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バニシング・ポインター
るみね らん
SFSFコレクション
2024年12月16日
公開日
22,787文字
連載中
破壊か、救済か。サイバーパンク小説です。

2089年。世界各地で起こった《ゼノパス》と呼ばれるアンドロイドの反乱は3年前に終焉を迎えた。
復興ままならぬ新宿に、不穏な影がうごめいている。テロ組織《ライブ・ゼノ》である。
それらに対抗すべく設立されたゼノパステロ対策集団《バニシング・ポインター》。
その組織に所属する解析屋であり異能者の《来生 裕也(きすぎ ゆうや)》。
愛刀『轟雷』と対アンドロイドガン『アーマープレッシャー』を携え、数々のテロ事件に挑む。

=====

この作品は2022年1月14日より、ノベルアッププラス様で再掲載していたものです。
現在削除済。
初回は2020年ノベルアッププラス【ロボット工学三原則短編コンテスト】に参加しました。

プロローグ 

 小雨降る新宿の繁華街。

 ビルの屋上には、立体広告の女性が艶やかにポーズを決めている。

 辺りは合成タバコと汚水の臭いが入り交じり、えた異臭を放つ。

 西暦二千年代初頭に掲げられた環境活動など、もう意味のないものだ。

 街を行き交う人々の身なりは煤け汚れていて、その貧しさが窺い知れる。


『政府からのお知らせです。雨の水素イオン濃度指数がpH5.6を下回りました。酸性雨は、ゼノパスであるあなたの機能に悪影響を及ぼす可能性があります。撥水・防水処理を行っていないゼノパスの皆様は、政府の補助金やクーポンによって――』


 一人の男が、街に響くそのアナウンスに足を止めた。

 そして遠くに見える、崩壊しかけの摩天楼を望んでポツリと呟いた。


「それが平等か? ただの過保護だろ」


 丈の長いブラックレザーコートを着た、その長身の男。

 刃が幅広い大剣を背負い、水溜まりを蹴飛ばしながら再び雑踏の中を歩く。

 男は路地裏に入り、屋台の暖簾を潜った。


「おやっさん。いつもの」

「へい」


 男は屋台の席にドカッと乱暴に座る。目の前に出されたのはキツネうどんだ。

 薬味を無造作に入れ、汁を飛ばしながらズルズルとがっつく。


「いつか本物を食ってみてえな……90年代の漫画に出てきたような」


 男がそう呟いたその時、目の前に半透明なスクリーンが浮かび上がった。

 そこに映るのはゴーグルを付けた黒髪の女性だ。


『来生くん。仕事が入ったけど暇ぁ?』 

「アヤメよぉ。俺、今うどん食ってて忙しいんだが?」

『食べた後でいいから。近くに処理できる捜査員がいないの』

「わりぃ。この後は帰って90年代の漫画を読むって決めてるしよぉ」

『対象は改造ゼノパス。報酬は新日本円で20万』

「安いな。古漫画なら3冊も買えねえじゃねえか。他をあたって――」

『反乱分子の生き残りの可能性が大……と言ったら?』

「…………」

『やる? それとも……そのまま帰る?』


 裕也はうどんの汁を飲み干し、力任せに片手で割り箸を二つに折った。

 それをどんぶりの中に、ゆっくりと落としながら答えた。


「あー……じゃあ、おいなりさん二個食ったら行く。おやっさん。いなり二つ」

「へい」

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