国家資格をとった日もレイオス様は私に何かしようとはしませんでした。
正確には体の契りを求めることはありませんでした。
翌日──
「ふぁああ……」
私が目覚めるとレイオス様はもういらっしゃいませんでした。
部屋の扉ががちゃりと開き、
「おはよう、アイリス。よく眠れたかい?」
と、レイオス様が微笑んでくださいました。
「はい……」
「着替えるだろうから、私は出よう」
そう言って一端部屋から退出なされた。
私は寝ぼけている頭をなんとか覚醒させて、着替えて部屋を出て食道へと向かう。
「慌てなくても良かったのに」
「レイオス様が起きていらっしゃったのですから、私もちゃんと起きなければ」
「そうか、そう思ってくれるのは嬉しいが、無理はしないように」
「はい」
そう言っていつも通りの食事を取りました。
白いパンに、サラダ、瑞々しいフルーツ、ハム、スープと言った物です。
「アイリス、国家資格を取ったわけだが何かやりたい事は?」
「そうですね……」
特に思いつかない。
何か依頼があれば良いのですけれど。
食事を終えて使い魔が片付けをしているのを見ながら考えます。
すると──
「アイリスちゃん、居る?」
家の中に侯爵様が入って来たのが分かりました。
レイオス様は深いため息をついて、食道を出たので私もついて行きました。
「マリオン、何なのだ?」
「いや、ちょっとアイリスちゃんにお願いが……」
「そう! 調合錬金術で人と魔族用の万能薬作ってくれない?」
「できなくはないですが……」
「本当⁈ 助かるよ」
「おい、アイリスは引き受けては──」
「いいですよ、侯爵様と──」
「スノウさんの頼みでしょうから」
と、私が言うと、隠れていたスノウさんが申し訳なさそうな顔をしてきた。
「ごめんなさいね、本当は私達が領地で解決しなきゃいけない問題なのだけど」
「いいえ、お気になさらず」
「……スノウ夫人がいるなら良いか」
「おい、仮にも友人だろう俺達‼」
「親しき仲にも礼儀あり」
レイオス様、マリオン様に地味に恨みでもお持ちなのでしょうか?
いえ、おっしゃった通り「親しき仲にも礼儀あり」なのでしょう。
「で、どれ位必要なのです?」
「人が50人、魔族が20人分」
「……作れなくはないですが手持ちの薬草が──」
「あ、それは俺が持ってきた」
侯爵様は木箱に入った薬草たちを積み上げます。
何処に隠していらっしゃったのでしょう?
私は薬草の種類を確認します。
「はい、問題ありません」
「お前達、持って行きなさい」
レイオス様は使い魔に指示し、私の部屋へと薬草の入った木箱を持っていきました。
「では、集中したいので、一人にしてくださいね」
「ああ」
「わかったよ」
「お願いします」
私は部屋に一人になり、腕をまくります。
「さて、やりますか」
そう言って薬草をまず調合し始めました──
「マリオン、いきなりアイリスに万能薬を作らせるなんてどうしたのだ?」
レイオスは不機嫌そうに聞きます。
「実は領地で病が流行り、その分の薬が足りなくなったのです」
スノウが申し訳なさそうに言う。
「夫人、それは誠か?」
「ええ、いつもは領地を、護衛を付けて散歩する事が許可されているのですが、ここ一ヶ月は家から出られず、直接馬車転移したり、魔法陣で転移したりと」
「……それは相当だな」
「私は魔法の防壁でコーティングして防いでいるからいいけど、他の者はそうはいかない、だから今は領地を隔離して、病を漏らさず、内々で病に対処しているんだ」
「病はどこから来た?」
「結婚式の後に発生し始めたんだ」
「……となると媒介となる何かあの男は持っていた?」
レイオスの言葉にマリオンは首をかしげる。
「そんなそぶり無かったけど……あり得るかもしれない、ちょっと尋問してくるからスノウを宜しく」
「分かった」
「無事に帰ってきてくださいね」
「勿論!」
マリオンは魔法陣の中に立ち消えた。
「マリオン様、大丈夫でしょうか?」
「マリオンの事だ。問題は無いだろう」
そうこうしていて30分が経過した。
「──あのクソ野郎!」
マリオンは激怒して現れた。
「どうしたのだ?」
「死んだレラが関わっていやがった、結婚式をやる場所にこの水をぶちまけろと言ってその場所を調べたら呪いがかかっていた!」
「では、はやり病などではなく」
「呪いだ!」
「万能薬なら呪いも消せるのではいいのでは」
「それはそれ、これはこれ!」
「その場所は浄化したのですか?」
「ああ、清め水をまいて浄化した、ただ清め水は飲んだら唯の水だから、アイリスちゃんの薬が頼みの綱だ」
三人はそろって扉の向こうを見た。
「できたっと」
私は瓶に入った万能薬を木箱に入れて伸びをしました。
70本分きっちり作りました。
人の分と魔族の分50本と20本。
外を見ると夕暮れ時になっていました。
「いけない、侯爵様達を待たせているわ、絶対!」
私は使い魔達に木箱を運ばせて、急いで客室へ向かいました。
「あの、できました」
「本当かい⁈」
「はい」
「ありがとう、アイリスちゃん」
侯爵様が手を握ると、レイオス様がべしんと侯爵様の頭を叩きました。
「いでぇ!」
「マリオン、アイリスに触るな」
「へいへい……」
侯爵様はふてくされたような顔をなさって、手を離しました。
「アイリスさん、ありがとうございます」
「スノウさん……いえ、私は頼まれた事をしただけです」
「では持って行くか、スノウは屋敷に先に帰ってくれ」
「はい」
スノウさんは魔法陣に入り姿が消えました。
「あの、本当に効果があるか、確かめたいので付き添いをしたいのです」
「アイリス?」
レイオス様は驚いた様子です。
「お願いします」
「分かった……ただし、私もついて行く」
「ありがとうございます」
「まぁ、俺の領地ならお前の本性知っているのしかいないから、いいか」
侯爵様は魔法陣書き換え、入って行きます。
私もレイオス様に促され入って来ました。
この先で