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第33話:辺境伯の結婚式~レラ拒絶の真実~



「伯爵様、奥様とはどのようなご関係で!」

「そうそう、どのような出会いで⁈」

「えっとあの、その……」

 サーシャ様もとい、サーシャ辺境伯夫人とエドモン辺境伯様の結婚式に来ております。

 結婚の契約の手続きは既に済ませているので、サーシャ様は既に辺境伯夫人です、だから後は式を挙げるだけ。


 それはそれとして、カイル侯爵の友人の奥方様がレイオス様にぐいぐいと寄ってきます。


 何故でしょう?


 と考えていると、スノウ様が囁いて教えてくださいました。


 戦争後も結婚もせずに居た英雄であるレイオス様の心を射貫いたのは、国王陛下、王妃殿下から目を掛けられていた才女エミリアの一人娘である私。

 どこでどう出会ったのか、何がきっかけで結婚に至ったのか、知りたくてしょうがないそうです。


 正直に言ってしまうと、政略結婚みたいなものですで、済ませればいいのかなぁと思いながらも、スノウ様のガードがある私には他の皆様は聞けないようです。

何も言わず見ているだけの侯爵様にジト目を向けるレイオス様はどもって答えられずにいらっしゃる。


 顔を真っ赤にして湯気らしきものまで上がっているレイオス様。


 そろそろ私が本当のことを喋ったらいいんじゃないかな?


 と、思って居ると侯爵様が動かれました。


「いやぁ、実はエミリア夫人の御息女であるアイリス嬢を私が保護したのです。そこでレイオス伯爵に会わせて見ると、レイオス伯爵が一目惚れをしたので結婚に繋げたのですよ」


 息をするように嘘ついたなこの御方。


「そうなのですか?」

 貴族の方に尋ねられると伯爵様は首をブンブンと縦に振りました。

「しかし、保護したとは?」

「あーそれは少し言うのをはばかられますので……」

「もしかしてルズ子爵と後妻とその子どもと後妻の実家が平民落ちしたのに関係ありますか?」

 御婦人の言葉に侯爵様は静かに頷かれました。

「ですからこれ以上はお聞かせできません」

「分かりましたわ……ところで、レイオス伯爵様?」

「ひゃ、ひゃい!」

「聞きましたよ、奥様はあの国家長後錬金術師だと! しかも、この百年近く治せなかったガイアス公爵様の傷すら治す薬を作れると!」

「は、はぁ……」


 何か視線で侯爵様と、レイオス様が会話しているような気がしました。

 あの二人ならできそうですが──





『何処で漏れたんだ!』

『私じゃないぞ!』


 念話を使ってレイオスはマリオンと会話をしていた。


『じゃあ、ガイアスか⁈』

『ガイアスはそんなことする奴じゃ……あ』

『犯人が分かったのか?』

『多分……』


 マリオンが念話を切ったので、レイオスはジト目でマリオンを見つつ、おどおどした様子で、隅っこで震えていた。


「あのーその話? もしかして王妃様から?」

「あら! そうなのよ! 王宮の夜会で王妃様が話していらっしゃったのよ!」


『『レイラ王妃―‼』』


 レイオスとマリオンは再度念話を使って絶叫した。

 なにをしてくれているのだと。





「あの、レイオス様は絶望したような表情をしてらっしゃって、侯爵様は眉間にしわを寄せていらっしゃいますよ?」

「……きっと色々分かってしまったのでしょうね」

「な、何がですか?」

「今の私にはお答えする手段はございません」

「……」

 そんなやりとりをしていると、レイオス様を囲んでいた御婦人達がこちらにいらっしゃいました。

 スノウさんがあまり近づきすぎないようにやんわりと静止してくださいました。

「アイリス夫人に何かご用でしょうか?」

「お願いがありますの」

「は、はぁ」

「王妃様にも献上なさっている、化粧品を私達に売ってくれません⁈」

「あー……」


 実は自分の肌に普通の化粧品が会わないので私は調合錬金術で化粧品を作っている。

 それを王妃様に話したところ──


『是非、私の分も作って頂けないかしら⁈』


 と言われたので、テストとかで肌質等を調べて王妃様専用の化粧品を作っている。

 その化粧品類を献上しているお陰か、前にも増して王妃様に優遇されるようになった。

 ちなみにスノウさんも今は私の化粧品の愛用者になってくれている。


「私の化粧品はお一人お一人に合わせてつくるので、時間がかかります、その道具を今はもっておりませんし、何よりレイオス様が知らない人を屋敷に入れるのを拒んでおります」

「ああ、そうね……レイオス様は自分のご友人以外屋敷には入れたがらないと聞いているわ……」

「それに、私は薬の納品のノルマもありますので、申し訳ないですが……」

 そうお断りを入れた時。


「式が始まります! 皆さん会場へ!」

 と、スタッフが声を上げて入って来た。


 私はレイオス様の元へ向かい、手をしっかりと握り式場へ向かいました。

 レイオス様の顔は赤から青くなり、炎も弱くなっていました。


「レイオス様、しゃんとしてください。私が居ますから」

「う、うん」


 手を包むように握り、声を掛けました。

 すると少し炎も戻り、赤色になりました。


 そして式が始まりました。


 ウェディングドレス姿のサーシャ様をカイル侯爵様が案内し、エドモン辺境伯様のところへ連れて行きました。

「──エドモン、貴方はサーシャを妻とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「誓います」

「──サーシャ、貴方はエドモンを夫とし、生涯愛する事を誓いますか?」

「誓います」

「では、誓いの口づけを──」


 エドモン辺境伯様がヴェールを上げ、二人は口づけを交わしました。


 拍手が沸き起こります。

 そして、食事会が始まります。


 が、食べる前に、挨拶に行きました。


「エドモン辺境伯様、サーシャ様、ご結婚おめでとうございます」

「お、おめでとう……」

「レイオス伯爵殿、アイリス夫人ありがとう。特にアイリス夫人、貴方には助けられた」

「いいえ、私は特に何もしていませんよ?」

「ふふ、貴方はそういう方でしたか」


 どういう人だと思っていたんだ?


「ええ、本当、アイリス様には助けられました。お陰で自分に正直に生きられました」

「それなら良かったです」

 和やかに会話をして、私達は食事会も終えると帰路につきました。


 まぁ、その時もやっぱり化粧品つくって!

 攻撃ならぬ突撃が多く私の理論詰めとスノウさんの理論詰めと、侯爵様の「それ以上お美しくなってどうなさるおつもりで」の一言にご夫人方撃沈。

 レイオス様は……知らない人を前にすると、頼りにならないので。

 今はそれも分かって結婚生活をしていますから、別にいいのですが。



「それにしても……」

「どうしたのだい? アイリス?」

 帰宅し、漸く本調子に戻ったレイオス様と屋敷のリビングで紅茶を飲みながら話をします。

「どうしてレラと辺境伯様を結婚させたのでしょうか?」

「あー……それは、運悪くサーシャ嬢に結婚の申し出をする前だったのと、レイオスに手を出させないようにする為に、それなりに強い奴じゃないと不味いからその中で一人結婚してなかったエドモンが候補になって結婚しちまったんだよ」

 一緒に屋敷に来ていた侯爵様が説明しました。

「エドモンの件は悪いとは思っているが、レラと結婚する気は毛頭になかったのだ」

「……」

「式も挙げないとハッキリ言っていらしたものね、あの時のエドモン辺境伯様は」

「そうなんですか……」

「それにまだカイルが侯爵になる前だったしな」

 色々とあったのでしょう。

 でも、最期にはエドモン辺境伯様もサーシャ様も、愛した人と結ばれた。

 喜ばしい事でしょう。

「レラが居なくなったお陰で漸く二人は夫婦に!」

「まぁ、レラとエドモンは白い結婚を百年近く続けたらしいからな」

「……」

 少しだけ同情してしまいました。

 愛もなく、欲しかった愛も手に入れられなかったレラ。

 何故手に入れられなかったのでしょうか?


「どうしてレイオス様はレラを拒否したのですか?」

「レラは……ティアを侮辱した、それだけで私が拒絶するには十分だった」

「……」

 レイオス様の心の中にいらっしゃるティア様。

 それを侮辱されたのなら、レイオス様は拒絶するでしょう。

 愚かな御方、最愛と知りながら侮辱するなど──


 ……レイオス様の心の中にティア様がいらっしゃるように、私の心の中にお母様がいらっしゃるのでしょうか。

 いるのでしょう、きっと。

 お母様のことを考えると心が温かくなるのですから。


「レイオス様」

「どうしたのだね」

「どうか、貴方様のティア様、心の中に今もいるその方を大切にしてください」

「……君は嫉妬をしないのかね?」

「私は私、ティア様はティア様ですから」

 そう言うと、私は抱きしめられました。

「レイオス様?」

「……結婚相手が君で良かった」

「──有り難うございます……」

 私はレイオス様の心地良い暖かさに包まれました。


 侯爵様が口をだすまでそうしていました──





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