翌朝、目を覚ますと、レイオス様はまだ夢の中。
時計は朝の六時を指していました。
元実家に居た時、家の事を片付ける為に、すこし早く起きて居ましたが、それが出てしまったようです。
私は起きようかと、その場から起きようとしましたが、レイオス様が腕を掴みました。
「……も、もうすこし、寝て、いま、しょう……」
そう言うとすやすやと寝息を立てられました。
「……そうですね、もう少し寝ましょう」
私は再度横になり、目を閉じました。
一時間後、私は目を覚ますと、レイオス様は既に着替えていました。
「あ、お、おはよう。も、もう、少し、ゆ、ゆっくり、ね、寝ていても、いい、ん、だよ」
「いいえ、旦那様──レイオス様が起きたのですから起きなければ」
私も起き、着替えました。
服は昨日のうちに使い魔の子等が全てあの小屋から屋敷に運んでくれていた用です。
お母様の形見の普段着のドレスを着て、私は顔を洗い食堂へ向かいます。
食堂では既に朝食が準備されておりました。
「暖かい食事は良い物ですね」
「う、うん、そう、だね」
レイオス様は微笑まれます。
私もつられて微笑みました。
するとレイオス様は顔を真っ赤にして、下を向き、食事を再び取り始めました。
「レイオス様?」
「き、君の、ほ、微笑みが、き、綺麗で……」
「まぁ……」
そんな話をしていると、チャイムが鳴りました。
「?」
「ま、マリオン、じゃない。アイツ、ちゃ、チャイムは鳴らさない」
「私が出ましょうか?」
「い、いや、僕、が出る」
レイオス様は玄関へと向かっていきました。
私はそっと耳をそばだてます。
「レイオス様! 私という女がいながら人の女と結婚するなんて!」
「れ、レラ。き、君には関係ない、それに君は王命で結婚させられた、は、はずだ」
「離縁できないように、ね! ならば既成事実を──」
「私のレイオス様に何をなさるおつもりですか?」
私は女の下品な物言いに我慢できず玄関に向かい、蝙蝠のような翼が生えていて、露出度の高い服を着た女──魔族の女性に向かって言い放ちます。
「誰が貴方のレイオス様ですって⁈ 突然出て来た──」
「あ、アイリス、僕、がた、対応する、から、へ、部屋で、ま、待っていて」
「ですが……」
「だ、大丈夫」
そう言ってレイオス様は微笑みました。
ならば私は従うまで。
「では、部屋で待っております」
そう言って二階の夫婦の部屋へと戻りました──
「──レラ、貴様誰の許可を得てこの地に来た?」
アイリスが部屋に入り戸を閉めたのを確認すると、レイオスは
「ああ、レイオス様、素敵……私だけが知る本当の貴方……」
「黙れ、燃やし尽くされたいか?」
レイオスの冷たい言葉を聞いて、レラはうっとりとしている。
「お前の夫には既に連絡した、連れて帰って貰う」
「⁈ 嫌ですわ! あんな男! 私を好みではないですもの!」
「知るか、いいか。アイリスに、私の妻に余計な事を言ったらマリオンに消滅させて貰うからな、アイツは処刑人の資格も持っている、私同様」
「‼ それも嫌ですわ‼ 私は貴方の炎で死にたいのに‼」
「私は貴様の顔など見たくも無い」
「レラ! またレイオス伯爵殿に迷惑を!」
「レラ、またアンタかい。今レイオスは新婚生活をエンジョイ中なんだ、邪魔するなよ」
マリオンと
「エドモン辺境伯、こいつを連れて帰ってくれ、二度と見たくない」
「認めませんわ! あんな小娘が私よりもいいだなんて!」
「五月蠅い」
レラは辺境伯に家から連れ出されていった。
「やっぱり来やがったか、アイリスちゃん大丈夫?」
「こんな本性見せたくないから」
「……猫被るなぁお前」
「五月蠅いぞ」
「へいへい、じゃあレラが屋敷の中に入ったらすぐ辺境伯と俺に連絡するように仕掛けといたよ」
マリオンが指を鳴らしながら言うと、レイオスは頷いた。
「助かる」
「いやいや、アイリスちゃんには幸せな結婚生活をしてもらいたいからね」
「私もそう思う」
「おんや? 珍しく意見が合うなぁ」
「嫌だがな」
「お前なぁ……」
レイオスは冷徹な自分をアイリスに見て欲しくなかった。
きっと幻滅するだろうから──
「も、もう、帰った、よ」
部屋に入って来たレイオス様に私は抱きつきました。
「あ、アイリス?」
「レイオス様、あの女性はどなたですか?」
「辺境伯夫人レラだ。レイオスにしつこく付き纏ったからレイオスが英雄特権使って結婚拒否したから、王命で拒否できない結婚させられたんだよ」
侯爵様も入って来てお答えになりました。
「辺境伯でしたら、お強い方のはずですが」
「あの夫人はレイオスが良いんだと、でもレイオスは嫌だって言っているし、今はアイリスちゃんが奥さんだからね」
「……レイオス様、あの夫人の何処が嫌でしたの?」
「あ、あのふ、夫人は、僕の、け、権威と力に、しか興味、がない、んだ。じ、実際、僕が戦争で英雄になるまでは、み、見ようとも、しなかった」
「ああ……」
それはあり得る。
「だ、だからね。あ、あの、ふ、夫人が、な、何か、い、言っても、きに、し、しちゃあ駄目、だよ」
「分かりました」
レイオス様はふにゃりと微笑まれました。
そして私を抱きしめてくださいました。
「よ、よかった」
「でも、それなら侯爵様の方もお声掛けされるのでは?」
「あー俺その時からとっくに嫁さんと契約結婚している愛妻家だって言われていたから、声かけられたけど、殺しかけたからそれ以来何も無し」
「殺しかけ……」
そんなあっけらかんと言うべき内容でしょうか今のは?
「……契約結婚というのはアレでしょうか、魔族と人が婚姻関係を結ぶ際人が魔族と共に歩めるようになるという」
「そうそう、それそれ」
「私とレイオス様は?」
「一応契約結婚」
「一応、とは?」
私は首をかしげました。
「だってまだレイオスの奴とスルことしてないんだろう?」
「ま、マリオン‼」
レイオス様の怒声が響き渡りました。
「うわ、うるせー」
「で、デリカシー、の無い、奴、だな、お前、は‼」
レイオス様、黒いはずのお顔を真っ赤に燃やしながら怒っております。
まぁ、確かに今のはデリカシーのない発言ですね。
レイオス様がお怒りになるのもご尤もです。
私は……多少腹が立っておりますが、レイオス様がお怒りになってくださっているので我慢します。
「あ、アイリス、は、お、おこら、ないのかい? な、なぜ?」
「私も怒りたいですが、レイオス様を紹介してくださったのは侯爵様ですし、それに私が怒って殴ったりしなくてもレイオス様が代わりに怒って下さっていますので」
「いやぁアイリスちゃん優しいねぇ」
「レイオス様が泣いたら、十倍返しで殴りかかるつもりでしたが」
「前言撤回、怒らせると怖いわ」
私が淡々と述べると侯爵様は真顔でそう仰いました。
「じゃなきゃあの空間でやっていられませんでしたから」
「あー、性格の悪い継母と継子達にアイリスちゃんに無関心な父親もとい子爵のいた環境のこと?」
「はい、私をこき使ったので、私だと分からないようにやり返しました」
「性格いいねぇ」
「いいえ腹黒ですよ」
そう言うと、レイオス様が私の手を握って首を振りました。
「き、君は、わ、悪く、ない。そ、そんな、空間に、し、した奴ら、が、わ、悪い」
「有り難うございますレイオス様。お優しいですね」
「き、君が、だ、大事だから」
本当にお優しいレイオス様。
私には勿体ない位。
本当私何かで良かったのでしょうか?
「レイオス様、本当に、私で宜しかったのですか?」
「き、君が、いい。ぼ、僕は、き、君を、え、選んだ」
「え?」
「一応俺の知り合いで嫁になってくれそうな候補者見繕って見せたんだよ、君もあの条件ならレイオスの嫁になってくれるだろうと打算的思考でいれた。そしたら、こいつは君を選んだ」
「……」
私何かの何処が良いのだろう?
お母様が亡くなってから大分性格がひん曲がった。
あの連中がこき使うから、それに対抗する為に。
「私の、何処が、良かったのでしょうか?」
「き、君は、す、素敵な、じょ、女性、だ、よ」
レイオス様は微笑みながら私の亜麻色のすこし長い髪を撫でました。
そしてそっと口づけをしました。
「見目、で、選んだ、わけ、じゃない、けど、君、が、素敵、だ、ったんだ」
「……」
「だ、だから、ぼ、僕を、し、信じて、ほ、欲しい、い、今は、む、無理かも、知れない、け、けれど」
無理かもと言いながら、レイオス様は私に信じて欲しいとおっしゃっています。
確かに今はまだ疑念はあります。
ですが──
「分かりました、レイオス様。貴方様の行動で信じさせて下さい」
「‼ わ、わかったよ」
レイオス様は嬉しそうに破顔なされました──