研修生たちが自主トレーニングを行う夕刻。
射撃場を訪れたモーリスは敬礼する研修生たちに軽く答礼を返すと、訓練を続けるよう伝えて端にある簡素なベンチへと腰を下ろした。
数名の研修生の中にはケイ・シャーリーの姿もあった。浮かない顔で練習用の自動拳銃を構えている。
引き金を引く瞬間、銃の先端が
何か迷いがあるのは一目瞭然だった。
口元を片手で覆ったモーリスが小さく息を吐くと、候補生が二人近づいてきた。
一人は黒髪ショートヘアで快活そうな印象を与え、もう一人は鳶色の髪を三つ編みにした大人しい印象のある女性候補生だ。
ちらりと視線を送ったモーリスは、人当たりの良い笑みを二人に向けた。
「何だい? 君達は、確か佐里少尉が担当してる一ノ瀬と井塚だったね」
そう尋ねると、二人の日に焼けた健康そうな頬に赤みがさした。
「教官、お時間がありましたら、ご指導ください!」
「すまない。今日はちょっと予定があるんだ」
「……そう、ですか」
「指導を願うなら、君達の教官を頼ると良い。あいつは教官連中で一二を争う腕だ」
「で、ですが、ロニー教官は若くして最前線で任務に当たってきたとお聞きしています!」
「うん。あいつもだよ」
目の前から去ろうとしない若い二人に微笑みながら、モーリスはケイに意識を向けていた。彼が撃ち終えるのを見計らい、声をかけるつもりでここを訪れたのだ。そのタイミングを逃しては元も子もない。
しかし、モーリスの思惑など知らない二人はなかなか離れない。邪魔だと言うのも大人げない。さてどうしたものかと思っていると、ケイが銃口を下げた。
「あの、ロニー教官、今日がダメなら明日は」
「君達が、俺に教わりたいのはそんなことじゃないんだろ?」
食い下がろうとする二人に、さらりと問いながら立ち上がったモーリスは綺麗な顔に完璧な笑みを浮かべた。
「……え?」
「夜の誘いは、こんな場所でするもんじゃないぞ。それに悪いが、候補生に手を出すほど不自由もしていなくてね」
「ちっ、違います!」
「そうか。それなら……勘違いをされるような言動は控えた方が良い。本気にしてしまう男もいるからね」
ケイはびくりと肩を震わせた。どうやら、声をかけられることを予測していたようだ。
こそこそと後ろで何かを言い合う研修生に視線を向けたモーリスは、銃の手入れをしっかりしておけと言い残すと、ケイを連れて射撃場を後にした。
それから辿り着いた先は屋上だった。
ひやりとした秋風が抜ける。
転落防止の柵に寄り掛かったモーリスはケイを振り返る。
何かを思いつめた顔が、そこにあった。
途中の売店で買ったミネラルウォーターのボトルを一本、ケイに投げた。
「水で悪いな」
「いいえ。ありがたく頂きます」
浮かぬ顔のまま、ケイはボトルの蓋を捻った。
モーリスはもう一本の蓋を開け、それを喉に流しながら彼の様子を窺う。そうして、どう切り出したものかと考えてみた。
そもそも、ケイの悩む理由が自分の怪我なのだろうか。確証が持てないというのに、先の訓練の失敗を追求するのは逆効果ではないだろうか。
ボトルから口を離して、ふうっとため息をついたケイは顔を上げようとはしない。誰が見ても、悩んでいると分かる表情だ。
モーリスの脳裏に、迷いのあるケイの射撃の様子が浮かんだ。
「射撃のスコアどうしたんだ? 以前のお前とは別人のようだったぞ」
「……自分も、そう思います」
上げられた顔は酷く打ちひしがれていた。
あまりの落胆ぶりに驚きながら、モーリスは彼と初めて対面した時の彼を思い出した。誰が見ても、自信に満ち溢れているといっただろう。その時と比べたら、落ち込んで張りを失った声も相まって、別人のようだ。
「何を考えて撃った?」
「それは……」
暗く沈んだ瞳が忙しなく動く。
明らかな動揺がケイの言葉を