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第31話:パーティの最中と終わりに



 皆さんが談笑をしている中で、レイオス様は私の隣で静かにたたずまれています。

「レイオス様、皆様と話すこととかは──」

「無い。私は君の隣にいたい」

 レイオス様はやはり自分から他者に話しかけるような方ではないようです。

「レイオスー! そんな堅いこと言うなってばぁ‼」

 お酒に酔ってらっしゃる侯爵様がレイオス様に絡みました。

「酒臭い! どれだけ飲んだ!」

「えっとぉ瓶五本……」

「マリオン、お前はこれ以上飲むな! スノウ夫人!」

「はい、畏まりました、伯爵様」

 スノウさんが侯爵様に近寄られました。

「マリオン様、これ以上飲むとこれから一ヶ月禁酒していただきますよ」

「ちょ、ちょっとスノウ! そりゃあ無いよ!」

 焦る侯爵様に対し、スノウさんはにこりと微笑まれるだけ。

 完全に尻に敷いてらっしゃる。


「本当、私の娘だわ!」

「似て欲しくない箇所が似てしまった……」

「あら、何かしら。あ、な、た?」

「な、何でも無い」


 エリオス侯爵様とエリス侯爵夫人……スノウさんがあのように逞しいのは義母様の教育があってのものなのですね。

 私はレイオス様を尻に敷く気はありませんが……レイオス様が無理をなされたらのことを考えて参考にしましょう。

「アイリス、アレは参考にしなくていいからね」

 レイオス様、先手を打ってきました。

 勘が鋭い御方です、全く。

「はい、分かりました」

 取りあえず、はいと言いつつスルーします。

 申し訳ございませんが。

「あら! レイオス伯爵! 男の手綱は女が握らなくてはいけなくてよ?」

 エリス侯爵夫人がおっしゃいました。

「私はエリス侯爵夫人、貴方の夫や娘婿のような馬鹿はやりません」

「まぁ、確かにそうねぇ」

「ちょっと義母さん! 其処は否定して!」

「エリス! 何故否定してくれないのだ!」

 抗議するお二人。

 私は何も言えません。

 スノウさんも微笑んだまま。

「だって貴方達酔っ払っては醜態をさらしているじゃない? それに他にも──」

「ああもう、分かった、分かったからその口を閉じてくれ!」

「むぐ」

 エリオス侯爵様がエリス侯爵夫人の口にマカロンを突っ込みました。

「マリオン様は、無茶ばかりなさるのだから」

「私好きで無茶してない! 他の連中の尻拭い!」

 侯爵様は侯爵様で抗議してらっしゃるが、尻拭いと言えばレラの件がありましたね。

 あの時色々大変でしたでしょう。

 レイオス様も、侯爵様も、辺境伯様も。

「辺境伯様もお呼びすれば良かったでしょうか?」

「あーエドモンの事かしら?」

 私は頷きます。

「エドモンなら今夫人の枠が空いて子どもも居ないから王宮からエドモンの妻になりたい女性を募集したら凄い募集があってね、そこから選んでいる最中……まぁ、本人は乗り気じゃないようだけど」

「何故です」

「何か分からないけど、色々あるらしいのよ」

「ふむ……」

 レイオス様は何か考えているようだった。

「いや、憶測で言うのは止めよう」

「もう、憶測で良いからいって欲しいの!」

「違っていたら私が恥をかくだけですむが、合っていたらエドモンはかなり自罰的だと捉えられるぞ」

「そうなの?」

「だから、言わないほうが宜しい」

「そう……分かったわ」

 王妃様は納得したように引っ込みました。


「ところで、凄い募集があるってことは辺境伯様は女性に人気があるのですか?」

「人気があるどころじゃないよ。女が争ってアイツに贈り物したがるんだぜ」

 少しげっそりした侯爵様がそうおっしゃいました。

「なのにあの夫人は満足しなかったと?」

「そういうこと」

「……レイオス様、本当に厄介な魔族に目をつけられていたんですね」

「その通りだよ」

 レイオス様はげんなりしたようにおっしゃいました。





 そしてパーティはお開きとなり、皆様帰って行く中ガイアス公爵様とミラ公爵夫人が残りました。

「ガイアス公爵様、ミラ公爵夫人、どうなさいました?」

「アイリス伯爵夫人、貴方は凄腕の調合錬金術師だと聞く、可能なら治癒能力の高い万能薬を売って欲しい、魔族用の」

「それなら、今日までにつくり置いたものがありますが……何にしようするのですか?」

「ガイアス、やはり傷はまだ癒えてないのだな」

「ああ」

「?」

 首をかしげる私。

 話についていけません、傷が癒えていないとは。

 レイオス様は後片付けを使い魔に任せ、公爵夫妻を屋敷に入れ、客室にお招きしました。

 するとガイアス公爵様は上着を脱ぎました。

 露わになる、肉体美と──深い傷跡。

「この傷は呪われているの、だから治療しようとしても効果が無かったの」

「百年前の戦争でやられた傷だ」

「今も傷み続けるのだろう?」

「ああ」

「すみません、ちょっと傷を見てもいいですか?」

「構わない」

 私は傷跡を見ます。

 深い傷、高い治癒能力がある薬が必要。

 だけど、同時に呪いを浄化する強い浄化作用があるものが必要。

「すみません、お時間下さい。手持ちでは直せそうもないので今から作ります」

 私は頭を下げ、自室に向かった。

 レイオス様が用意したマジックボックスから薬草類を取りだし、すりつぶし調合して行き、蒸留水と混ぜながら、一部の薬効能力を錬金術で変更します。

 深い緑色の薬ができました。

 それを冷まして客間へ急ぎます。

「できましたが、今まで治療して治らなかったと聞きましたのであまり期待をしないでください……申し訳ございません」

 そう言って傷口に薬を書ける。


 じゅうじゅう!


「⁈」

「ぐぉ……?」

「貴方⁈」

 ガイアス公爵様が傷を抑えて呻き、傷があった箇所から灰色の煙が立ち上りました。

 煙は呻く人の顔をしていましたが私が清め水を拭きかけるとすうと消えました。

 ガイアス公爵様は姿勢を戻しました、すると傷跡は綺麗に無くなっていました。

「傷が消えた!」

「ああ、呪いも消えている」

「有り難うございます! アイリス夫人!」

 ミラ公爵夫人が私に抱きつきました。


 ちょっと苦しい!

 待ってください! 待ってください!


「ミラ公爵夫人、アイリスが苦しがっている、離してくれ」

「ああ、ごめんなさい! 今まで何をやっても治らなかったから!」

「アイリスはもしかしたら稀代の調合錬金術師なのかもしれないな」

「そんな、私はただの国家認定された調合錬金術師ですよ」


 何でもできるのだったら、お母様を助けられたから、そんなんじゃない。

 私は無力な人だった、でもレイオス様のお陰で誰かの役に立てている。

 それは誇らしいことだった。


 その後、公爵夫妻が帰るのを見送り、私達は屋敷に入りました。

「しかし、良く治せたね」

「観察力には少し自信が」

「それは誇って良い物だ、もっと自信を持って」

「はい、レイオス様」

 私はそう言ってレイオス様に微笑むと、レイオス様は微笑み帰されました。

 幸せというのはこういうのを言うのでしょう。






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