「伯爵様、我が領地で取れた葡萄を使った葡萄酒です。最高級とは言えませんが、中々美味いですよ」
「わ、私、は、お、お酒、を、の、飲むと、ほ、炎、の、加減、ができ、な、なくなる、のでえ、遠慮、します」
「それは残念、ではチーズはいかがです?」
「そ、それなら……」
レイオス様、お酒飲むと炎の調節がきかなくなるみたいなのでお酒は断っておつまみとかをつまんだりして食べて居ました。
最初は私が食べさせていましたが、顔を真っ赤にして「じ、自分、で、たべ、られ、る」とおっしゃって今に至ります。
私はリンゴのジュースを飲んでいます。
甘くてすっきりして美味しいです。
「アイリス。どうかね、我が家のホームパーティは?」
「はい、お母様が生きていた頃以来なので楽しいです」
「そうか……存分に楽しんで行ってくれ」
私の言葉に、一瞬伯父様は悲しそうになされましたが、すぐに微笑まれました。
お母様亡き後、ホームパーティをやることができなかった。
簡単だ。
私への扱いが漏れてしまうからだ。
お母様への対応も漏れてしまえばお取り潰しは免れないとあの男は考えていた。
悪知恵は働く男だった、あの男は。
だからホームパーティをせず、夜会に私以外の家族で参加し、私は体調不良と行って誤魔化していたようだった。
まぁ、その時私が下剤やらなにやらを調合して仕込んでいたから夜会所じゃなかったようだがな。
ざまあみろ。
「あ、アイリス、た、助けて……」
相変わらず人々に質問攻めされているレイオス様は私に再度助けを求めました。
「皆様、私の旦那様をあまり困らせないでください」
「いやぁ、すまないアイリス伯爵夫人。色々気になったので」
「その気持ちは分からなくはないですが、限度という物を知ってください」
レイオス様を抱きしめ、私はむすっとした顔で返します。
親類達は申し訳なさそうに立ち去っていきました。
「レイオス様、もう大丈夫ですよ」
「あ、ありがとう、あ、アイリス」
「いいえ」
それから二人で静かに話をしたり、侯爵様とスノウさんと話したりするといつの間にかお開きの時間が来ました。
屋敷を後にし、私とレイオス様、侯爵様とスノウさんはレイオス様の屋敷に移動しました。
「楽しかったです」
「ええ、本当」
「私はつかれた……」
レイオス様はげんなりした表情でおっしゃいました。
「あのお前だと疲れるわな」
「全くだ……」
「じゃあ、私達は帰るからな、スノウ。行こう」
「はい、マリオン様」
そう言って侯爵様とスノウさんは、魔法陣の中に入って光の中に消えてしまいました。
「レイオス様、歩けます?」
「なんとか……」
「肩をお貸しします」
「アイリス、すまない」
「いいのですよ」
レイオス様に肩を貸し、屋敷に入って二階の寝室まで連れて行きます。
「お着替えを手伝いましょうか?」
「いや、それは大丈夫だ。君も着替えるといい」
「はい」
私は別室で服を普段着に着替え、寝室に戻ると、レイオス様はベッドに横になっておりました。
疲労からか黒い炎は青くなっていました。
「レイオス様、大丈夫です──」
近寄って尋ねようとすると、レイオス様に抱きしめられ、毛布の中に引きずり混まれました。
「レイオス様?」
「ああ、本当に疲れたんだ……私は元々あの気質が最初だった、だから親から厳しくされ、悪化した……だが本性がこうなったのも親が原因だ、彼女を殺したから……」
「レイオス様……」
私が気になっていた事を、レイオス様がおっしゃっていました。
元はあの人見知りが激しくどもってしまうのが本性。
でも今は、冷徹に敵対者には接するのが本性。
「怖いんだ、外が。君が消えてしまいそうで」
「レイオス様、ご安心ください、私は貴方様の側に」
そう言って青い炎の頬に触れます。
漸く落ち着いたのか炎は黒く戻りました。
私はとレイオス様は抱きしめ合いながら眠りに落ちました──
「もう! 私もホームパーティに参加したかった!」
「王妃様……」
「レイラ王妃……」
翌日、王妃様がまた屋敷を来訪されました。
「王妃様が参加されたらホームパーティじゃなくなりますよ」
「レイラ王妃それほどホームパーティをやりたいなら、茶会を開いたらどうですかね?」
「お茶会はお茶会! ホームパーティはホームパーティ! 夜会は夜会! 違うのよ」
ふて腐れる王妃様。
困り果ててレイオス様を見ると、レイオス様は眉間にしわを寄せていました。
「それにぃ、お茶会とか、夜会開いてもレイオスは参加しないでしょう?」
「ええ、参加しません」
レイオス様即答、王妃様不満げな顔のままレイオス様を指刺します。
「だからなのよ! 私は貴方とアイリスちゃんに参加してほしいのよ!」
「……王宮には私を良く思っていない者も多い」
「そんな輩出て来たら即座に言って! クビにするから!」
王妃様、何が何でもレイオス様に出て貰いたいようです。
でもレイオス様はそんな気が全くない。
なら私も従うのみです。
「アイリスちゃんは来てくれる?」
「私の夫はレイオス様なので、レイオス様に従います」
「もぉー!」
王妃様ばたばたと少し暴れましたが、すぐ落ち着かれました。
「無理強いしたらアディスに叱られるから、今は引き下がるわ」
「王妃様……」
「でも覚えていてね、国として貴方達を祝福したい気持ちがあることを」
「……分かっています」
レイオス様は深いため息をつきました。
それを見て王妃様は苦笑します。
「ため息をつくと幸せが逃げてしまうわよ」
「……ええ、気をつけます」
「ふふ、じゃあね」
そう言って王妃様はお帰りになられました。
「レイラ王妃にはいつも悩まされるよ。あのレイラ王妃とやっていけるアディスは尊敬する」
「国王様ですか」
「許可が出て、アディスのことは呼び捨てにしてもいいんだ、私は」
「……」
「参謀に裏切られたアディスを支えたのはレイラだった、レイラが支えてくれたお陰で私達は勝てたのだ」
「でも、レイオス様も──」
「私は敵を見境なしに殺しただけだよ」
「……」
悲しげにおっしゃる、レイオス様。
戦争はレイオス様の心に、今も傷を残しているのでしょう。
「戦争が終結してアディスはレイラと結婚し、アディスは国王になり、レイラは王妃になった」
「……」
「私はしばらく一人になりたかったから、
その頃から結婚させていたのですね。
「百年も経つと、ティアの声が聞こえるような気がしてきたんだ。『いつまで落ち込んでいるの!』ってね、その声と、マリオンののろけもあって君との結婚を決めたんだ、いい加減な男だろう?」
自虐的に笑うレイオス様の手をとり、私は首を横に振ります。
「いいえ、いい加減なら私も。お母様の遺産を守るために貴方との結婚を受け入れたのが始まりです。ですが──」
「今は、愛しているのです、忘れないでください」
「有り難う、アイリス。私も愛しているよ」
そう言って私達はキスをしました。
熱はあまり感じられない口づけでした──