やけに冷たく感じる床をひたひたと進み、小さな冷蔵庫の前に
日頃の食事は軍の食堂ですます。自炊はほとんどしないため、そこに並ぶものが寂しいのは致し方ないだろう。それにしても、見事に酒とミネラルウォーターしかない。
「……しばらく酒はお預けか」
仕方ないと己に言い聞かせたモーリスは、横に置かれたミネラルウォーターのボトルを掴み取り、無造作に冷蔵庫の扉を閉めた。
処方された抗生剤と鎮痛剤を冷えた水と一緒に胃へ流し込む。空になったボトルを投げ捨て、簡素なベッドに腰を下ろした。
麻酔が切れたのだろう。熱を持った腕がじくじくと痛み始めていた。
「しくったなぁ……」
無様な姿を
後悔の念を抱き、体をベッドへ横たえたモーリスの視界に無機質な天井が写る。そこにある室内灯の明かりがあまりにも眩しく感じられた。
手探りでベッドヘッドにあるリモコンを掴み操作すれば、室内は一気に暗闇となった。
洗浄と回復の魔法でモーリスに応急処置をほどこした彼の顔は真剣そのものだった。心配するような素振りもなければ、いつものように突っかかっることもなかった。
あの時、何を考えていたのだろうか。改めて考えてみても、さっぱりわからない。居たたまれない空気を感じ、ふざけて声をかけるどころか笑いかけることすら
候補生の状況を聞くことで、その場の嫌な空気を払拭しようとしたモーリスだったが、果たしてその選択は正解だったのか。
「むしろ
吐き出す息が熱くなるのを感じながら、モーリスは薄れ始めた意識を繋ぎ止めた。
このまま動けなくなるのは実に情けない。小さな意地が込み上げてくる。
いくら
混濁しそうになる意識の中、思い浮かぶのはサリーの顔だった。
「……泣きそうだったな」
手当てをするサリーの顔は、泣くのを堪えているようにも見え、モーリスは記憶にある幼い姿を重ねずにはいられなかった。
『バカモーリス! 喧嘩なんてするから怪我するんだよ!』
ぼろぼろのぬいぐるみを胸に抱き、大粒の涙を流して何度も「バカモーリス」と罵る姿に胸が苦しくなった。
止まらない涙を拭いたくて、じくじくと痛む腕を持ち上げるも、その指は届かない。すぐ目の前にいる筈なのに、その姿はとても遠い。
いくら指を伸ばしても小さなサリーの涙を拭うことが出来ない。歯がゆさに、揺らぐ意識の中でモーリスは「泣くなよ」と低く
現実と夢の境界線があやふやなまま、息苦しさにもがくように再び手を伸ばす。
あと少し、あと少し。そう繰り返していると、聞き覚えのある声が耳に届いてきた。
「──リス、モーリス?」
いつになく優しい声に、モーリスはこれが夢だと察した。
届いてくるこの声も、記憶から再生されたものだろう。そう思いながら、モーリスは気怠さと熱さに喘ぎながら重たい