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第24話:負の遺産~レラが残した物~



「ん……」

 目を覚ますとレイオス様がまだ眠っていた。

 私は起き上がり、身支度をして薬草畑に向かった。

「治癒草がこんなに、ヒールポーション系を作るのには必須だから、もう少し増やして作ってくれる」

 使い魔はどこかに行って種を持ってきて畑を耕し、土に種を植えてその上に土を被せ、水をやっていた。

 すると直ぐさま芽が出た。

「本当成長が早いのね……」

 私は感心する。

「アイリス!」

「レイオス様……ふぎゅっ」

 レイオス様に抱きしめられ変な声が出ました。

「れ、レイオス様、抱き潰されて、しまいます」

「ああ、すまない……朝起きたら君がいなくて不安で……」

「申し訳ございません、では次からは書き置きを残しておきますね」

「──ああ、そうしてくれると助かるよ」

 レイオス様は私の頬にキスをしました。

 少し熱く感じました。

 不安から発熱してしまったのでしょうか?

「では朝食は?」

「レイオス様とご一緒に食べたかったので」

「そうか、では一緒に食べよう」

「はい」

 レイオス様の手を握り、私達は食堂へ向かいました。


「……」

 新鮮な野菜とハムとチーズを挟んだパンと、スープ、果実にハーブティが出されました。

 パンはシャキシャキ感とハムとチーズの旨みがずっしりとしていて良かったです。

 スープは澄んでいて、それでいて複雑な味なのに旨みと絡み合っていました。

 果実は切り分けられ、食べると蕩けるように口の中でほどけていきました。

 ハーブティは最期に飲むとすっきりとした気分にさせてくれました。

「今日は何をしたい?」

「薬を作りたいです……」

「……アイリス、昨日のことをまだ……」

 私は首を振ります。

 確かに昨日のことは引きずっています。

 でも、前を向きたいのです。

 もしもの時の為に。


「各種族のメガヒールポーションを用意したいのです」

「素材は?」

「薬草畑で見つけましたので、蒸留水だけが必要です」

「そうか……」

「ですのでしばし、私が調合錬金術に時間を割くのをお許しください」

「──分かった」

「レイオス様に感謝を、有り難うございます」

 そう言って私は木箱に積み上げられた材料を見ながら使い魔達と話す。

「手伝ってね」

 使い魔達は嬉しそうに飛び跳ねた。





「レイオス、邪魔させて貰うぞ」

「……」

 マリオンとスノウがやって来ると客室にレイオスは案内し、茶菓子を出した。

「レイオス、機嫌が少し悪いな」

「アイリスに調合錬金術師の国家資格取らせなければ良かったと後悔している」

「全く過保護にも程がある」

「当たり前だ、アイリスは私の大切な妻だ」

「あの、何かあったのですか?」

「あー……呪いの件がアイリスちゃん話した事でアイリスちゃんが自虐的になっているんじゃないかって話」

「……レラ元辺境伯夫人と、アイリスさんの血縁上の父親であるルズ元子爵がやらかした件についてですね……それは私も不安です」

「ああ、私も不安だな、それは」

「その所為か、今薬造りに熱中している。何か起きてしまったらを考えて」

「そうなのですね……」

 そんな話をしているとチャイムが鳴った。

「私が出る」

 レイオスは客室を後にし、扉を開けるとエドモンが血相を変えて立っていた。

「レイオス、アイリス夫人は国家調合錬金術師だと聞いた! 各種族のメガヒールポーションはないか⁈ 10本ずつでいい!」

「エドモン、何をそんなに慌てて……」

「おい、エドモンどうした。もしかしてレラの奴が残した物で重傷になった奴が出たとか?」

「その通りだ!」

 その言葉に、レイオスは忌々しげな顔をした。

 スノウは不安そうにマリオンの腕を掴み、マリオンはやらかしたような表情を浮かべた。

「ちょっと待ってくれ」

 レイオスは二階へと駆け上がった。





「これで各メガヒールポーション20本ずつできたっと」

 私は一端区切りを付けました。

「そう言えば、さっきチャイムが鳴ったような……そろそろ出ましょうかね」

 私は部屋の扉を開けに行こうとすると、レイオス様が勢い良く扉を開けました。

「アイリス、君に頼みがある」

「なんでしょうか?」

 真面目な表情のレイオス様が私の肩を掴みます。

 熱を持っているので、よほど重要な案件なのでしょう。

「エドモン辺境伯の領地で、レラの物を処分した際重傷になった物がでた、各種族10本ずつメガヒールポーションが欲しい、あと何本作れる?」

「メガヒールポーションなら20本ずつ各種族分作り終わっていますよ」

「そうなのか⁈」

 レイオス様は驚いた表情をしました。

 しかし私が気になるのはあの辺境伯夫人だったレラの残した物で負傷者が多数ということ。

「一体何があったのです」

「持ち運ぶ際に聞こう」

 レイオス様はそうおっしゃると、使い魔達に十本ずつ木箱に入れて運ばせていました。


「10本ずつできていた、アイリスを連れていく」

「それは止めた方が良い」

 レイオス様がそうおっしゃると、私を連れて行くのをエドモン辺境伯様は止められました。

「どうしてだ」

「その物は無差別だが優先的にアイリス夫人を狙うように術式が仕込まれている」

「‼」

 レイオス様は表情を歪めました。

「……仕方ない、侯爵夫妻と一緒に待っていてくれ」

「アイリスさん、私達と一緒に待ちましょう?」

「そうだな、待つか」

「……はい」

 私はそう言うことしかできませんでした。


 魔法陣の中に木箱と共に消えていくレイオス様とエドモン辺境伯様。

 レイオス様が怪我をしないことを私は祈りました。





「これは酷いな」

 現場についたレイオスは血の匂いを買いで顔をしかめました。

「で、物体は?」

「今停止魔法で止めている、あれだ」

 エドモンの指さす方向を見ると、拷問器具のような物体が不自然な形で静止していました。

「追尾式拷問器具……! 販売は禁止されていたはずでは⁈」

「材料があればレラなら作れる、材料の販売停止は裏ルートではされていなかったから其処を狙われたのだろう」

「……」

 レイオスは静止しているそれらを黒い炎で燃やし尽くした。

 塵になったそれらをそのままエドモンが消滅させる。

「助かった」

「それより、治療だ」

「ああ」

 レイオスは使い魔に命じてエドモンが指定する負傷者達にメガヒールポーションを渡した。


「おお……!」

「傷が塞がった!」

「頭の傷も塞がった!」


 負傷者達は歓声をあげる。

「エドモン辺境伯様、有り難うございます」

 負傷者の内の一人がエドモンに近づき頭を下げた。

「いや、怪我をさせてしまったのは私の不注意が原因だ、レラがこんな物作っていたなど知らなかったのは私の監督不足だ」

「夫人のことは仕方ないです、それよりこの薬は?」

「レイオス伯爵の妻であるアイリス伯爵夫人が作ったものだ」

「奥方様にお礼を言いたいのですが、多分今は来られないでしょう、代わりに伯爵様、有り難うございます」

「礼は妻に伝えよう」

「有り難うございます」

 レイオスは場所が安全になるのを確認してから屋敷に一人戻った。





「レイオスの奴遅いな」

 ソファーにだらしなく座りながら侯爵様がおっしゃいます。

 本当、その通りです。

 何かあったのではないでしょうか?

 不安で仕方ないです。

 そうしていると、ガチャと、扉が開く音がしました。

「アイリス、ただいま」

「レイオス様!」

 私はレイオス様に抱きつきました。

 服の乱れもない、痣らしき物もない、無傷のレイオス様。

「レイオス様、怪我などは?」

「しなかったよ」

「良かった……」

 私は安堵の息を吐き出しました。

「何があった?」

「追尾拷問器具があった。処分する際に起動したんだろう」

「うげぇ、趣味悪いなあの女」

「全くだ」

 追尾式拷問器具。

 戦争時活躍した拷問器具、しかし危険性から所持、制作などは罰則を設けられている──なのに、レラはそれを作っていた。

「エドモンは自分の監督不行き届きだって嘆いていたよ。あんな女の動き見ているだけで精神がすり減るだろうよ」

 確かにそうかもしれません。

 エドモン辺境伯は、もし私がメガヒールポーションを作れなかったらどうするつもりだったのでしょう。

 少しだけ不安になりました──




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