紅火ルーフスの背に乗り、エネルギー供給を絶たれて暗闇となっている市街地を抜ければ、僅かな明かりの灯る基地が見えてきた。

　発着場に降り立つと、染野慎士とレネ・リヴァース。待ち構えていた軍医たちに引き渡す。

「ずいぶん派手にやったもんだな」

　軍医の黒須は、枷をつけられ担架で運ばれるレネ・リヴァースを見て、やれやれと呟く。

「魔樹ローパーに自分を飲み込ませ、一体化してたから仕方ない」

「一体化か……シーバートの女が魔物を操ると聞いたことはあるが、敵に回したくないもんだな」

「敵だったんだけど？」

「だな、今後敵のままかは分からんぞ」

「言ってる意味が分かんないわよ、黒須？」

「こんな世の中だ。何が起きるか分からないって話だ」

　意味深に笑った黒須は、睨んでくるサリーに手をひらひらさせると、レネ・リヴァースと染野慎士を病棟に運ぶよう指示を出し、その場を後にした。

　それから帰還報告を済ませると、すぐさまモーリスとサリーの事情徴収が行われた。解放されたのは、日付が変わる頃にようやくだった。

　宿舎に向かうべく足を踏み出した通路では、綾乃が待っていた。

「お二人とも、お疲れ様でした」

「少将ちゃんこそ、市街地の防衛大変だったでしょ？」

「ジンの協力もありましたし、各ポイントの狙撃隊もうまく立ち回ってくれたので、問題ありませんでした。比企中佐の采配さいはいのおかげですね」

　ミネラルウォーターのボトルを二本差し出し、綾乃はにこりと笑う。

　微笑み返したサリーは、それをありがたく受け取ると蓋を切った。その横でモーリスもボトルを受け取り、礼を口にする。

　長時間の聴取で、すっかり喉が干上がった喉に、冷たい水が染み渡り、二人は同時に安堵の息をついた。

「ほんっと、比企中佐は、どこまで見えてるのかしらね」

「中佐に並べるよう、私も経験を積まなければなりませんね」

「少将ちゃんならすぐよ、すぐ！」

「サリーの期待に応えるためにも、ますます尽力しなければ──あ、そうでした。モーリス、また怪我をしたと聞きましたが、問題ありませんか？」

「かすり傷ですよ」

　心配する綾乃に微笑んだモーリスだったが、脳裏にレネ・リヴァースと染野慎士の顔を浮かべると、一転、表情を引き締めた。

　市街地の被害は想定通り、極僅かなものに止まった。織戸清良を除けば民間人の被害も出ていないと聞いたが、それはここがアサゴだったからという幸運もある。

　他の街であったなら、被害はさらに甚大なものだったかもしれない。

　それを引き起こした首謀者のレネ・リヴァースと、彼女を引き入れた染野慎士に下される処罰は決して軽くないだろう。

　加えて、周辺の森の異常にも係わりがあるとすれば、罪は重くなるわけだが──上層部の判断が、気になるところだった。

「上層部としては、召喚サモンズ弾の情報が欲しいようです。レネ・リヴァースの治療を行った上で、尋問をする方向だと聞いています。ですが、その先は私たち教官の関わるところではありません」

　モーリスが脳裏にちらつかせている考えを汲み取ったのか、綾乃は真面目な面持ちでそう語った。それに対し、彼女を困らせる気など毛頭ないモーリスは、そうですねと頷き返す。

　やや間を置いた綾乃はサリーの表情をうかがいながら、さらに話を続けた。

「それと、染野少佐のご子息の処罰は保留扱いとなりました。まずは心身ともに回復が必要とのことです」

「少将ちゃん、どういう事？」

「こいつが、ヤツの義足を撃ち抜いたけど、怪我はそれほど酷くないと思うんですが？」

　戸惑うサリーの言葉を補うようにモーリスが言うと、サリーは相づちを打ちながら顔を歪めた。

「……あいつはシーバートを引き入れて、アサゴを危機に晒したんだから……」

　罪は重いと言い淀よどむサリーの様子に、綾乃は気遣うように微笑みを向けた。

「レネ・リヴァースが、条件を出しているそうです。召喚弾の情報を提供する代わりに、染野慎士の罪を軽くして欲しいと」

「……レネ・リヴァースが？」

「どういうことだ？」

　予想外の情報に、驚きを隠せないモーリスとサリーは顔を見合わせた。