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第20話:白い夜~知らぬ場所で行われた制裁~



「ひぃひぃ……」

 ルズはマリオン侯爵の領地の端っこで震えていた。

「な、何なんだ! あの魔族の貴族達は……! ぜ、全員あの女の知り合いだって言うのか⁈ あの夫人、これを知ってて……⁈」

「……私の妹をあの女呼ばわりとは、何処までも腐った奴だな。貴様は」

「⁈」

 ルズが振り返ると、其処にはアルフォンス子爵と、ガーナ前子爵、カティ前子爵夫人、それからその親類達、そして──

「やれやれ、どうやって来たのだろうな」

 呆れかえるマリオン侯爵がいた。

「我が妹を蔑ろにした罪償って貰うぞ」

「は、話が違う!」

「話が違う? そうだな、アイリス伯爵夫人はお前の事はどうでもいいのだ、でもな? アルフォンス子爵達──エミリアさんの実家や親類はそうはいかない」

「ど、どうするつもりだ⁈」

「エミリアが生きていた頃からの不貞行為、そして私の養女を蔑ろにした行為体で払って貰うぞ」

「あぁ、体っていっても、鉱山労働でね、人で不足だからちょうど良い」

「こ、鉱山労働⁈」

 鉱山労働は危険がかなり伴う。

 人にとっては、言ってしまえば死刑宣告に近い。

「いやだ、誰か、助け──‼」

 ルズの姿はその瞬間消えた。

「拘束の首輪つけて、今頃貴方の鉱山で労働開始って言われて真っ白になっているだろうさ」

「マリオン侯爵様、感謝いたします」

「いいさ、別に。あ、今回の件はくれぐれも、アイリスちゃんには内緒にしてくれよな」

「勿論でございます」

「では、こちらからお帰りを」

 マリオン侯爵が展開した魔法陣の中にアルフォンス子爵達は吸い込まれるように消えていった──





「そっち、落ち着いたー?」

 会食場所に移動すると侯爵様がやって来ました。

 いつの間に。

「マリオン、何処に行っていた?」

「ちょっと、領民に相談されてさ」

「こんな祝いの日に?」

 私は首をかしげます。

「だからこそ、さ」

 侯爵様はちゃめっけたっぷりにウィンクをなされました。

「さて、これからは会食だ、飲んで食べてくれ」

 豪勢な料理が並べられます。

「あの、これ食べきれなかったら……」

「領民と、使用人の食料になるから気にしないでいいとも」

 不安そうになる私に侯爵様はおっしゃいました。

 私は安堵の息を漏らします。

 食べ物を粗末にしてはいけない、そう教わっていたからです。



 あの男に浪費癖があったからお母様は質素倹約に努めました。

 だから、やっていけたのに、あの男はお母様を煙たがって外で女を作り裏切った。

 食事だって、残すのが当たり前だった。

 ただ、私の作った料理を残すと翌日私がストライキを起こし家出をするので私の料理だけはあの男も継母も継子も残さなかった。

 まぁ、お陰で薬を仕込みやすかったのですけどね。

 食べ物を粗末にする手助けをしていた私はきっとお母様に怒られるでしょう。



 食事はとても美味しいものでした。

 柔らかなお肉に、ワイン煮込み、新鮮なサラダにスープ、柔らかなパン、そして甘いケーキ。

 ケーキなんて久しぶりに食べました。

 果実がぎっしりつまっていて食べ応えがあって美味しかったです。


「ふぅ……」

 お腹がいっぱいになり、一息ついて横を見ると、レイオス様はまだ食べておられます。

 家の食事もレイオス様の分は量がかなりありました。

 だから一人の時は味気ないが量が少なくすむ物を食べていたのではないでしょうか?

「レイオス、お前用に溶岩とかそういうのを用意すれば良かったか?」

「構わない、量はあるし、アイリスと同じ食事ができるのは楽しい」

「そうか、なら良かった」

 私と同じ食事ができるのが楽しいなんて、なんて嬉しい言葉なのでしょうか。



 式も会食も終わり、帰路につきあの高いウェディングドレスは仕舞い、アクセサリー達をレイオス様にお返ししようとすると──

「それは君にあげた物だから持っていてくれ」

「分かりました」

 私はそれを宝石箱にしまいました。

 式用の化粧を落とし、普段用の化粧に戻します。

 そして庭に出て息をしました。

「お母様、素敵な、とても素敵な結婚式でしたわ」

 そう夕暮れの空に言います。

「……あの男がいなければ最高だったのですけれども」

 と、続けました。

 でも、もう会うことは無いでしょう、あの男とは。

 私は自由なのですから。

 それに私はレイオス様とこの屋敷で暮らす身。

 この領地は危険で、来る手段が限られている。

 だから、もう会うことは無い。


 何故でしょうか、はっきりと会う事はないだろうと予感がするのです。

 それが嬉しくて、嬉しくて、堪らないのです。


 お母様、私は、アイリスは今幸せです。


 レイオス様との式も終わり、今度こそと意気込んでいました、が。

「すまないアイリス、まだ君を抱く勇気がないのだ、許してくれ」

 と言われ今回も一緒に寝るだけの白い状態でした。


 翌日、様子を聞きに来た侯爵様が──

「お前なんなん⁈ 不能なのか⁈」

 レイオス様に噛みつくようにおっしゃっていました。

「お前は奥方を妻に迎える時直ぐさま初夜で契ったのか⁈」

「私の所はスノウが痩せ程っていたからしなかっただけだ! 体型とかしっかりしてきたらちゃんと契ったわ! アイリスちゃんだってもう体型しっかりしているだろう!」

「まだだ! アイリスはまだ成長する!」

 なんて口論が始まりました。


「アイリスさん、二人の口論が終わるまで庭でお茶にしません?」

「はい、そうですね」

 スノウさんに言われ、庭に出てお茶会にすることにした。

 ゆっくりとアフタヌーンティーを楽しんでいると、辺境伯様がいらっしゃいました。

「これはエドモン辺境伯様、ごきげんよう」

「ごきげんよう、辺境伯様。ようこそいらっしゃいました。レイオス様をお呼びしましょうか?」

「少し時間がかかるかもしれませんが」

「? どうしたレイオスがトラブルでも抱え込んだのか?」

 辺境伯様の言葉にスノウさんがため息をつかれました。

「今マリオン様と伯爵様は殴り合い中です」

「何故だ? マリオンが伯爵の怒りを買ったのか?」

「どっちもお怒りです。伯爵様はまだアイリス様と契っておられませんもの」

「何だと?」

 辺境伯様は顔をしかめます。

「契らねば危険なときにどうしようもなくなる場合もあるのだぞ、何を考えているのだ、伯爵は」

 そう言って私に箱を渡しました。

 重いのでテーブルの上に置きます。

「少し邪魔をする」

 辺境伯様も入って行かれました。

「スノウさん。レイオス様は、そんなに非難を浴びるような事をしているのですか?」

「そうねぇ、人と魔族が結婚したのに契らないのは人に対して不義理のような物ですから」

 スノウさんが苦く笑います。

「それにしても、何が入っているのでしょう?」

 私は箱の袋を取り、開けます。

「あ、ワインですね……ん? 下に何か入っているっぽい?」

 私はワインを全て取りだし、下のクッションを取り除きました。

「……」

 出て来たのは金塊でした。

 思わずクッションで隠します。

「す、スノウさん、これどうしましょう?」

「ワインだけ貰って金塊は持ち帰っていただきましょうか」

「は、はい」

 貴族って怖いなぁとなんか思ってしまいました。


 というか金持ちが怖い。


 金持ち喧嘩せずとか聞くけど、思いっきり喧嘩しているんですが?

 この金塊って多分レラの迷惑料だろうなぁ……


 と、黄昏れる私だった。



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