パーティの数日後、エドモン辺境伯様が来訪致しました。
「どうしたエドモン悩みか?」
「ああ」
エドモン辺境伯様は着かれたようなため息をなさっています。
「相談を聞く位ならできるぞ」
「相談にのるとは言わないんだなお前は」
「私にできない事もあるからな」
レイオス様は静かに答えます。
それを見たエドモン辺境伯様は苦笑して口を開きました。
「レラが居なくなったらずっと結婚したかった相手が居た」
「ほぉ、初耳だ」
「その相手の元に行ったら断られた」
「レラの後に収まるのが嫌だったのか?」
「近い、な」
「近いとは?」
「『
「……サーシャ嬢か」
サーシャ?
どなたでしょうか?
「姉であるレラのしたことと性格には迷惑を掛けられたが、サーシャには迷惑などかけられたことはない」
レラの妹、なのですね。
まぁ、確かにレラがしでかして辺境伯様に迷惑を掛けたのは事実でしょう。
「私はなんとしてでもサーシャと結婚したい、協力してくれないか」
「協力、と言われても上手くいくとは限らんぞ」
「……そのサーシャ様は何処におられるのですか?」
「カイル侯爵の領地で働いてカイル侯爵の手伝いをしておられる」
「分かった」
レイオス様は手紙一式を取りだし、何かをお書きになると封蝋し、手紙がどこかへ消えてしまいました。
「カイル侯爵の手伝いを仰ぐ」
「!」
「さて、私の妻アイリスよ。カイル侯爵に謝罪を求めるのだが、何を要求する?」
ああ、なるほど。
分かっていますよ、レイオス様。
「サーシャ様がエドモン辺境伯様に嫁ぐ事を求めます」
「それでこそ、我が妻だ」
「い、良いのか? そんな脅すような事をして?」
「カイル侯爵にも一芝居打って貰うことにした」
「……」
エドモン辺境伯様、なんとも言えない顔をしてから申し訳なさそうに。
「すまない」
と頭を下げられました。
「気にするな」
レイオス様はそうおっしゃいました。
しかし、良心を痛めさせるような方法大丈夫なのでしょうか?
二日後、カイル侯爵様の領地へ赴き、カイル侯爵様の屋敷を訪れました。
以前一人で居たカイル侯爵様ですが、隣には清楚な服装の女性が立っていらっしゃいました。
「レイオス伯爵殿、アイリス伯爵夫人、ようこそいらっしゃいました」
「ようこそ、私がカイル兄様の妹のサーシャです」
「よろしく頼む」
「よろしくお願いします」
私達はそのまま客室に案内されました。
ここに来るまで、領民達は皆生き生きと暮らしているように見えましたのでカイル侯爵様の手腕によるものが大きいのではないでしょうか?
多分、ですけども。
「要件は聞いております、レラの傷害行為の謝罪などの要求ですね」
「ああ、妻の傷の治りが遅くてな、エドモン辺境伯には既に請求済みだが、こちらにはまだ未請求な部分があったのでね」
「奥様⁈ 大丈夫なのですか?」
「大丈夫……とは言いがたいですね」
と私は嘘をつきます。
「兄様どうしましょう?」
「レイオス伯爵は他の伯爵と違う、立場的に公爵のような存在だ。家の取り潰しを奥方が王家に要求したら通るかもしれない」
わーん!
良心が痛む!
ついでに胃が痛い!
「私は妻が好きなようにと言っている、アイリス、君は何を望む」
と体を労りながら言われ、私は──……
予定を変更しました。
「望むものを言う前に聞きたいことがございます」
「何でしょう?」
「サーシャ様、貴方様はエドモン辺境伯様に婚約を申し込まれているそうですが、断っていらっしゃるそうですね、何故ですか?」
サーシャ様はその話題を自分に振られる等思ってもいなかったのでしょう、困惑した表情で──
「だって姉は辺境伯様だけではなく、伯爵様や奥方様にさえ迷惑をかけ、奥方様に怪我を負わせました、そんな姉の妹など、領地で憎まれるだけです。私は辺境伯様に憎まれて欲しくないのです」
「憎まれていなかったとすれば?」
「それでも、姉のしたことを許せません、ですから私は……」
「レイオス様、私の望みを決めました」
「何かね?」
「サーシャ様、貴方は自分の身分や立場を一切考えずエドモン辺境伯様の申し出を受けて下さい、一切考えず、ですよ。その上で自分の本心を語ってください」
「サーシャ、伯爵夫人は君が辺境伯を愛していると見抜いて言っているんだよ」
「お兄様!」
サーシャ様は顔を真っ赤にしていらっしゃいました。
「さて、そろそろだな」
「?」
私が首をかしげているとチャイムが鳴ります。
「わ、私が出ます!」
サーシャ様は出て行かれました。
「よし、こっそりついて行くぞ」
「は、はい」
「ええ」
サーシャ様の後をついて行くと、エドモン辺境伯様がいらっしゃいました。
真っ赤な薔薇の花束を抱えてサーシャ様に膝をつき、渡そうとしています。
「エドモン辺境伯様……」
「私はどの令嬢よりも、貴方を愛しております。貴方と結婚できないのなら再び独身を貫くつもりだと陛下にもお伝えました」
凄いな、エドモン辺境伯様。
覚悟決めてきている。
「わ、私は……レラの妹で、領民に憎まれるような存在で……」
「領民はレラの妹である君を憎んでも疎んでもいない、君はレラが何かしでかすと後始末を手伝ってくれていた」
「ですが私は……」
ああ、もう。
私がさっき頼んだ事できてないじゃない!
どうしよう?
などと考えていると、レイオス様が黒い石のような物体を私の手に乗せました。
「それにさっき言ったことを囁いてくれ、サーシャ嬢の事を考えながら。そうすればサーシャ嬢にだけ声が聞こえる」
「は、はい」
私は石に小声で囁きました。
「サーシャ様、貴方は自分の身分や立場を一切考えずエドモン辺境伯様の申し出を受けて下さい、一切考えず、ですよ。その上で自分の本心を語ってください」
すると、サーシャ様はキョロキョロと周囲を見渡しましたが、上手い具合に隠れている私達を見つけることはできてないようです。
「いいですね!」
と、小声で続けます。
サーシャ様はしばらく無言になった後、涙をぽろぽろと流し始めました。
「サーシャ嬢……」
「王命でレイオス様に被害が及ばないように姉と貴方様が結婚した時どれほど絶望したことか、それでも貴方と親類になれるのが嬉しかった……」
「「「……」」」
静かにサーシャ様の言葉に耳を傾けます。
「本当に、本当に私などで良いのですか?」
「貴方が良いのです。サーシャ嬢」
「……どうか不出来な女かもしれませんが、よろしくお願い致します……」
よっしゃー!
と、心の中で叫ぶ。
みんな小さくうんうんと頷いてらっしゃる。
そしてサーシャ様が来る前に部屋に戻り、くつろいでいるとサーシャ様とエドモン辺境伯様がいらっしゃった。
「カイル侯爵、貴殿に許しをいただきたい」
「何の許しでしょう?」
「貴殿の妹のサーシャを我が妻として迎え入れることを──」
「勿論許可しよう」
カイル侯爵様は満面の笑みでお答えになった。
「良かったですね、サーシャ様、エドモン辺境伯様」
「はい」
「ありがとう、みんな」
こうして、両片思い、いえ、愛し合っていた二人はめでたく婚約し、そして結婚式を挙げることが決まりました。
縁を結んだと言うことで私とレイオス様は結婚式の招待状を貰いました。
侯爵様はエドモン辺境伯様の友人として招待されることが決まりました。
知らない人が多い結婚式になりそうなので、レイオス様は人見知りモードになるでしょう。
そういう所も可愛いのですが。