震える肩を抱きしめ、絡まるピンクブロンドの髪をほぐすように撫でる。
「本当なんだから」
サリーの訴えるような声は、自分自身に向けたものだろう。必死に、言い聞かせているのだ。
繰り返し呟き涙を流す姿を愛しく思い、モーリスはその震える肩をただ抱きしめる。
お前の涙に弱いんだと素直に言えたら良かったのかもしれない。しかしモーリスは、他に何かかける言葉がないかと思考を巡らせた。
笑わせるのが無理なら、いっそうのこと怒りを引き出すことは出来ないか。そうすれば涙は止まるだろう。泣き顔よりかは怒っている顔の方がマシだと、考えはあらぬ方向へと向かっていく。
日頃から怒鳴られ慣れているモーリスだからこそ、そう考えが至ったのだろう。これが最善の策だとばかりに、彼は突拍子もないことを口走った。
「なぁ、とりあえず男食いに行ったらどうだ? 男食いのマナトって二つ名が泣くぞ」
その言葉に、サリーの肩がひくんっと震えた。
罵声でも何でも浴びせてみろ。何なら拳一発くらい食らってやるぞと、身構えたモーリスだったが、サリーは動かなかった。
「……今でも愛してるのに、はい次なんて切り替えられないわよ」
「まぁ、そうだよな」
あっさり否定され、怒りを引き出すことが出来なかったと気づいたモーリスは天井に視線を投げる。
よくよく考えれば、サリーの不名誉な二つ名は、振られた男たちが勝手に言っているだけのものだ。
怒りに任せれば、涙も止まるだろうと思ったモーリスの作戦は見事に失敗した。
次の一手を考えあぐねいていると、消えそうな声が「今でも」とぽつり呟いた。
「……今でもあの人との夜を忘れられないのよ……奪い返したいくらい」
「じゃぁ、一生思い続けて生きるのか?」
「それは……」
「なら、奪い返しにいくか?」
「セイラちゃんが幸せになってほしいっていうのも、嘘じゃない!」
勢いよく上げられた顔は涙でぐしゃぐしゃで、お世辞にも綺麗とは言えなかった。それをまじまじと見たモーリスは可笑しさが込み上げ、思わず噴き出した。
一瞬、サリーの瞳から涙が引いた。
「お前はそういうやつだよな。やっぱり、何も変わってねぇよ」
「何よ、笑うなんて酷いじゃない。あたしは本気で!」
「分かってるよ」
振り上げられたサリーの手を掴み、遠慮をすることなくベッドに押し倒す。
見下ろした顔は、酷いなんてもんじゃなかった。
「そうやって、あと何人の結婚を祝う気だ?」
「……なんでフラれる前提なのよ」
「俺が知ってる限り、今回で五人目だろうが」
酒に溺れて逃げようとしたのは始めてだが。とは言葉にせず、モーリスは涙で汚れた顔を見下ろす。
愛してやまない幼馴染が知らない男に泣かされたのかと思うと、
許せなかった。その男が。彼を守れなかった自身が。
苛立ちを誤魔化すように、サリーに覆いかぶさったモーリスは、白い手首を掴み、ベッドにきつく押し付けた。
「ちょっと、何──んんっ!」
重なった唇に驚き、
少しばかり抵抗したぐらいで逃す気もなく、モーリスは
身を
お互い軍人稼業だ。いくらでも抵抗の仕方は知っているのだから、嫌なら本気で抵抗すればいいだけのこと。
だが、サリーはそうしなかった。
合わさった口の端から涙が流れ落ちてきた。
分かっているのだ。諦めて歩き出すしかないことも、酒に逃げたところで何一つ変わらないことも。
シャツを握りしめてくるサリーの指の熱さで、モーリスは気づく。
こうして、傍にいるだけで良かったのだ。余計なことなどせず、泣き止むまで傍にいる。それをサリー自身、望んでいるのだと。
モーリスは脳裏に、幼い頃わんわん泣いたサリーの姿を描き、そうして肩を寄せ合い生きてきたことを思い出した。