夕刻、レイオス様と侯爵様が戻ってこないと不安になっていると、二人はよれよれで帰って来ました。
おそらく殴り合ったのでしょう。
何故かは分かりませんが。
「スノウ! 助けてレイオスの奴が俺をいじめる!」
「いじめているのはどっちだ!」
あ、これ、どっちもどっちの状況ですね、多分。
「伯爵様、マリオン様、お客様の前でそのような行動は
スノウさんが怖い。
「ご、ごめんよ、スノウ」
「……すまない、スノウ夫人」
「伯爵様は私ではなく、アイリスさんに謝ってくださいな。その行動で恥をかいたのは私ではなくアイリスさんですから」
「すまない、アイリス」
「いいえ、レイオス様。気にしませんから」
「あら駄目よ、アイリスちゃん。其処はしっかりと叱らなきゃ。男ってこう言う時は馬鹿やるんだから」
「は、はぁ……」
王妃様の言葉になんとも言えない言葉を返す私。
まぁ、確かに馬鹿をやったのでしょうが、あの男のやって来たことと比べれば可愛い物なので怒る気にはなれません。
「あらあら、アイリスちゃんは父親の件の所為であまり怒らないのね」
「あそこまで酷いなら怒りますが……」
「そこまで酷くなくても叱らなきゃだめよ、夫の手綱は妻が持ち、妻の手綱は夫が持つものなのだから」
「……そう、なのですか」
「うーん、あの連中が残したのはアイリスちゃんの思考回路に大きく作用しているわね」
あの連中とは、あの男と継母と継子連中の事だろうか?
そうかもしれない……手綱を握ると聞いてもピンと来なかった、継母達は好き勝手にやり、あの男も好き勝手にやっていたから。
手綱を取っているようには見えなかった。
互いが互いの欲望を満たすために好きなようにやっているようにしか見えなかった。
「あの連中とは、もしや噂のグラン辺境伯のトラブルメーカーですか」
「カイル侯爵、その通りよ」
カイル侯爵様の言葉に王妃様が頷きます。
私が首をかしげます。
「隠しているのもアレだし言ってしまうわね、貴方を虐げていた継母と継子とその一族連中が追い出されて移動して果ての地と言われるグラン辺境伯の土地に住んでいるのよ」
「……」
あの連中、追い出されて最終的に行き着いた先でも問題を起こしているのか。
嫌気がさす。
「アイリス夫人、グラン辺境伯は比較若い辺境伯ですがそれでも武人と名高いです」
「はぁ……」
まぁ、辺境の地を治めるにはそれだけの力がないと駄目だろうと思う、がそれはそれ。
そんな方に迷惑掛けまくっている元身内の話を聞くと恥で死にたくなる。
「アイリスちゃん、聞きたくなかったみたいね、ごめんなさい」
「いえ、良いのです。あまり迷惑を掛けているようなら私が言って直々に処分します」
心の底から思った事を言いました。
「アイリス! 君がそんな事をする必要は無い」
「そうよ、アイリスちゃん! 貴方がそんな事をする必要ないわ!」
「そうだぞ、アイリスちゃん! 君がそんな思い詰めてやることじゃない!」
「アイリスさん、落ち着いて」
レイオス様と王妃様、侯爵様とスノウさんが私を止めます。
「ですがいつまでも迷惑を掛けているようならそうします」
「君が手を汚す位なら私がやる!」
「いいえ、私がアディスに行って王命で処刑を命じますわ!」
「ほら、レイオスもレイラ王妃もこう言っているし!」
「そうですよ、アイリスさん!」
「……分かりました、その時は皆様のお力をお借りします」
申し訳ない気持ちで一杯だった。
元身内、嫌だけど。
そんな輩の処分で他の人の手を汚したくは無かった。
手を汚すなら自分だけでいい。
「……伯爵夫人は相当覚悟を持っていらっしゃるのですね」
カイル侯爵様がそう呟いた。
「カイル侯爵様?」
「私もそうすれば良かったのです! 多少罰を受けようと
後悔していらっしゃる。
カイル侯爵様は
「カイル侯爵、それは難しいわ。だってレラはあんなのでも戦争の功労者の一人だったもの、処刑は難しかったわ。今回、一番の功労者であるレイオス伯爵の妻に手を出したから処刑ができたようなものだもの」
「それは……分かっています。ですが……」
「だからこの件は終わりにしましょう、これ以上何もなければ良い、と」
「そうですね……」
「まだ何かあってアイリスちゃんに被害及んだら王宮に登城してくるのを更に四年禁止します」
「わかりました」
「これはエドモン辺境伯にも伝えてあります」
いつの間に伝えていたのでしょう。
というか、王妃様。
私に対して過保護すぎじゃないかな?
「王妃様、私に対して少し過保護のような気もしますが……」
思い切って尋ねてみることにしました。
「当たり前よ! 貴方のお母様のエミリアは私にとって可愛い娘のような存在であると同時に親友のような存在でもあったの!」
「は、はぁ」
「そして、エミリアに見せて貰った幼い頃の貴方は可愛かったわ、今も可愛いけど! 親友の娘が何かされていたなら私は何があっても守りますわ!」
「……」
どうやらお母様は王妃様と年齢爵位関係なく仲が良かったようだ。
それを言ったら他の貴族の方々もだけれども。
そんな話をしていると、チャイムがなった。
「私が出ます」
レイオス様が部屋を出て行った。
そしてつかれた顔をして手紙を見せた。
私は手紙の封を切り、中身を読む。
内容はまとめると──
今度アルフォンス伯父様がホームパーティをやるらしい。
だから、私とレイオス伯爵様にも来て欲しい。
もし、必要があれば友人夫婦や友人を連れて来てくれてもいい。
アイリス、待っているよ。
と言った内容が書かれておりました。
「──あの、レイオス様。私伯父様達とお会いしたいです」
「分かった、ただ私は最初に会ったような対応しか取れないからそこはすまない」
「……」
レイオス様人見知り激しいのですね。
「はいはいー! 私が一緒について行きたい! スノウと一緒に!」
「マリオン様、そういうのは……」
「スノウさんがいらっしゃるのなら私は構いません」
「あれ、これ私ハブられている?」
「かもな」
レイオス様がそうおっしゃると、侯爵様がスノウさんに抱きつかれました。
「いやだー! 私も一緒に行くー!」
「マリオン侯爵様、誰も貴方を除外してはいません、どうぞスノウさんとご一緒に」
「よし!」
「私も行きたいわぁ」
「王妃様……」
私が無理ですという前にカイル侯爵様が。
「王妃様、我慢をしてください。聞きましたよ、かなり駄々をこねて此処にきたのだと。公爵領ならともかく、子爵領のホームパーティに王妃様が顔をだしたらかなり大事になります」
「分かっているわよぉ」
王妃様は拗ねたような顔をしました。
私は手紙の返信を書きました、侯爵夫妻と一緒に行く旨も添えて。
レイオス様はそれを受け取ると玄関に向かい、そして再びつかれたような息を吐きながら戻って来ました。
顔がいつもより赤いのでちょっと精神的に疲れていらっしゃるのでしょう。
「レイオスが疲れているみたいだし、帰るか」
「はい、マリオン様」
「では、失礼します、レイオス伯爵殿」
「レイオス、またね」
そう言って魔法陣や馬車で皆様が帰ると、レイオス様は私に抱きつきました。
「レイオス様?」
「……疲れたから、君が欲しい」
「──ええ、お好きなだけ」
そう言ってキスをしました。
唇に熱を感じる口づけでした──