「……ん」
体が痛い。
というか縛られている?
「漸く目覚めたわね、この小娘! 泥棒猫!」
「……」
知らねーよ、嫌われている相手に余計嫌われる事している、おばさんと口きく気にもならんわ。
確かレラって名前の辺境伯夫人だっけ?
レイオス様が嫌がっているからって、王命で辺境伯様と結婚させられたっていうあの。
というかここはどこだ?
潮の匂いがするから海辺の倉庫か?
「お前が居なければ、今もレイオス様は私を見てくれるのに!」
んなわけねーだろ、頭お花畑じゃないのか?
「ちょっと何か言いなさいよ」
「げほっ!」
この女、思いっきり人の腹蹴りやがった。
契約結婚してなかったら内蔵飛び出ていたぞ、このアマ。
あ、口の中ちょっと鉄っぽい、血吐いたか、大丈夫か私?
……レイオス様になんて言おう。
「ちょっと、辺境伯夫人、あんまり今傷モノにしたら伯爵様の前で見世物にできないでしょ?」
軽そうな口調の若そうな魔族の男が言う。
「ルイス! アンタは黙ってなさい! 貴族の私に逆らう気⁈」
「そんな気ないですってば。俺は百年前の戦争で英雄って言われた伯爵に一泡吹かせたいだけですよ、もう老害は引っ込めってね」
馬鹿しかいない。
さて、逃げようにも縄が堅い。
どうやって逃げ──
「「「ギャアアアアア‼」」」
外から悲鳴が聞こえてきた。
バン!
扉を開ける音がした。
「レラ! レイオスは激怒しているぞ! 急いで
「レラ、此度ばかりは庇う事はできんぞ!」
「いいのよ、この小娘を此処で使い物にならな──」
ボキン!
「ギャアアアアア!」
レラって女が腕を押さえて転がっている。
ははは、ざまぁみろ!
でも、何が起きたんだ?
「レイオスから直々に頼まれた。レラ、お前の
「そ、そんな! いや、いやよ! 助けてエドモン!」
「私は幾度も忠告し、そして此度は更に厳しく忠告をしたはずだ。故にお前はもう私の妻でもなんでもない。罪人だ」
呆然とする私を抱き、首にナイフを当てて男が言う。
「伯爵は何処だ! 俺の用は伯爵にあるんだよ!」
「私に、何か、用か?」
低い声色、でも分かりました。
レイオス様だと。
「れい、おす、さま」
「あ、ああ、レイオス!」
「レラ、貴様の処刑はマリオンがやる。そして其処の小僧、貴様の処刑は──」
「私自らが行う、妻から離れろ」
「ああ、離れてやる、さぁ!」
男はドンと、私を押しました。
レイオス様は私を片手で抱きしめて言います。
「目を閉じて」
私は目を閉じました。
すると、言葉にならない悲鳴が聞こえてきました。
「たかだか、百歳しか生きておらず、その上戦争も経験してない若造がほざくな。私はあの地獄を滅ぼした者だ」
レイオス様が指を鳴らすと、縄だけが燃えて、私は自由になりました。
私はお腹をさすります。
「アイリス、ちょっと見て良いかな?」
私が頷くと、レイオス様はナイトドレスの裾をめくり、うっ血した腹部を見て顔をしかめました。
レイオス様に、其処をそっと撫でられると、痛みが引けました。
「これで大丈夫だけど、一応医者をよ──」
「はいはい、私医者だよ!」
「……アイツでいいかい?」
「侯爵様ならレイオス様の次に信頼できます、だってレイオス様と私を会わせてくださったのですもの」
「そうか……」
「それと気になったのですが、こちらが素ですか?」
「あ──そうだね、普通に話すだけで怖がるから、いつもあの調子で話さないといけないから」
そうレイオス様は仰いましたが、私はちっとも怖くありませんでした。
「レイオス様」
「アイリス、どうした──」
頬にキスをしました。
「どちらの貴方も私にとっては大切なレイオス様、旦那様です」
「アイリス……」
「うぎぃいいいい‼ なんなの‼ いつも邪魔してぇ‼」
あ、この女まだ生きている。
死んだかと思っていたのに。
「レイオス、先にアイリスちゃんと帰っていろ」
「分かった、後は任せる」
レイオス様は私を抱きかかえてその場から移動しました。
一瞬で景色が変わり、屋敷の寝室に居ました。
「窓ガラスの修理も終わっているね、より頑丈なのにしたし」
使い魔達が寄ってきました。
「今日は一晩中見廻りだ」
使い魔達は敬礼をして、その場から去って行きました。
「あの、レイオス様……」
「どうしたのだ、私のアイリス」
私は少し躊躇いがちに言いました。
「どうか、一緒に寝てください。一人は怖いんです」
と。
するとレイオス様は微笑まれ、
「勿論だとも、私の愛しいアイリス」
そう言って額にキスをしてくれ、ベッドに一緒に横になり、眠りました──
「さて、レラどう殺されるか分かっているよな」
レイオスとアイリスが帰った後、倉庫でマリオンはレラを睨み付けていた。
「し、知らないわ!」
「ブラッドバスの元になる? それともギロチン? いいや、アンタに相応しいのは──」
「召喚獣の餌になっちまえ」
無数の魚──ピラニアに似た魚の群れがレラに噛みつき、肉を食いちぎっていった。
「いだいいだいいだいぃいいい!」
濁った悲鳴を上げながら、レラは食われていき、レラの肉片すらその魚は残さず食らいつくした。
魚の姿の召喚獣がマリオンの手にキスをすると、マリオンは命令した。
「黒焦げだが、喰ってくれ、いいな」
召喚獣達は黒焦げの死体を全て食いつくし、マリオンの影に消えていった。
「仮にも元妻のひでぇ死に様見なくて良かったんだぞ?」
マリオンはエドモンに言った。
「いや、私は見なければならなかった、妻の執着心をなくせられなかった時点で、な」
「真面目だねぇ」
「それより私への罰は」
「今ので、帳消しだからな」
「……そうか」
「何かあるんだったら、菓子折一つでも持ってアイリスちゃんに土下座したらどうだ?」
「そうする」
「マジかよ」
マリオンは驚いた声を上げつつ、エドモンを見た──