目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

第2章〜映文研には手を出すな〜①

 9月27日


 ネット・スターの戦略〜瓦木亜矢かわらぎあやの場合〜


 映文研との合同企画、瓦木亜矢プレゼンツ『深津寿太郎ふかつじゅたろう・改造計画』がスタートした翌日の放課後、前日に続いて、わたしは、リコとナミと一緒に、視聴覚室を訪問していた。

 高等部では帰宅部で通したわたしと違って、リコはテニス部、ナミはダンス部に所属しているが、三年生は引退の時期で、ふたりとも放課後は、比較的時間に余裕があるらしい。


 わたしたち三人が視聴覚室に到着すると、すでに映文研のメンバーは全員が集合していて、室内でカメラの確認やセッティングを行っている。

 合同企画の実施が決まったあと、わたしは、深津部長から、


「瓦木さん、明日は、この企画を進めるたにめ、目標やスケジュールを決める会議をする予定だから……可能なら、今回の企画の最終目標や日程を考えておいてくれないか?」


と、頼まれたので、家に帰ってから、Googleスライドで会議用の簡単なスライドショーとGoogleカレンダーで具体的な今後のスケジュールを作成していた。


 授業の課題や正式なクラブ活動ではないので、「そこまでする必要あるかな?」とも思ったけど、ドキュメンタリー撮影を行うということで、「映像に残るなら、少しでも《|映《ば》える》方がイイよね……」と考えて、資料を作っておいたのだ。

(ちなみに、しばらく、SNSでの配信活動を自粛するので、夕方遅くに帰宅しても、いつもより時間にゆとりがあったからだ、と言うことは、もちろん、他の誰にも言えない)


 映文研の三年生ふたりに、プレゼンテーション資料の利用を申し出ると、快く許可をもらえたのでプレゼンの準備を始める。

 また、映文研の方でも撮影の準備が整ったようで、二年生の安井やすいくんと一年生の平木ひらきくんが、すでにカメラのスタンバイに入っていた。


 視聴覚室のプロジェクターに学校から支給されたタブレットを有線接続すると、スクリーンにはログイン画面が表示されたので、サインインを行って、作成してきたプレゼン用資料を起動する。


「それでは、これから深津寿太郎ふかつじゅたろう・改造計画について、説明させてもらいます」


 軽く一礼してから室内を見渡すと、自分から向かって、左ななめ前方の二メートルくらいの距離には、安井くんが。さらに、真正面の五メートルほど離れた場所には、三脚にカメラを立てた平木くんが、それぞれカメラを構えて、録画を開始しているようだ。


 いつものライブ配信のときのクセで、ついついカメラに向かって話しかけそうになるけど、それを我慢しながらスライドを操作し、笑顔で聞き手のメンバーに語りかけた。

 スライドショーを使ったプレゼンテーションに慣れているわけではないけど、自分のオススメ商品やアイテムなどを紹介することは、わたしにとって日常の生活の一部のようなものだ。


 二枚目のスライドに記述した「深津寿太郎ふかつじゅたろうくん改造計画の最終目標」の文字を声に出して読み上げ、アニメーション効果で、その最終目標を表示させる。


「最終目標:三日月祭みかづきさい生徒間投票学院アワード・男子生徒部門で一位を獲る!」


 その言葉を口にすると、映文研のメンバーから、どよめきが起こった。


「おいおい……」


「マジかよ!?」


「いや、いくらなんでも、これは……」


「無理じゃないッスか?」


 驚き、苦笑い、疑わしげな表情など、さまざまな反応があったが、なかでも、今回の企画の当事者になる深津くんの顔からは、困惑の色が見て取れた。

 一方、映文研のメンバーとは少し離れた位置に座っているリコは、不安げに室内のようすを眺め、逆にナミは、そのようすをニヤニヤと楽しげに観察しているようだ。


 そんななか、二年生の浜脇はまわきくんが、慎重に言葉を選びつつ、確認するようにたずねてきた。


「あの……学院アワードで、部長が一位なんて……本当に、そんなことが可能なんですか!?」


「今日も一緒に来ているナミにも同じことを聞かれたけど……わたしの腕があれば、不可能じゃないと考えてる! もちろん、深津くんが、アドバイス通りに行動してくれれば……だけどね!」


 いまだに困惑気味の表情を浮かべている映文研の部長に視線を送りながら、自信たっぷりに返答する。


 三日月祭みかづきさいの『学院アワード』とは、学園祭の期間中に行われる、関成学院高等部の中で、その年、もっとも活躍した生徒を選ぶ生徒間投票だ。

 そして、これまで、男子は、アメフト部のクオーター・バックの選手やサッカー部のキャプテン、女子は、ダンス部のリーダーなど、クラスや学年の中心的人物が選ばれることが圧倒的に多いことも、この投票コンテストの特長だった。


 その事実は、学内の生徒のほとんどが認識していて、この企画に一番ノリ気だったと思われる高須副部長も、やや懐疑的な表情でたずねてきた。


「今まで、『学院アワード』の男子の投票は、ほとんど体育会系の人間が占めてる。瓦木、マジで勝算はあんのか?」


「今年は、体育会系の部活が、どこの部も活躍がイマイチだったし〜。投票先が混戦になりそう、ってのはあるかもだけどね〜」


 それまで映文研のメンバーのようすを眺めていたナミが、わたしに代わって答える。

 そして、友人に続いてリコも、フォローを入れてくれた。


「ちなみに、先週の月曜日の予想では、男子は大混戦。女子は、亜矢が一位の可能性が高いって言われてたよ」


 頼りになる友人たちの言葉に、映文研メンバーの心も少し動いたのか、下級生には明るい表情が戻ったものの、再び、副部長が疑問を投げかけてくる。


「なるほど……強力なライバル不在ってのは、少し追い風だな! ただ……いまから、寿太郎じゅたろうを人気トップに押し上げるなんて、俺たちの映画制作以上に、時間が足りないだろう?」


「その点も心配しないで! たしかに、時間は限られているけど、その分、キッチリとスケジュール管理をしていくから! 次は、これを見てくれる?」


 わたしは、そう答えてから、ブラウザのタブ操作を行い、スライドショーと一緒に作成したカレンダーを表示させた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?