「くっクソ……!」
「おい、どうすんだよ! もう全部終わりじゃねえか!」
「……」
ブラックストームの連中も、状況がひっくり返った事を理解したようだ。
流石に焦っているな……。
そして、視界の端で一つ逃げようとする影を俺は見逃さなかった。
「……『辻風』」
「がぁッ!?」
こっそりと逃げようとしていた神陀の足を、飛ぶ斬撃で切りつける。
「見とけって言っただろ……逃げんなよ」
「ちっ……くしょう……!」
相変わらず逃げ足だけは一級品だな。
「……! 今だお前ら! 隙あり!」
「「「うぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」」」
俺の気が一瞬神陀に向いたのを好機と見たのか。
ブラックストームの奴ら四人が一斉に襲い来る。
……ああ、うざったいな。
散々我慢させられた分、遠慮なしに行くか。
「はぁぁぁ……!」
刀を鞘に納め、全力で集中する。
これを使うのは久しぶりだな。
「死の抱擁」が「居合い切り」の派生で有るように。
「刃返し」にも派生系が有る……
「『
「「「「ひべあっ!!!?」」」」
暮雨払い。
全ての方向を隙間無く切ることで、複数の攻撃にも対処可能な奥義だ。
試した事は無いが、この技なら文字通り雨すら通さない自信が有る。
そして全ての攻撃を叩き落とされたブラックストーム達が、それぞれ衝撃を受け止めきれずにふっとんでいく。
彼らは壁や床に叩きつけられ、地面で苦悶の声を上げて蹲っていた。
よし、逃げないようにする手間が省けた。
〈なんだ今の!?〉
〈全方位に斬撃のエフェクト出てなかったか!?〉
〈まだこんな隠し玉を持ってたって……?〉
〈過剰防衛〉
「な、何が……起きて……?」
「まだ終わってないぞ」
立ち上がろうとしている土志炭に俺は刀を突きつける。
……防具を着込んでるせいか、前よりしぶといな。よし、あれも使うか。
「『
「……なっ!? 俺の防具がバラバラに!?」
引剥。防具の隙間や繋ぎ目を切ることで武装解除するスキルだ。
まあ、面倒な装備を着けてる魔物や悪党はあまりいないし、別のスキルで倒した方が話が早いのであんまり出番がないのだが。
「随分面倒な真似をしてくれたよな……だが、お陰でなにも気後れすること無くお前を倒せる……」
「や、やめろよ……やめろって!」
腰を抜かしながら懇願しか出来ないその様はとても一級探索者とは思えない……いや、元一級だったか。
「今度こそ反省してこい!」
「ふぶぅ!?」
刀の峰を、土志炭の額に全力で叩きつける。
奴は白目を向いて後頭部からぶっ倒れた。
ちょっとピクピクしてるのがやり過ぎたみたいで怖いが……駄目そうなら雲上に治してもらおう。
「次は……どいつだ?」
俺は残った三人を睨みつける。
「ひいっ……」
*
「「へぼあっ!!」」
「死の抱擁」で花氏と起古河を纏めて切り捨てる。
残りは今回の主犯、灰風強だけだ。
「さて……このふざけた事を考えたのはお前か? それとも……」
「ち、違う! 全部神陀とかいうのの……アイツのせいです!」
「だよな。俺もそうじゃないかと思ってた。けど……俺の部下、中柱を拐って縛った実行犯はお前らだよな?」
「は、はひぃ……」
「だったらアイツに謝れよ……それが道理だろ?」
「こ、この度は申し訳有りませんでしたァ!!」
「よく出来ました。……じゃあ、牢屋に行って中柱と同じ体験してこい!」
「ほばぁ!?」
灰風の両肩を打ち骨を砕いた後、首に一撃入れ意識を奪った。
刑務所の牢屋で、暫くは自由に動けず過ごせば良い……全身縛られていた中柱よりかは楽だろ。
「うおお……先輩も中々えげつないですね……」
「敵には容赦しないんすよ……特に身内に被害出た時は……」
観客席はほとんどの観客が逃げてしまい、静かになっていた。
だから雲上と中柱の二人が呟く声はよく聞こえる。
少し待たせ過ぎたな……
「『辻風』!」
観客席を遮る結界を、全力の飛ぶ斬撃で砕く。
俺は結界が動作を止めたのを確認して、飛んで観客席まで登った。
「さて待たせたな……もう少しだけ待ってて貰う事になるが」
「あぐ……」
俺は地面を這いずる神陀に目を向ける。
「あ、逃げないよう足を結んでおいたんでどうぞ」
「うぎぎぎ……!」
雲上が腕を引くと、俺の目の前まで神陀が引きずられてきた。
「『まだ終わらない』だったか?」
「せ、千擁ぁ……! お前はどこまで……!」
この状況になってもなお、神陀は敵意に燃えた瞳で俺を睨んでいる。
「お前の策略もここで終わりだ……」
俺は刀を大上段に構える。
「……!」
「え? やっちゃう感じっすか?」
「俺を殺そうがお前は変わらない……殺れよ!」
「はあっ!」
「……」
振り上げた刃を、神陀の首に触れる寸前で止める。
「せいやっ!!」
「がっ……!!」
俺はその場で逆回転し、神陀の頬を刀の
「……友達のよしみだ、生きて罪を償え。今度は他人任せにしない、俺が直接警察に突き出すよ」
俺は刀を納めた。
「く、クソが……ここまで来てまた綺麗事を……!」
「ところで、神陀多沼さん」
神陀を拘束しようとしたその時、雲上が割り込んでくる。
……なんのつもりだろうか?
「は?」
ザンッ
「〜……!? ッ!! 〜ッ!? へ、ららら……!?」
次の瞬間、神陀の下顎が
神陀は大量の血を流しながら膝を着き、声にならない声を挙げている。
「……雲上」
「大丈夫です。治しますから」
雲上がそう言うと、治癒魔法を使ったのか神陀の出血は止まる。
しかし……
「……ら、らんれ」
神陀の下顎は元に戻らず、ただ傷が皮で防がれたかの様な形になっていた。
「今回の件は私にも落ち度がありますから……その口なら、もう誰も誑かせませんよね?」
そうか、似たような事が起きないように神陀の声を奪ったのか……。
「すいません先輩。勝手な事して」
「……いや、これでいい」
それだけの……いやそれ以上の事をコイツはやって来たからな。
「……あばばばば」
「……そういえば中柱は何もしなくて良いのか? 一番被害受けたのは君だろ」
「い、いやぁ……流石にこれ以上は大丈夫なんじゃないすかねぇ……」
「まあ、本人がそう思うなら良いが。……神陀、行くぞ」
「らりるれろ! らりるれろ!」
さて、神陀を引き渡しても、まだまだやるべき事は有る。
二度とこいつが変な事を起こせないようにな……雲上に任せてばかりは居られない。
「……あ、雲上!」
「なんですか千擁先輩?」
「君には世話になってばかりだな……ありがとう」
「……いえ、先輩を支えるのは、私が決めた事です。お礼なんて……いや、やっぱりなんか下さい。具体的には人生とか」
「……とりあえずお礼は色々終わってから考える」
「むー……主任! 神陀
「そうか、じゃあちょっとこの後も手伝ってくれるか?」
「何をっすか?」
「灰風会の残党狩りだ。二度と同じ事は起こさない……絶対に……」