私がスノウさんと、王妃様と会話をしているとチャイムが鳴った。
「何方でしょう?」
「私が見てこよう」
そう言ってレイオス様が玄関に向かわれました。
「私もついて行ってみよう」
侯爵様もついて行かれました。
それから少ししてレイオス様が戻ってこられました。
「レイラ王妃」
「なぁに、レイオス伯爵」
「話題になっていた、カイル侯爵が謝罪にいらっしゃいました」
「あら、私の居場所は教えてないのに?」
「私の妻への謝罪と、その後王宮への再度の謝罪へ訪れる予定だったと」
「ああ、私の馬車を見たのね、そして居るって気付いたのね」
「はい」
「いいわ、通して頂戴」
「畏まりました」
レイオス様は玄関の方に戻ります。
そして整った顔立ちに、しっかりと着込んだ貴族服がよく似合う、青年のような御方が立っていました。
「王妃殿下、愚姉が本当に申し訳ございませんでした。そしてアイリス伯爵夫人、初めまして、私はカイル。カイル侯爵です。愚姉の所為で怪我などする羽目になり誠に申し訳ございませんでした」
執事らしい方が王妃様の付き添いの従者の方に何かを渡し、レイオス様にも渡されました。
「これはもしかしてブルーダイヤモンドかしら?」
「はい、ブルーダイヤモンドです」
「そんな効果な物、出してもいいのかね?」
「良いのです、我が領地の鉱山で採れる物ですから」
ブルーダイヤモンドは価値が高いのは、知っています。
「そんな、こんな効果な物を……」
「いいのです、それでも割に合いません。王妃殿下におかけした迷惑と、アイリス伯爵夫人におかけした迷惑、どう償えば良い物か」
オゥイエ。
本人が心から謝罪するならともかく、弟さんが謝罪するのはちょっと良心が痛む。
「あの、そのレラ元辺境伯夫人が悪いのでお気になさらず……」
「いいえ! あの姉をあそこまで甘やかし増長させたのは私の父母にも責任があり! それを止められなかった私にも責任はあります! 昔『綺麗な女の子が欲しかった』なんて理由だけで愚姉だけを甘やかし、問題行動も金で解決してきた父母だから祖父母──私の義父母は、私が侯爵としての仕事が全てできると判断するや否や父を国王陛下の勅命で侯爵の座から引きずり降ろし、私を侯爵にしたのです」
カイル侯爵様。
何か、凄くこう、父母と姉への怒りに満ちていらっしゃる。
「カイル侯爵殿落ち着きたまえ、アイリス伯爵夫人が困惑している」
「申し訳ございません」
「い、いえ……」
「取りあえず、カイル侯爵、座ってお茶でも飲みましょうよ」
「いや、それは……」
「
レイラ王妃様の言葉に圧がこもります。
ちょっと怖いです。
「……畏まりました」
カイル侯爵様も椅子にお座りに成られました。
執事の方は立っていらっしゃいます。
レイオス様と侯爵様もお座りになられました。
「カイル侯爵、もし分かったことがあったら私に話して欲しいの」
「はい、本来父母には財産と呼べる物が無かったのです」
「どういうこと?」
「父母の財産は、祖父母が二人を強制的に隠居させる為に全て没収させました、だから財産と呼べる物がなく、私が生活費として食料などを送っていました」
「なら、売れるものはないのでは?」
「それが……父母が売っていたのはブルーダイヤモンドでした、それも鉱山からこっそり採取したものを」
「まぁ」
「鉱山まで行く魔法は禁止していたから行けないと思っていたから、其処を突かれました、馬車で夜中にやってきて採掘していたのです。それを闇オークションで売りさばいていました」
そこまでして、あのレラという女の為に何かしたかったのか。
綺麗な女の子が欲しかったから、望んだ女の子だったからと言う理由で。
「カイル侯爵様、貴方はご両親に愛されたかったですか?」
思わず聞いてしまった。
「いいえ、祖父母に産まれてすぐ育てられ、乳母からも愛情を貰い、友や妹にも恵まれました。だからこそ、傍若無人に振る舞う姉が私は許せませんでした、例え百年前の戦争で戦果を上げたとしても」
「カイル侯爵様……」
「アイリス伯爵夫人。貴方はその愚かな姉のふるまいの犠牲者です、もっと姉を恨んで構いません、そして私を恨む権利もあります」
カイル侯爵様は心の底からそうおっしゃっている。
でも私は──
「私が恨んだのはレラという女とその父母だけです。カイル侯爵様達を恨む気はありません」
「何故です⁈」
驚かれる、カイル侯爵様。
私は微笑みます。
「私はある時、彼らを恨みに恨みました、今はレイオス様に愛されている、それだけで満たされています」
レイオス様の顔がじんわりと赤くなっています。
我ながらちょっとくさい台詞でしたね。
「本当、アイリスちゃんはレイオスを愛しているのね!」
レイラ王妃様が感激していらっしゃいます。
「ちょっと風にあたってくる」
「私もそうする──」
レイオス様と侯爵様が部屋から出て行かれました。
居てくれると嬉しいのですが……
「しかし、アイリス伯爵夫人、契約の状況を見てしまったのですが……貴方様はレイオス伯爵殿と契ってはおられないのでは?」
「こら! カイル侯爵⁈」
「ああ、それは──」
「大切すぎて、手をだしてくれないんですよ。レイオス様は」
私はにこりと笑いました。
「いやぁ、熱烈な愛の言葉だったなぁ!」
マリオンがレイオスの背中をバンバンと叩く。
「止めろ、今嬉しすぎて顔が発熱して止まらないのだ」
「いやぁ、炎なのに冷徹伯爵のレイオスがなぁ」
「燃やすぞ?」
「キャー! 止めてー! スノウとまだ長生きしたいんだよー!」
「ならからかうな……!」
レイオスは額を押さえながら、熱帯びた息を吐き出した。
「全く、あんなに可愛いから、余計に手を出しづらいのだ。大切すぎて」
レイオスはぼそりと呟いた。
「まだ手をだしてなかったの⁈」
「当たり前だ! あんな可愛い存在に手を出す勇気は私にない!」
「でも、手を出さないとそのうち年とるぞー?」
「余計なお世話だ!」
夕日を浴びながら、レイオスとマリオンはボコボコと殴り合った──