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第36話:スノウの願望~その為の薬を~



「──で、追いかけっこは楽しかった・・・・・ですか?」

 笑顔を張り付けているスノウさんの前に正座させられているレイオス様と侯爵様。

「レイオスをからかうのが楽しくて……」

「貴方?」

「はい、ゴメンナサイ……」

 侯爵様は萎縮なされました。

「レイオス様」

「お、お茶会台無しにしかけてすみません……」

「分かれば宜しいのです」

 攻撃魔法を打ち出すレイオス様の攻撃を避ける侯爵様。

 その所為でお茶会が台無しになりかけたのでスノウさんが──


マリオン様・・・・・? 伯爵様・・・?』


 と、名前を及びになるだけで硬直させ、正座させました。


 あれぇ、体弱いって聞いたんだけどなぁ……?


「反省したのなら、後片付けをお願いしますね?」

「「はい……」」

 お二人は、攻撃などで破壊された箇所の修繕を始めました。

「あ、あの、私お茶飲んでいていいんでしょうか?」

「いいのですよ。アイリスさん。どうせ私達はできませんから」

 確かに。


 魔法は使えない、調合錬金術はできるけど。

 調合錬金術をやるにも場所と素材と道具がいる。

 それを考えると、魔法は凄いなと思う。


 人で魔法を使える人も勿論居るが、魔族で物理特化以外の魔族は魔法を使える方達が勿論多い。


「アイリスちゃんどうしたの?」

 片付けを終えた侯爵様が声をかけて来ました。

「いえ、魔法は便利だなぁと」

「じゃあ、やってみる?」

「え?」

「調合錬金術を使える人は魔法を使える者も多い、やってみるといい」

 レイオス様も同じ意見の様子。


 でも、魔法なんて使った事無いし、習ったことも無い。

 どうしよう、幻滅させたら。





 動きやすい格好になった私は的当て用の人形がある空間にきました。

「じゃ、簡単なのから行こうか?」

「は、はい」

 侯爵様が手をかざします。

炎よファイア!」

 火の玉が的当て用の人形に直撃し、燃えます。

 すぐ水で包まれ鎮火しました。

 水が消えて乾くと、レイオス様が私の手を握り言いました。

「イメージしつつ、初心者はさっきのマリオンみたく言語化すれば使いやすいからやってみてこらん。炎を打つなら私が魔術の流れを誘導するから」

「は、はい」

 私は的を見据え、先ほどの炎をイメージします。

炎よファイア!」

 手からごおっと炎が生まれ的に当たりました。


「おお、初めてにしてはかなり上出来じゃないか?」

「そうだな」

「凄いですわ」


 凄いのか、これ。

 いや、凄いんだろう、そういうんなら。


「私は魔法の素養はあっても体に悪いからと使わせて貰えないんですよ」

 スノウさんが言う。

「え、そうなんですか?」

「そうそう、見た目だけじゃなく魔力もあるから生贄に選ばれたんだよ」


 そう言えば、あまり詳しくは聞いて無かったけどスノウさんは生贄にされそうになったところを侯爵様に助けられて生贄じゃなくなった、と。

「魔力はあっても使えないというのは……」

「体が魔力の反動に耐えられないの、私は。子どもを産むのも他の人の何倍も負荷がかかるからマリオン様に我慢をさせてしまっているの……」

「我慢なんてしてないよ。私にはスノウが何より大事なのだ」

「マリオン様……」

 スノウさんも、スノウさんで色々と抱え込んでいるんだなぁと思った。


 でも、それでも夫婦をやってきたのは愛からなんだろうな。





 それから何通りか魔法を試して休憩することになりました。

 休憩中私は何か居心地が悪かったです。

 スノウさんの事をより知ってしまったから。


「どうしたのアイリスさん」

「スノウさん、いえその……」

「私ね、本当はマリオン様の子を産んであげたいの」

「……」

「でも、マリオン様が駄目だって。自分の子どもは急成長するから君の体が持たないって」

 泣きそうな声でおっしゃいました。

 私はそこで、調合錬金術で何かないか思い出そうとしました。

 そして──

「あります」

「え?」

「子どもが急成長せず、母体に負荷がかからず、出産時もスムーズにいく薬、あります!」

「え⁈」

「ちょっと待ったそれは本当か⁈」

 侯爵様が乗り出してきました。

「うわぁ!」

「本当なのか!」

 肩を揺すられ、頷きます。

「作れるかい?」

「材料さえあれば作れると思います、ただ材料の調達が難しいので」

「材料は?」

「サキュバスの涙、鬼種の血、マザーローズの花、それから……」

「鬼種の血は俺が持っている! サキュバスの涙は……」

「サーシャ辺境伯夫人に頼もう」

「マザーローズは室内庭園の方に生えている」

 材料が次々見つかります。


「じゃあ、早速」

「行くか」



「──と言うことなんだ」

 エドモン辺境伯様とサーシャ辺境伯夫人に話されました。

「サキュバスの涙なら……」

「ええ」

 サーシャ辺境伯夫人は奥へ引っ込み、瓶を持ってきました。

「調合錬金術で素材になるから、何かあったら売ろうと思っていました」

「いくらでも払う!」

「タダで結構です。私とエドモン様を結びつけてくださったアイリス様が薬として作るのに必要としていると」

「と言う訳だ、持って行くといい」

 私に瓶を渡されました。

 調合素材欄を見ると、サキュバスの涙と書かれていました。

「ではまいりましょうか」

 私達はその場を後にします。



「材料、そろっちゃいましたね」

「後は頼んだぞ」

「アイリス、かなりプレッシャーを掛けるが頼むよ」

「はい、レイオス様」

 確かに責任重大。

 ここまで来てできなかった、なんてオチは避けたい。


「この薬はかなり高度で時間もかかります、ですから私の部屋には誰も入らないでください」

「分かった」


 レイオス様が頷かれるのをみて、私は必要な素材を抱えて、自室に入り、道具の前に立ち集中する──





 カチ、カチ


 時計の秒針の音が響く。

 レイオスは時計を見る。

 アイリスが自室に入ってから、既に六時間が経過している。

 もう直ぐ七時間になる。

 失敗したか、成功したか分からない。

 アイリスは言っていた。


『この薬はかなり高度で時間もかかります、ですから私の部屋には誰も入らないでください』


 と。


 ガチャ、バタン


 扉の開き閉めの音が鳴った。

 ゆっくりと歩く足音も聞こえた。


 客室の部屋の扉が開かれる。

「あの、お薬、できました」

 どこかたどたどしい言葉でアイリスは言い受け取りに立ったマリオンに薬の入ったと思われる大きな瓶を渡した。

「スノウさんが、服用するもので、一日スプーン一匙、妊娠してからも同じで、す」

 そう言って後ろに倒れたのでレイオスはそのまま抱きかかえた。

「よく頑張ったね、アイリス」

「ああ、本当に……有り難う」

 マリオンは薬をマジックバックに仕舞い、眠ってしまったスノウを抱きかかえて客室を後にした。

「じゃあ、私達は帰るから、アイリスちゃんには有り難うって伝えておいてくれよな」

「分かった。」

 レイオスは屋敷を出て行くマリオンをその場で見送り、自分も寝室へと向かった──





「んむ……」

 目を覚ますと、ナイトドレス姿になっていました。

 レイオス様、着替えさせるだけでそれ以上はやらなかったのですね。

 まぁ、仕方ない。

「えっと今何時……昼前⁈」

 私は時計を見て飛び起きて着替えました。

 そして食堂で向かいます。

「レイオス様! なんで起こしてくれなかったんですか⁈」

「だって君は疲れて眠ってしまっていただろう? だからだよ」

「うぐ」

 しかし、服が少々べとつく感じがした。


 そう言えば、脂汗ぶったらしながら調合錬金術やってたんだもんな、七時間近く。


「アイリス、食事、それともお風呂、どちらがいい?」

「お風呂はいってきます……」

 私は歩いて行き、風呂場で体を清めてから食事をした。

「マリオンが、有り難うだって」

「それは効果がでて妊娠も重くないものだったら言ってくださいって伝えてください」

 私は侯爵様達に言い忘れていたことをレイオス様に伝えるようお願いします。

「わかったよ」

 レイオス様は頷かれました。

 私はふぅと息を吐いてから、パンとキャベツベーコンが挟んだ物に齧りつきました。







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