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俺の幼馴染みは戦場の女神になれない
日埜和なこ
BLファンタジーBL
2024年12月16日
公開日
5,405文字
連載中
舞台は現代から一千年後の世界。
大自然に淘汰された世界で生き延びる人類は、突如として現れた異形の獣と戦いながら、強かに命を繋いでいた。
滅びを待つのみだった人類は抗う力──魔装を手にいれるが、全ての者が使えるわけではなく、適正者のみが扱えるものだった。
その適正者が集まるのが国軍の魔装部隊。
モーリスは候補生を担当する教官として、アサゴ基地の魔装部隊に所属している。同じく教官である幼馴染の佐里愛翔(さりまなと/愛称サリー)を長年口説き続けているが、一向に振り向いてもらえずにいた。
二人には、忘れたくとも忘れられない過去がある。その苦しみを抱えながら生きてきたモーリスとサリーは、お互いに自分の弱さとも戦っていた。
ある日、教え子である候補生のケイ・シャーリーの悩みを聞くことになり、モーリスは事件に巻き込まれることになる。

雨降る夜に誓う。俺が守る!①

 モーリスが異常なまでの一途さを見せるようになったのは、だいぶ昔のことだ。

 軍人になる前、思春期真っただ中な士官学校予科に入るよりもさらに前、まだ初等科に入って三年経つかどうかの頃。


 秋が深まる日の夜、窓を叩く冷たい雨水がいくつも伝い落ち、細く線を残していた。


 宿題の手を止めたモーリスは、玉のような雨水が不規則に落ちていうく様子をぼんやり眺めていた。そうしているだけで、宿題がはかどるわけではない。それでも、考えすぎた頭を冷やすのには丁度良かった。


 背伸びをして息を吐き、意を決して、再び課題に視線を戻す。


魔装武器マギア・アームズを扱うに必要な最低魔精量を答えよ。また、魔装を用いる軍人に求められる素質とは何か考えよ。』


 何度読み返しても、ちっとも答えは見つからない。テキストやノートをひっくり返しても、正しいものが分からなかった。


「先生……上級生に出す問題と間違えたのかな?」


 そう淡い期待を抱き、プリントの右端を見るが、そこには紛れもなく初等科三年の文字がある。


 魔法言語担当教員は必ずといって良いほど難問を出す。それも、初等科の生徒が習う基礎では解けない問題だ。解かれていなくても成績が減点されることはないが、万が一解けたとして加点もない。その為、多くの生徒は解くことすらしない。といった大いに謎が残るものだ。


 根っからの負けず嫌いなモーリスは、そうと分かっていても解けないことが悔しくてたまらなかった。毎回、自分なりの考察を書いて提出していた。


(魔装武器……父さんに聞いても、どうせ教えてくれないしな)


 そもそも魔装武器は軍人の中でも適正者しか扱えないものだ。

 民間人が使う量産型の魔精製品──情報端末や音楽プレイヤーなどの小型製品もあれば、オーブンや保冷庫など大型製品もある──とは異なり、その構造は一般に知られていない。軍の極秘情報ともいえる。


 ぎしぎしと椅子を鳴らして天井を見ていたモーリスは、机の引き出しからごそごそと小型の音楽プレイヤーを引き出した。


(魔精製品と比べて、使われる魔精量を予測くらいは出来るかな?)


 ひっくり返してカバーを外すと、そこにはコイン型のバッテリーが嵌まっている。それを外し、表面に記された魔精の容量を示した数値を確認する。

 ノートに音楽プレイヤー2000mOzhと書き、さらに情報端末と書き記すと、ポケットの中から小型端末を引っ張り出した。


「えーっと、3000かな。あ……母さんの使ってる点火器イグニスってどのくらいなんだろ。それに、オーブン!」


 身近な魔精製品の中でも火力の高そうなものを思い出したモーリスは、椅子を蹴る勢いで立ち上がった。


 光明を得たりとばかりに、その顔がぱっと笑顔になった時だ。バタバタと忙しい足音が階下から聞こえてきた。何事かと振り返るのと同時に、ノックもなしにドアが開かれる。

 血相を変えた母親が飛び込んできた。


「母さん?」

「今すぐ、支度をして! 母さんたち、基地に向かわないといけないの」

「こんな遅くに、母さんも?」

「ええ。しばらく戻れないかもしれないわ。その間、愛翔まなとくんのお家にいて頂戴」

「今すぐ? 雨も降ってるのに」

「良いから、急いで!」


 クローゼットから鞄を引っ張り出した母親は、そこに着替えを入れてと言うと、慌ただしく部屋を出て行った。


「しばらくって、どのくらいだよ……教科書とかも全部持って行くってこと?」


 若干げんなりとして、中途半端な宿題が散らかる机を見た。すると、階下から何か言い合う声が聞こえてきた。

 ドアから顔を覗かせたモーリスは、剣呑けんのんとした父親の声に耳を傾けるが、話の内容まで聞き取れず、さっさと部屋に戻ってクローゼットから服を引っ張り出した。


「ちぇっ、いつも肝心なことは教えてくれないんだよな」


 両親そろって軍人の家は珍しい。しかし、モーリスにとってこれは日常で、幼馴染の家に預けられるのも慣れっ子だった。


 この日も、文句ひとつなく母の言葉に従ったモーリスだが、寂しさを感じていないわけではない。その証拠に、唇を小さく尖らせながら、鞄の中へと無造作に服を押し込めていった。


(だけど……こんな遅くに行くってのは、初めてだ)


 ふと手を止めたモーリスは、窓の方を見た。雨はますます強くなっていた。

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