好きだと言い続けて早十年。
士官学校予科に上がる前、読み書き歴史や魔法の基礎などを学んだ初等学校時代も含めれば、もっと長いこと片想いを続けている。
生まれた産院までもが同じなモーリスとサリーは幼馴染みであり、家族と言っても過言でない時間を過ごしてきた。
一時期、配属部隊が異なることで離れていたが、モーリスがアサゴ基地に配属となってから、再び共に歩むようになった。
それから毎日のようにサリーを口説いているのだが、いくら好きだ愛していると言っても、幼馴染の頬は一向に染まることがない。
かと言って嫌われてる訳じゃないと感じるモーリスは、悶々と考えることも少なくない。
そっけない態度の末に暴力を向けられた時は尚更だ。
軍人稼業を長年やっているモーリスにとって、サリーの粗っぽい態度や容赦のない蹴りを回避することは造作もないことだ。今日もサリーの暴力で怪我を負うことはなかったのだが、しかしと思わないわけでもない。
「もう少し優しくしても良いと思わないか?」
医務室で軍医に問うモーリスの顔は真剣そのものだった。
処置に当たっていた軍医の
「仮にも俺は負傷して戻ったのに、一人で医務室に行けってどうなんだ?」
「お前、ぴんぴんしてるだろうが。傷も見た目ほど酷くはない」
「俺以上にあいつを愛してる男はいない。何がダメなんだ?」
「話聞いてるのか? ダメなのはそういう一方的なとこだろうよ」
「同性だからってことじゃないだろう? なんなら、あいつが今付き合ってるのも男だ」
「なぁ、俺の話、聞いてる?」
処方箋に走らせるペンが止まった。
半ば諦めて尋ねてみた黒須だったが、モーリスからの返答はない。局部麻酔ではなく全身麻酔で寝かせれば良かったかと思いながら、彼はため息をつく。
「言っちゃなんだが、俺の見た目は悪くないと思う」
「見た目だけは一級品だろうな。中身はクズだが」
「そんなことはないだろう。俺はいつだってサリー一筋で」
「なら、女と付き合うな。お前、『あなたはサリーさんしか見てない』って同じ別れ文句を突きつけられるだろう?」
「それは、好きな奴がいても良いって言うから」
「付き合ってやったとか言うなよ? その言い分が、まずクズだ」
視線を逸らした黒須は、再び処方箋にペンを走らせる。
顔を引きつらせたモーリスは開きかけた口を閉ざした。言い返す余地などなかった。
モーリスはゲイというわけではない。基本的に付き合うのは女が多い。それも、言い寄られた時にフリーであれば余程のことがなければ断らない。女の敵のような軽い男ではあるが、どうした訳か女が放っておかないのだ。
「断るのも誠意だ」
冷やかな言葉が響いた。
処方箋をずいっと差し出した黒須は、不機嫌そうなモーリスの顔を見て「ここは恋愛相談室じゃないぞ」とため息をつく。
閉口するモーリスは処方箋を受けとり、分かってると低く呟くが不満そうだった。
まった拗らせやがって。内心呆れながらも、二人のことを古くから知る黒須は、多少の同情を感じずにはいられなかった。
「その傷の応急処置をしたのは佐里少尉だろう? 丁寧なもんだったぞ。ちゃんと愛されてるから安心しろ」
「……俺、さっきそこで蹴り倒されたんだけど」
「あいつらしいじゃねぇか」
「愛してんなら、俺を蹴り殺そうとはしないと思うんだが?」
「そんなんだから、相手にされねぇんだよ。
大口を開けて笑われたモーリスは、さらにふて腐れて視線をそらした。
モーリスは今年で二十八を迎える。それなりに人とも付き合ってきたわけだし、今更、
それでも、好いた相手に優しさを求めて何が悪いのかという、思春期のような感情はなくならない。
黒須の言わんとすることを今日も理解できず、モーリスの口をついて出るのは特大のため息だった。
「しかし、どうしたらでここまで酷い怪我を負うんだ。今日は
「今回は入ったばかりの候補生を連れていたからな。撤退に手こずった」
「実地訓練か?」
「そういう事。報告より
「まさか、
「何とも言えない。その確認は出来なかったが」
可能性は考えているという言葉を飲み込んだモーリスが立ち上がった時、ドアがノックされた。
黒須が入室を促せば、簡素なドアは勢いよく開かれた。