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第14話:救出後の叱責~自分の事が分からない~



 ──深夜、アイリスが寝静まると、レイオスはいつも通り自分の部屋に行き、魔導器を起動させる。

『レイオス、調査結果だ』

 魔導器越しにアディスがそう口を開いた。

「どうでしたか?」

『やはりレラの実家にいる父母がレラに購入してやっていた。他の一族は白だったが』

『てっきり他の連中もレラの言いなりになっていたと思っていたんですが』

 マリオンが指摘するとアディスは言った。

『分家の者達はレラの存在を疎ましく感じ距離をとっていたようだ。結果、今回の事は全く知らなかったらしい』

「と言うことは処分の対象は……」

『レラの実家、いや正確にはレラの父母が処分確定した』

「他は?」

『今の当主はレラとは犬猿の仲だ、だからレラに甘い父母が購入し今回の件になった監督不行き届きの責任としてしばし王宮に来るのは禁じた、まぁ一年くらいだが』

「父母は?」

『公開処刑、しかも死刑だ』

「なら良いのです」

『見に行くのか?』

「いいえ、行きません。アイリスにも報告しません、アイリスには知る必要はないと思います。知ったらその時報告しますので」

『分かった』

 魔導器での通話を終了させると、レイオスは寝室に向かった。

 寝室ではアイリスが静かに眠っている。


「私の可愛いアイリス、君はこれからも私が守るから」


 頬にキスをして、抱きしめるような体勢を取りレイオスも眠りに落ちた──



 私が誘拐され、怪我をしたという話をどこからか聞きつけたこの間訪問してきた方々、もとい亡きお母様のリストに載っていた貴族の方達は見舞い品をもって屋敷を訪問してきました。

 皆様口々に。


「レイオス! 貴方がいながら何をやっていたの‼」


 と、レイオス様を責めました、すると最初にあった頃のようなレイオス様になり、


「す、すみません、ぼ、僕が悪い、んです」


 凄くしょげていました。

 私は助け船を出し、


「レラという夫人がならず者に結界を無効化する指輪を渡して、屋敷に入ってきたのです。ちょうど私が寝ていた時だったの、レイオス様は仕事があり別室にいました、だから悪いのはレラという女性です」


 そう言うと、皆様は「あの女、ついにやりやがった」と口を揃えておっしゃいました。


 どうやら、相当な前科の持ち主だったようです。

 レイオス様が夜会に出たくない理由の一つでもあったようです。


 その後皆様同じようにおっしゃったのは──


「レイオス、お前アイリスちゃんと挙式、正式なのを上げてないんだろう、だったら身内だけでいいから正式にあげろ、書類の契約だけで済ませたから甘く見られるんだ」


 ──と。


 レイオス様は慌てふためいて「僕ができると思う⁈」みたいな事をおっしゃったのですが、皆様方「できないじゃなくてやるんだよ‼」と圧をかけられました。





「助けてくれ、マリオン」

「あ゛―? どうした?」

 侯爵様と、スノウさんが来訪してくると二人を客室にお通しし、レイオス様は侯爵様にすがるような声で言いました。

「皆が結婚式を挙げろって五月蠅い」

「そりゃ、そうなるだろうって私は言っただろう?」

「今回の事件でそれが確定になったのだ!」

 レイオス様、他の方々とは違い、侯爵様達には本来の口調らしき話し方をしていらっしゃいます。

「じゃあ、結婚式やる? やるとしたら何処にする?」

「確定か⁈」

「お前と交流できる奴つまりアイリスちゃんの母親のリストに載っていた貴族達ということになる。数も少ないし俺の領地の式場でやれば問題ないだろう」

「お前の領地でやるのか?」

「レイオス、お前の領地にそんな場所ねぇだろ」

 侯爵様の言葉に、レイオス様は不服そうです。

「妥協案だぞ、どう考えても出てくる国王陛下と王妃殿下に式場が決まってないなんて言ったら強制的に王都の式場抑えて大人数招いて陛下達はやるぞ?」

「⁈ そ、それは困る!」

 レイオス様の顔の炎が青くなりました。

「だろう?」

「うう、でも綺麗なアイリスを他の連中に見せたくない……」

 ご安心ください、レイオス様。

私はお母様のような美人ではありませんから。

 お母様は大変お美しい方でした、継母なんて目じゃないくらいに、そんな母が居たのに浮気した父──あの男を許すことはできません。


 平民になりさがっているので苦しい生活をおそらくしているのだろう。

 ざまぁみろ。


「アイリスちゃん」

「‼ ……何でしょうか、侯爵様」

 考えていたら突如呼ばれ、一瞬焦りましたが直ぐに冷静になれました。

 そうで無ければレイオス様の妻には相応しくないかもしれないからです。

「あのさ、もしかしてアイリスちゃん、自分の事は美人じゃないと思ってない?」

「はい、私はお母様のような美人ではありません」

 私が肯定する言葉を言うと、お三方は盛大にため息をはかれました。


「アイリスちゃん、君ね。若い頃の君のお母様にそっくりだよ」

「はい?」

「ええ、とても似ていて愛らしいですわ」

「本当、生き写しってくらい」

「え」

 お母様の生き写し?

「なんなら、まだ来てないガーナ前子爵に聞けば良い」

「そうだな」



 それから二日後、ガーナ前子爵とカティ前子爵夫人……お祖父様とお祖母様をお招きしました、伯父様は用があって来られないそうです。

「ああ、アイリス。聞いたよ、事件に巻き込まれたと」

「はい、ですがレイオス様に助けていただきました」

「伯爵様、これからも孫娘を宜しくお願いします」

「は、はい」

 やはり、お祖父様達に会われた時は最初の時のような会話に戻ってしまわれます。

 ちなみに、侯爵様とスノウさんも同席していただいています。

「ガーナ子爵、実はアイリス夫人は自分を母親のような美人と思えていないようなのですよ」

「なんと? ああ、アイリス。お前はエミリアの生き写しとも言える位似ているよ、髪の色が妻の髪だがね」

「そう、ですか?」

「ああ、亜麻色の髪、紫の目、白い肌の美しい娘だよ、アイリス」

「エミリアは銀髪だったけど、私似の髪も良いわ、素敵よ」

 と、お祖父様と、お祖母様は褒めてくださいます。

「ああ、顔つきは本当にエミリアに似て美しい」

「本当生き写しのよう」

 お母様はこんなやさぐれた表情をしていたのでしょうか?

「アイリスちゃん、今の君は困惑した表情をしている。やさぐれた表情なんてしていないよ」

 まるで心を読んでいるかのような発言を侯爵様がされました。

 私は驚き声を失います。

「やさぐれ? どういうことかね?」

「そう言えば詳しい事情をお伝えしていませんでしたね、アイリス夫人はルズ子爵と継母達に──」

 私のお母様が亡くなり、使用人がいなくなってからの私の家での扱いを侯爵様はお伝えになった。

 お祖父様は顔を真っ赤にし、お祖母様は言葉を失われているようです。


あの男ルズは私の娘だけでなく、孫娘まで蔑ろに‼」

「侯爵様、どうして教えてくださらなかったの?」

「実は私も調べたのはアイリス夫人とレイオス伯爵を結婚させる為に夫人の状況を調べて知ったことなのでつい最近なのですよ」

「そうなのですか……くそ、もっと早くに知っていたら‼」

「貴方……」

 心の底から悔しそうな顔をするお祖父様。

 悲しげな表情のお祖母様。


 私は二人を安心させる為に笑います。

「いいのです、助けを求めなかった私にも非はあります。でもそうだったから侯爵様に見いだされ、レイオス様と結婚できましたから」

「アイリス……」

「だから、そう自分を責めないでください、私幸せですので」


 そう、今の私は以前の私とは比べものにならないくらい幸せだ。

 冷えた残飯を食べる必要も無い。

 朝早くから働いて、夜遅くまで起きている必要もない。

 寒さや暑さに耐える必要もない。


 だから、私は幸せだ。


 打算で結婚したとしても、レイオス様なら愛する事ができている。

 ただ、打算で結婚したことだけが申し訳ないけれど──





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