「レイオスの奴、いつの間に喧嘩にも強くなったんだ?」
「同感だ」
「マリオン様! エドモン辺境伯様!」
「侯爵様! 辺境伯様」
お二人は顔を青痣だらけにしていました。
「二人そろって手加減しないから私も本気になったのだ!」
「れ、レイオス様⁈」
火でできた体なのにあちこちに痣のような模様が浮き上がっていました。
「二人がかりで殴りに来るとは酷いだろう⁈」
「酷いのはどっちだ! せっかく結婚式も挙げたというのに白い夜しか過ごさないとは!」
「そうだそうだ!」
「お前達に私の何が分かる!」
また、口論が始まりました。
頭が痛い。
そうしていると、スノウさんがドンと、テーブルにワインを置きました。
その音に口論が止みます。
「
「あ、ああ分かった」
「ご、ゴメンよ。スノウ」
「す、すみません、スノウ夫人」
「分かってくだされば良いのです、分かってくだされば」
ニコニコとしているスノウさんが滅茶苦茶怖く見えた。
普段怒らない人が怒ると怖いってお母様の言う通りだったよ……
その後、ワイン三本を置いて辺境伯様は金塊を持ち帰りました。
スノウさんは、侯爵様の耳を掴んで、そのままお帰りになりました──
「レイオス様、後無事ですか?」
「痛……大丈夫だよ、溶岩風呂に二日くらい浸かれば治るから」
あ、やっぱりお風呂溶岩風呂だったんですね。
「……私にお任せください」
「アイリス?」
私は使い魔達に指示する。
「火炎草に、煙草生えていますか? あるなら持ってきてください」
レイオス様の使い魔達は頷き走り去り、火炎草と煙草を持ってきた。
私は自室に入り、マジックバックに隠していた調合錬金術と調薬の道具を取り出す。
作るのはフレアヒールポーション。
炎の体を持つ者を回復させる薬だ。
通常のポーションの材料の治癒液と、火炎草と煙草を溶かして煮詰める。
すると燃えるような赤い液体が完成した。
「フレアヒールポーションです、どうぞ」
「フレアヒールポーションって作れる者が限られていると聞く、君はそれが作れるのかい?」
レイオス様の問いかけに頷きます。
「前回のメガヒールポーションも何処で学んだのかね?」
「独学です、お母様が病気になった際あの男が治療費を出してくれなかったので、医学書や錬金術の本などをひっくり返して覚えました……ただ、お母様の病気を治療できるだけの技量を手にする前にお母様は亡くなりました……」
「そうだったのか……」
「ですからどうぞ、お飲みください」
「有り難う……」
レイオス様はフレアヒールポーションが入った耐熱グラスに口を付けて飲み干しました。
すると、痣などが綺麗に消えていきました。
「ここに来て、レイオス様と親しくなろうとしていたので、久々の調合錬金術に戸惑いましたが成功しました」
私は安堵の息を吐き出しました。
するとレイオス様はおっしゃいました。
「つまり、アイリスは薬が作れるということなのだね、どの種族のも」
「ええ、一応」
「……」
レイオス様は何かを考えているようでしたが、そして一言こうおっしゃられました。
「人用の万能薬って作れるかい?」
と。
私は静かに頷きました。
そして薬を作り、レイオス様に預けました。
何に使うのでしょうか?
その日は、その後普通に過ごし、夜一緒に寝るだけでした。
翌日──
「よう、レイオス。あーその昨日は悪かったな」
「伯爵様、マリオン様が失礼な事を……」
「いいのだ、それより見て欲しいものがある」
「?」
首をかしげている私に対して、何か分かっているような顔をしていらっしゃる侯爵様とスノウさん。
レイオス様は客室に案内し、私が昨日作った人用の万能薬を見せます。
「これは人用だが万能薬だな。調合錬金術でしか作れない貴重な薬。何処で手に入れた」
侯爵様が、瓶を見ながら静かにおっしゃいました。
「アイリスが、作ったのだ」
「このレベルのもの作れるってこと⁈ もしかしたら国家指定レベルの調合錬金術師?」
侯爵様は凄く驚いていらっしゃいます。
心の底から。
「……お母様の病気を治したくて独学ですが調合錬金術を覚えました。ただ薬を作れるようになる前にお母様は亡くなりました」
「そうだったのか……しかし、無免許の調合錬金術か」
「どうしました?」
「調合錬金術師って一応国家資格なんだよね、これ。話の流れから多分アイリスちゃん資格とってないだろう?」
「はい……取るとバレますし」
「だろうね、じゃあ今からでも遅くないし、国家資格取ろうか?」
「あの必要なものは?」
「ああ、全部王宮でやるから、私が事前連絡すれば試験をやらせてもらえるし、筆記と学科もあるけど、大丈夫だろう?」
「はい、本の内容は全部頭にたたき込んでいますから」
「それは凄い! あ、レイオスもそれでいいよな」
「ああ、勿論」
レイオス様が頷かれると、マリオン様は魔法陣の中に消えてしまいました。
「凄いわ、アイリスちゃん、こんな特技があるなんて」
「いいえ、凄くはないですよ」
「凄いのですよ?」
「凄いのだよ」
調合錬金術は調合術と錬金術を掛け合わせたもの。
両方できて初めて成り立つ者だけど、私はこれでお母様を救いたかった。
だから、凄くはないのです。
「いやっはー! アイリスちゃん、明日の午後から試験にしたけど大丈夫⁈」
マリオン様が魔法陣の中から飛び出してきました。
内心驚きつつも平常心を保ちます。
「大丈夫です」
「場所は王宮だから俺達も同行するよー!」
「……私もか?」
レイオス様がちょっと嫌そう、王宮で何があったのでしょう。
「当たり前だろうが、またアイリスちゃんが酷い目あったらどうする」
「分かった、ついていく」
「……」
レイオス様、単純すぎません?
翌日、レイオス様に案内され王宮へと来ました。
すると──
「アイリスちゃぁああん!」
「レイラ王妃殿下⁈」
私に抱きついてきました、王妃様が。
「会いたかったわ!」
「あ、あの今日は別件で来まして……」
「そうです、レイラ王妃。別件です」
レイオス様が王妃様と私を引き剥がしました。
「別件?」
「調合錬金術の国家試験ですよ」
「ああ、アイリスちゃんだったの⁈ 久々だから珍しいと思っていたら」
「でしょうね」
侯爵様も遠い目をしてらっしゃる。
「じゃあ、頑張ってね!」
行ってしまった王妃様を見て、ため息をついてから、やって来た試験官らしき方に案内されて一人会場というか個室に入りました。
「ではまず筆記から」
試験官の方は穏やかに微笑むと紙を渡してくれました。
私はペンを取り出し書き込んでいきます。
全て書き終わり、ミスがないか確認して提出しました。
「では実技ですね」
そう言われて、各種族のヒールポーションに相当する物を作りました。
試験官の方はうんうんとにこやかに頷いています、逆に怖いです。
全てを終えて退出しようとすると用紙を渡されました。
内容は国家調合錬金術師資格第一級保持者認定証と書かれていました。
しかも国王様の直筆入り。
「え、え?」
「これから頑張ってください!」
試験官の方にそう言われ私はぽかんとしていました。
私は退出し、用紙を見せると、皆嬉しそうな顔をしてくださいました。
「アイリス、凄いじゃないか」
「アイリスさん凄いですわ」
「凄いねー! アイリスちゃんは! 第一級にしといて良かった!」
侯爵様、だから私の資格は第一級なのですね、道理で地味に難しかった。
その後、屋敷に帰るとお祝いのパーティをやってくれました。
それがとても嬉しかったです。
ただ、試験を第一級にしたことで侯爵様はスノウさんとレイオス様にしこたま叱られていました。
自業自得なので私は庇いません、あれ本当に難しかったんですよ実際やった身としては──