「やっぱり私もホームパーティやりたーい!」
「王妃様……」
「……レイラ王妃、貴方はご自分の立場を分かっておいでですか?」
昨日伯父様のホームパーティの件を聞いてやりたいと駄々こねていたのを宥めたのに、今日も同じようにいらっしゃり王妃様がホームパーティをしたいと駄々をこねております。
こんな姿、余所様では見られないでしょう、というか見たくなかったです。
王妃様、自分の立場考えてくれ。
いや本当。
少し胃がキリキリします。
なぜならこの世界を統治する王様の妻なのです。
王妃様は。
だからそんな立場の御方がそう簡単にほいほいと家にいらっしゃるのは胃袋に悪いです。
ええ、本当に。
「レイラ王妃、そんなにホームパーティをしたいならアディス陛下に直談判したらどうでしょうか?」
少し苛立った様子でレイオス様が口を開く。
「鼻で笑われたわ! できる訳ないでしょうが!」
「でしょうね」
「王妃様、其処までホームパーティに参加したいのですか?」
「ええ! やりたいけどできないなら参加したい!」
「レイオス様」
私はレイオス様を見据えます。
「分かっている、君が言わんとしていることが」
レイオス様は炎を青くして静かにおっしゃいました。
「では、お願いです。我が家でホームパーティを行いましょう、王妃様参加の。伯父様達は王妃様が来るから謝罪の手紙を出しましょう」
私が案を出します。
「それならいいとも」
レイオス様が頷かれます。
「本当⁈ レイオス‼ アイリスちゃん‼」
王妃様が身を乗り出します。
「本当ですとも、王妃様。後ちゃんと護衛を付けてくださいよ」
「勿論! やった、やったわ!」
王妃様は歓喜のあまり立ち上がりました。
何故か拳を突き上げていますが、言わないでおきましょう。
「こうなったらホームパーティ用のドレス見繕わなきゃ! それじゃあ失礼!」
嵐のように去って行きました。
「……レイオス様、申し訳ございません」
「君が謝る必要は無い、言い出したのは私だしね」
またレイオス様は黒い炎に戻り、深いため息をつかれました。
「さて、となると招待状をだす相手を見繕わないと、君の伯父様は省かせて貰うよ」
「はい、伯父様も王妃様が要らしたら気が気ではないでしょうから」
「と、なると侯爵か公爵組になるな、君の母君のリストを見せてくれるかい?」
「はい」
リストを見せました。
「このリストからだと、マリオン、エリオス侯爵、メンフィス公爵にガイアス公爵の四組だな。あまり多くなくていい」
「でも、お出しになる料理とかはどうしましょう?」
「使い魔に任せれば良い、使い魔達の料理は王宮のシェフクラスだからね」
「ならお菓子類もお願いしましょうか」
「そうだね、ワイン等の酒類とチーズは、保管庫から出してこよう」
「レイオス様はお酒を飲まれないのですよね?」
と、私が訪ねるとレイオス様は頷かれました。
「飲まないが売る為に作らせていた、それを出そう」
「なるほど……私がすることあまりないですね」
「私達は客人の相手をするという仕事がある、他のことは使い魔に任せれば良い」
「分かりました」
私は静かに頷きます。
「私は雨になっても雨が入ってこないように結界を一時的に強めておく、あと結界内が暖かいようにしておく」
「わかりました」
さて、私は何をしようと思い、思いついたのが調合錬金術。
それで作れる限りに薬を作っておくことにしました。
保管場所は私の部屋と倉庫です。
何も無ければいいのです。
手紙を出したりそうこうして過ごしていると、ホームパーティの日になりました。
「大丈夫でしょうか?」
「なるようになるさ」
ちょっとレイオス様諦め気味、お願いですから諦めないで下さい。
私も不安で仕方ないのですから。
「ようレイオス! 最初、お前が自宅でホームパーティするって聞いて変なもの食ったかと思ったが、王妃様の駄々こねたのが原因じゃあしかたねぇな!」
侯爵様、まだ王妃様がいらっしゃらないからか普段の言葉遣いをしてらっしゃいます。
「マリオン様、伯爵様に失礼ですよ」
スノウさんがたしなめております。
そうしていると馬車が止まり、入って来ます。
「おや、婿殿に、我が愛娘スノウ! 二人とも来ていたのだね!」
「スノウ、元気にしている?」
とエリオス侯爵とエリス侯爵夫人が侯爵様に挨拶すると、侯爵様は萎縮しました。
「えーあ、はい。友人がホームパーティすると来ましたので……」
「うむ、レイオス伯爵、アイリス伯爵夫人。呼んでくださり感謝しかない」
「本当に、
そう言ってエリス侯爵夫人が侯爵様を見ると、侯爵様は視線をそらしていました。
何故でしょう?
「王妃様はまだのようだな」
「王妃様の事だから抜け出すのに苦労なさっているのでは? 国王様がやっぱり危険だから駄目って言い出したりしたとか。」
「もしくは説得に、とかですね」
「それは無いだろう、王妃様ですよ」
王妃様以外の招待客がいらっしゃいました。
「ガイアス公爵様、ミラ公爵夫人。メンフィス公爵様、メルト公爵夫人。ようこそお越し下さいました」
私は二組の夫婦に挨拶をします。
「おお! 貴方がアイリス伯爵夫人か! 髪の色を除けば本当にエミリア女史に瓜二つだ!」
メンフィス公爵様が私の事をそう指摘します。
「本当だわ。アイリス伯爵夫人、辛いこととかなかった?」
「いえ、ありません。レイオス様に良くしてもらって幸せです」
メルト公爵夫人が私に問いかけました。
ですが私は幸せなのではっきりと答えます。
「……ルズ元子爵のところでは不遇な扱いだったと聞くわ」
「確かに腹が立つどころじゃありませんでしたが、連中は最後に平民落ちしてくれたので嬉しい限りです」
「そう、ならいいの」
そんな話をしていると王妃様がやって来ました。
「もう、アディスったら今日になったらやっぱり駄目とか言い出して説得が大変だったのよ!」
護衛を何名かつけた王妃様が会場に入ってきました。
「王妃様、そこまでして……」
「だってアイリスちゃんとレイオスが私のために開いてくれたようなものでしょう! 行かない訳にはいかないわよ!」
王妃様、義理堅いのは嬉しいですが、国王様をちゃんと説得できたのですかね?
「レイラ王妃、アディス陛下をどうした」
「ああ、それ? 最後は向こうが駄々こねだしたから首をこう締め落として気絶させてきたわよ」
「「……」」
王妃様、それでいいのか?
仮にも貴方の夫で国王だぞ、相手は。
「色々考えても仕方ない、ではパーティを始めよう」
使い魔がテーブルに食べ物を並べ、ワイン等の酒類を運んでくる。
「あれ、レイオス様、その液体……」
「葡萄ジュースだよ」
といたずらっ子のようにレイオス様は顔を赤くしておっしゃいました。
「では、乾杯!」
グラスを掲げてレイオス様はそうおっしゃいます。
「「「「「乾杯‼」」」」」
ホームパーティが始まりました。
皆身分の違いなど気にせず談笑しています。
例外として、侯爵様と、スノウさんの義父母であるエリオス侯爵とエリス侯爵夫人が会話をしていますが、いつもの雰囲気はどこへ行ったのか、絡まれてます。
その上萎縮してらっしゃいます。
「うーんマカロン美味しい! 貴方達も食べなさい!」
王妃様が護衛に言うと護衛達は困惑しつつも食事に手を出しました。
「そうそう、それでいいの!」
私も赤いラズベリーのマカロンを食べながらレイオス様を見ます。
レイオス様はリラックスしたように炎を青くして周囲を見ておられました。
こうやって交流するのも悪くないと、私は思いました──