「──レイオス、貴方はアイリスを妻とし生涯愛する事を誓いますか?
「は、はい。誓います……」
すこし、どもってしまったが、レイオス様はちゃんと言えました。
次は私の番だ。
「──アイリス、貴方はレイオスを夫とし生涯愛する事を誓いますか?」
「はい、誓います」
ハッキリと言うことができた。
「では誓いの口づけを──」
レイオス様は顔を真っ赤にして混乱している様子でした。
今更ですが、精神状態が素かそうじゃないかで、行動がどちらかに引っ張られるのが強いようです。
私は小さくため息をつき、レイオス様にキスをしました。
「~~~~~~⁈⁈」
レイオス様顔を更に真っ赤にしてぼふんと湯気みたいなのも出しています。
可愛いのですが、情けないのもちょっとあります。
ここから新たな一歩を私は踏み出すのですが、その前に何故こうなったかというと──
「ちょっとアイリス! 朝食はまだなの⁈」
「もうできてますよ」
私こき使う、継母と継子達。
父は継母のいいなりで役に立たない。
だが、黙ってこき使われている訳では無い、今日は調剤錬金で作った遅効性の下剤を仕込んだスープを出してやった。
家から出たらしばらくはトイレが無いと大変な目に遭う、ざまぁ見ろ。
「全く、相変わらず不味い料理だわ!」
「本当、本当!」
うるせぇな、お前らが家の金を使っているから使用人を雇えず、私一人が使用人扱いされているんだよ。
働いてやっているのを感謝しねぇてめぇらにはそれなりの対応しかしないに決まっているだろうが。
父や継母、継子達が社交場へ向かい家から居なくなると、私はひっそり森の奥へと向かった。
森の奥の頑丈な作りの小屋を開ける。
其処には無数のドレスや宝石、アクセサリーがあった。
扉を閉め、私はそれを抱きしめる。
「お母様……」
これは全て亡きお母様の形見だ。
お母様は病気になったとき、自分の死期を悟り、信用できる建築家にこの小屋を建てさせ、信用できる使用人に形見の品を全てこの小屋に移動させた。
父にも内緒で。
お母様はよく言っていた。
『
そう私に残していた。
そしてお母様が死に、予想通り再婚した父は
継母はお母様の遺産がないことに激怒したが、使用人の代表がお母様の病気の治療に全て使ったと嘘をついた。
それに腹を立てた継母は、使用人達に嫌がらせをはじめ、給料もロクに払わず、自分達は豪遊した。
結果使用人達は辞めてしまった。
お母様が信用していた使用人達が言った。
『我慢ができなくなったら、いえ、できれば早く、信用できる貴族の方に相談してください。奥様が信用していた貴族の方々への手紙を出すよう此処に書いてあります』
──と。
家が傾きに傾いてから、逃げてやるつもりだ。
もう少しでどうしようも無くなるのは分かっている。
それを見届けてから手紙を出すつもりだ。
そんな事を考えていた。
その日の帰って来た彼奴らに「アンタの飯のせいでロクに話もできなかったじゃ無い!」と責められたが、我慢。
事実だし、私は「じゃあコック雇えよ」と言うと「そんな金勿体ないからもっと美味い料理を出しなさいよ!」と殴られた、いつか地獄を見せる。
そしてその時が訪れた。
にっちもさっちもいかなくなり始めた家を見て、私は一人夜の酒場に向かった。
「アイリス様~! いつ逃げるんですか?」
私の事だけは信用してくれている領地の人達がここに居る。
だから早く家を見捨てて逃げることを望まれている。
「もうそろそろ」
けど誰に相談するか悩んで居た。
候補がいくつもあったからだ。
誰を頼ろうか?
そんな事を考えながら干し肉を囓っていると、酒場の扉が開き鎮まった。
入って来たのは別の場所の貴族だと分かっていたからだ。
私も身を潜める。
白い髪に、金色の目にヤギの角、黒い服の男性は口を開いた。
「私の名前はマリオン、魔道侯爵マリオン。ここにアイリスという子爵令嬢が居るのは知っている。出て来て貰いたい」
私はいつも持って居る母からの頼る貴族リストを見る。
マリオン侯爵の名前が記載されていた。
私は立ち上がり、言う。
「私がアイリスです」
「おお、母君にそっくり……だけどやや厳しい表情をしているね。まぁいい、話があるから馬車に乗ってくれ」
「分かりました」
「お、おいアイリス様、大丈夫か?」
「大丈夫だと思います、母の頼る貴族リストに載っていましたから」
「な、ならいいのだけど」
領民は私の身を案じている用でした。
それもそのはず。
魔道侯爵マリオン。
百年前の戦争で、魔法の力で多くの命を奪った冷酷非道と言われる侯爵。
正直、この侯爵様の名前がリストにあったのが驚きだった。
お母様の交友関係は一体どういう物なのだと。
止まっている馬車に乗り、侯爵様と向かい合う。
「君が中々頼ってくれないうちにちょっとこっちでも状況が変わってね、君の力が必要な状況になったんだ」
「どういう事ですか?」
「黒炎伯爵レイオスって知っている?」
「知っています」
黒炎伯爵レイオス
百年前の戦争で、魔道侯爵マリオン以上の戦果を上げた黒い炎を使うという伯爵。
ただ、この百年表に一切出ていないので百年戦争で彼を見たもの以外は姿も何も分からないと言う。
「英雄伯爵とも呼ばれながらも栄誉も全て放棄したという事も知っています」
「そうそう、アイツ、外に出たくないから栄誉要らないから社交界とかの付き合いをできるだけ免除して欲しいって言ったんだよ」
「何故ですか?」
「あーその、アイツはビビりで、人見知りが激しいんだよ」
「はい?」
「でも、涙もろくてこれ以上戦禍が広がるなら自分が終わらせるって出て百年前の戦争は終わったんだよなぁ」
衝撃の事実。
口をぽかんと開けてしまう。
が、気を取り直す。
「で、私に用とは?」
「俺が度々嫁さんを連れて行って、いちゃついているのを見せていたら、アイツも『僕もお嫁さん欲しいなぁ……』って言い出したから」
「……つまり、伯爵様の妻になれ、と?」
「その通り」
侯爵様はパチンと手をたたいた。
「私のメリットは?」
「君が隠している君の母君の遺産全てを私の魔法で持ち運んであげよう、そして嫁ぎ先に持っていってあげよう」
「受けます」
即答した。
「それなら有り難い。何せ三日後には王都からの手紙を持って新しい領主が来るからね、二日後嫁入りを実行しよう」
「分かりました」
「それまで、準備は宜しく頼むよ。こっちも準備していくから」
「はい」
馬車から降り、私は酒場の領民に事情を話し、それまでいつも通りに暮らして欲しいと伝えた。
領民達は了承してくれた。
準備はほとんど無い、それを終えた二日後──
母のあの小屋の前に侯爵様がやって来た。
「これだね」
「はい」
小屋と地面をえぐって宙に浮かせ、それを小さくして侯爵様のポケットに入った。
「さて、次は君の格好だ、私のプレゼントだ」
白い光が私の体を包むと、真っ白なウェディングドレス姿になっていた。
ヴェールも被っている。
「領民に挨拶しながら行くかい?」
「はい」
と領民達に挨拶していると、継母達が現れた。
「ちょっとアンタ何処に行くのよ!」
「母が用意していた許嫁の元に行くだけですよ、貴方達には愛想が尽きましたので」
そう嘘をついてみせる、すると継子と継母は顔を歪める。
「ふ、フンだ! どうせ弱小貴族でしょうよ!」
「そうそう、明日でこの領地とおさらばする事になると思うので、貴方達も次の
「キー! 失礼な女だ!」
「母親の顔が見てみたい!」
お母様の肖像画捨てようとしたテメェらに言われたかねぇよ。
「私達はアンタと違って社交場で身分の高い方々に寵愛されるからねぇ、アンタとは違って!」
「はぁ、そうですか。では」
私は窓を閉めてシャットアウトする。
「懲りないねぇ、君をいじめている輩を受け入れるはずないのに」
「え」
知っていたの?
「君の母君は誰からも愛されていたからもし自分の死後娘が来なかったら──と、予言じみた発言をしていたから薄々そんな気はしていたんだよ。だから早く君が助けの手紙を出してくれれば僕らも総出でボコボコにできたんだけど……」
「……」
「まぁ、過ぎた事はしょうがない。行こうか?」
「はい」
馬車に乗り、領民に別れを言いながら渡しは領地を後にした。