞がきた。
もうこれ以上は分からん。
彼女の言葉を待とう。
「私に……魔法、教えてください」
お、おん。
なるほど、そうきたか。
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