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第23話:まるで呪詛のように~私の所為~




「ここは……」

 光が消えると、少し明るい館の中にいました。

「療養院だ、病人がいる所だよ」

「では薬を持って行こう」

 病室には苦しそうな表情をしている方々ばかり。

 働いているらしき看護師の方々がマリオン様の指示で私の万能薬を対応する方に飲ませて居ました。

 すると顔色が良くなり、皆が起き上がる。

 医師とはすこし違う格好の方が来て言う。

「うむ、呪いは無くなったようだ」

「のろ、い?」

 病と聞いていたので私は混乱します。

「あー! 私達屋敷に行くから後は任せたー!」

「アイリス、聞き間違えだ」

 わーわーと叫ぶ侯爵様と、私の背中を押すレイオス様。

 魔法陣に飛び込み、豪奢な屋敷へと転移します。

 レイオス様と違う屋敷でした。

「あら、マリオン様お帰りなさいませ。伯爵様、アイリスさん、ようこそ私達の屋敷へ」

「あの、聞き間違いじゃないですよね。呪いって言っていましたもの」

 私がそう尋ねるとお三方はばつの悪そうな顔をなさりました。

「マリオン様、ごまかし続けるのと後が怖いと思います、いいましょう」

「あーそうだな……」

 私達は客室に案内されました。

「君の父親だった男──ルズ元子爵が俺の領地に呪いをまき散らす呪水じゅすいをばらまいたのが原因だ、それで魔力が低い人と魔族の一部が呪いにかかった」

「‼」

 なんて迷惑をかけてしまったのだろう。


縁を切ってなお私についてまわるのか、あの男は‼

罪のない方々を苦しめて‼

ああ、謝罪しても、謝罪したりない‼



「ただ、それを指示した相手が……」

「誰なのですか?」

「レラだ」

 泣きたくなるのを堪え、尋ねると、私の腹を蹴り飛ばしたあの辺境伯夫人の名前が出て来ました。

「何故あの男に……」

「もし自分が死んだ後嫌がらせができないと思って居たのかもしれない、だから君への最期の嫌がらせとして結婚式を台無しにしてやろうとした──が、上手くいかなかったようだ」

「式場のある私の領地への嫌がらせはできたが、別にアイリスちゃんの所為だとは思わないよ、あの馬鹿二人の所為だからね」

「……」


 あの男も、あのレラって女も迷惑をかけることしか脳みそにないのか⁈

 ああ、目を付けられたことと、血がつながっている事が忌々しい……


「薬を作って下さった方ですか?」

「⁈ え、あの」

「そうだ、アイリス伯爵夫人、レイオス伯爵の妻が薬を作った」

 私が上手く言えない時、侯爵様が代わりに私の事を紹介した。

「感謝いたします……」

「有り難うございます……!」

 私の心の中は罪悪感で一杯だった。


 だって、あの男があんな事をしなかったらこの人達は苦しまなくてすんだ。

 そしてあの女レラがあの男を唆して、物騒な物を渡さなかったらこの事自体起きなかった。

 私の所為だったから。

 あの女が私に嫉妬して迷惑をかけようとしたから、あの男が私の式を台無しにしようとしてでてきたから。

 私が居なかったら。

 こんな事起きなかった。


 めまいがして立っていられなかった。


「アイリス……」

 レイオス様が私の体を支えてくださりました。

「ちょっと薬の急造で疲れたのかもしれない、お前の屋敷に戻すから休ませろ」

「分かった」

 レイオス様に抱きかかえられ、私はそのまま魔法陣でレイオス様と共に屋敷に転移していました。

 そのまま、ベッドまで抱きかかえられて移動し、寝かせて貰いました。


「アイリス」

「レイオス様……言えなかった、貴方達が苦しんだのは私の血縁上の父の所為だと」

「言わなくて正解だ、色々誤解を生む。分かる人が分かればいい」

「でも、あの男が、あのレラという女に指示されてあんな行動しなければこんなこと最初から起きなかったのです‼」

 血反吐を吐くように私は言いました。

「だから君のせいでは無いのだ。言ってしまえば私の所為だ。もっと早くレラを処分するように言っていたらこんなことは最初から起きなかった」

「レイオス様……」

 レイオス様はどうしてここまで優しいのでしょう。

 友人の土地でトラブルを起こした者の娘に対してここまで優しくできるのでしょうか?

 何故私を責めないのでしょうか?

「レラは──前々から王妃様関係でも私関係でもトラブルを起こし、王妃様が処刑してほしいと言った程酷かったのだ、でもレラも戦争の功労者だったから見過ごされた」

「……」

「その結果、レラはここまで調子にのり、今回の件を引き起こした」

「レイオス様……」

「だから責任はレラをどうにかできなかった私達にある、君は自分を責めないでくれ」

「……はい」

 返事をするものの、どうしても自分を責めずにはいられない。

「アイリス……」

 レイオス様の手が私の頬を撫でて、いつの間にかこぼれていた涙を拭ってくださいました。

 暖かく心地良い手が私の頬に触れる感触は心が落ち着きます。

「君はそう言っても責めずには居られないのだろう……」

「……」

「でも、今回の事を結婚式に来た者に共有したら、誰も君を責めなかったのだ。だから君には非はないのだ」

「でも……」

「アイリス、その善性は君の美徳だが、同時に君を苦しめるものでもある。自分の罪悪感に押しつぶされないで」

「……」


 私は善性なのだろうか?

 お母様を死なせた者への嫌がらせを続け。

 そいつらが潰れる様を知った時喜びに感じた私が。


「アイリス、君の本性は善性だ。だが例外があった、君の母君を死に追いやった者達への憎しみ。それが善性を歪ませた」

 頬を撫でながらレイオス様は続けます。

「君は、本当は直接手を下したい程憎かったのだろう、それほど君の母君の愛が君に注がれていた故に。でも堪えた、手を下すのは自分じゃ無い、連中が自分で首を吊る瞬間を見届けたかったのだろう」


 きっとそうだ。

 そうなのだろう。

 私の手が血で汚れたらお母様が悲しむから。

 連中が自分で破滅するのを見たかった。

 直接見ることは敵わなかったけれども──

 奴らは破滅という縄に縛られることになった。

 だが、それでも私の前に出て来た。

 だから不安なのだ。


 あの女達継母と継子達が、私の目の前に出て誰かに危害を加えることが。


「君の継母と継子と関係者の行方が気になるかい?」

「! ……はい」

 どうしてレイオス様はお分かりになるのでしょうか?

「アディス陛下の影に頼んで追跡させているから君に危害を加えるような動きがあったら即座に連絡が来るようにしたよ」

「ありがとうございます……」

 私は静かに頷いた。

 少しだけ安心できたのだ。

 これであの連中が動いた時、止められる、と。





 夜中──

 レイオスはそっとベッドから起き上がり、アイリスが眠っているのを確認すると部屋から出て行った。

 自室に行き、魔導器を動かす。


『マリオン、レイオスよ、此度の件は聞いたぞ』

『申し訳ございません、アディス陛下。まさかレラがあのような形で関与し、ルズ元子爵がいいように使われているのも気付かなかった私の落ち度です』

「あれは誰にも予測できなかった、仕方あるまい」

『その通りだ、マリオンよ。それに呪いはアイリス夫人の万能薬で除去できたのだろう』

『おっしゃる通りです』

『なら良いでは無いか』

「アディス陛下、アイリスを虐げていた女達とその一族は?」

『自分達が居た場所から追い出され、果ての土地へ移住したがトラブルを起こし続けているようだ』

「果ての土地……グラン辺境伯の土地ですか?」

『その通りだ』

「グラン辺境伯には悪いが、監視もお願いしよう何をやらかすか分からない」

『その通りだな』

 レイオスの脳裏には不安そうな、自虐的な表情の愛しい妻アイリスの顔が浮かでいた。


 悲しませたくない──


 レイオスの心の中にあるものはそれだった。





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