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1-1 無駄撃ちじゃない。これが俺のやり方だ!

 ぬかるんだ地面を踏みしめたモーリス・ロニーは、しくじったなとひとごちた。

 うっすらと苦笑いを浮かべながらちた大木に爪を立てる。繰り返される浅い息はやるせなさを吐き出しているようだ。


 だが、彼はまだ戦意を失っていなかった。


 パタパタと音を立てて地面を黒く濡らした血を止めるべく、赤く濡れた二の腕を引き裂いた袖で締め上げた。


「こんなところで魔物のえさになる気はないんだよね」


 死ぬなら愛してやまないアイツの腕の中がいい。それが叶わないなら、柔らかい女の胸でもいい。とにかく、最期が魔物の腹の中などまっぴらごめんだ。そんな下世話なことを考える余裕があるんだから、まだいける。


 ざらついた木肌に背中を預けて息を殺したモーリスは、魔装短機関銃マギア・サブマシンガンから空になった弾倉を抜き取り、最後のフル三十弾を叩き込む。さらにもう一丁、ホルスターに収まる愛用の回転式拳銃リボルバーを一瞬だけ指先で撫でた。


 残弾は確かめる必要などなく把握はあく済みだ。


「残り三発……いい数字だ」


 遠くで聞こえた魔物の咆哮ほうこうににやりと笑い、走り出した。


 前方に現れた四足歩行の獣──魔狗ハウンドが真っ赤な口を開く。


 魔装短機関銃が火を噴き、放たれた弾丸は魔物に打ち込まれた。飛び散る薬莢やっきょうが僅かな陽射しを浴びてきらりと輝く。


 しかし、赤い血飛沫ちしぶきが上がることはない。その代わりに、赤く輝く魔法陣が浮かび上がった。


「爆ぜろ!」


 モーリスの声とともに、魔法陣が爆炎を上げる。その中で焼け焦げてのたうち回る魔物には目もくれず、再び地面を蹴って森を駆け抜けた。


 この魔物の群れは、一匹ずつであればそう脅威ではない。弾切れを起こす前に数を減らせばいいだけだ。彼の使う魔装短機関銃はそれに適している。


「けど、この数は……想定外だ!」


 銃口を魔狗へ向けながら叫ぶ。ひたすら、退路を切り開きながら森を走った。


 魔狗は十体程の群れを作る魔物だ。群れと言っても軍で言うとこの分隊、あるいは親兄弟、親族の小規模な集団くらいの規模だ。銃弾を三十弾フル装填した魔装短機関銃があれば、一つ、二つの群れくらいなら対処も容易とされている。


 しかし、今回、目撃報告を受けていた群れの数を上回っていた。おかげで予備の弾倉まで引き出し、モーリスは森を駆け抜ける羽目になったのだ。


「残りの群れは、いくつだよ!」


 そうして、森を抜けだした先は崖だった。お約束と言うやつか。


 振り返ると、そこでは幾頭もの魔狗が唸りを上げて飛び掛かるタイミングを見計らっていた。

 さすがに一人での対処は厳しいかと、モーリスが崖下に視線をそらした時だった。


「こんの、無駄撃ちモーリス!」


 上空でどすの効いた声が響き渡った。

 反射的に仰ぎ見たモーリスは、目を細める。


 そこには、装甲飛竜アルマ・ドラゴンの背に立つ幼馴染の姿があった。真黒なボンテージスーツに全身を包んだ彼は、軍配給のロングコートをなびかせ、美しく長いピンクブロンドの髪をかき上げる。

 均整のとれた麗しい姿に、神々しさを与える陽の光が降り注いだ。


 天使の迎えかと、一瞬だが、モーリスは本気で思った。


「本隊の撤退完了。さっさと片付けて戻るわよ」

「遅いぞ、マナ──」

「サリーよ! いい加減、覚えなさい」


 サリーと名乗ったモーリスの幼馴染み佐里さり愛翔まなとは、手にした大きな鉄扇てっせんを勢い良く広げて一振りした。


 鉄扇に刻まれた紋様が白く光り輝く。

 風が巻き上がり、その一撃は森の木々を切り刻みながら魔狗を打ち上げた。そこにすかさず、モーリスの魔装短機関銃の弾が撃ち込まれる。

 暴風の力を得て、炎の魔法陣はさらに威力を上げた。


「相変わらず派手だな、お前は!」

「あんたは相変わらず弾数無視ね!」

「良いんだよ。短機関銃こいつは数を稼ぐのが仕事だからな」


 派手な炎の渦を前にしても動じない装甲飛竜が、風を巻き上げて着陸する。その背にモーリスが飛び乗ると、再び翼を羽ばたかせた。


 上空から森を見下ろすと、生き残った魔狗が咆哮を上げていた。それに向けて、モーリスは愛用の回転式拳銃を構えて撃鉄を起こす。


 トリガーが引かれた。


 撃ち込まれた銃弾が爆ぜると、巨大な魔法陣が展開される。光り輝く魔法陣がゆっくりと回転すると、それに呼応するように、燃える魔物の肢体から小石ほどの赤い塊が浮き上がった。

 森の中からも、数多の赤い塊が浮き上がる。


魔精回収マギア・コレクト!」


 モーリスの号令に反応し、浮き上がった赤い塊はすべて魔法陣へと吸い上げられた。

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