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第39話 蜘蛛の糸・再臨

side中柱白華


 千擁が四対一と不利を強いられていた一方その頃。

 中柱が囚われている牢屋にて。


「グルルルル……!」(いい加減離して欲しいんすけど……!)


 牢屋内で簀巻きにされ転がされている中柱を、牢屋の外側から男二人が見張っていた。


「兄貴、本当にコイツをこんな縛っておく必要があるんですか?」


「……そりゃなあ。指一本すら動かせないようにしとかないといつスキルで脱走されるか分からないからな」


 中柱が唸り続けている中、見張り役の男二人が暇なのか雑談している。


「いうて、こんな可愛いのをそんな怖がる必要あります?」


「……お前、この業界に来てどんくらいだ?」


「え、三ヶ月程になります」


「だったら覚えとけ。スキルとか職業が有る現代は、見た目で強さが測れる時代じゃねえ」


「ちぇっ……女捕まえたってのにお楽しみの一つも出来ないのかよ……」


「やってみたらどうだ? 自分の命が惜しくないなら、だが」


「ウー……」(千擁主任……)


 状況が変わりそうな気配なんて欠片も無かったその時、突然にそれは起こった。


バァン!!


「ギャハア!」


「えっ!?」「なっ!?」


 扉が蹴破られると共に、男が転がり込んでくる。

 見張り役二人が何事かと思い、入口に目を向けた。


「……まったく。あの人も頑固ですね」


「……なにぃ!? 雲上愛羽!?」


 この場に居ては行けないはずの人間がそこに居た。


「……くっ、この! ぐえっ!」


「オブッ!」


 見張り役二人は対応する間もなく、雲上に制圧された。


「ウー……?」


「えっと牢屋の鍵は……カードキー式ですか。さっき拾った奴で行けますかね……?」


 雲上はポケットから奪っ……拾ったカードキーを取り出し、牢屋の施錠を突破する。

 そしてまずは拘束されている中柱の猿轡から外した。


「ぷはっ……雲上さん。なんで自分を……?」


「勝手なお節介ですよ。私だって不本意ですけど……」


「……?」


「あんたが捕まったから、今千擁先輩が大ピンチなんですよ。すっっっっごく不利な条件で命懸けの決闘なんかやらされてて」


「ええ!?」


「だからこうして私があんたを助けに来たんです。……はぁ」


(一言『助けてくれ』とか『頼む』とか言ってくれれば、もう少し迷いなく動けたんですけどね……私が何処かで聞いてることも察してるだろうに。……まあそういう他人を巻き込まない様にする所もあの人の良さなんですけど)


「主任は自分を助ける為に命まで懸けて……ふへへ」


「……!」

(なーにニヤニヤしてんですかコイツは……私の方が先に千擁先輩に命懸けで助けて貰ってるんですけど? まあ、良い気分なのは分かりますけどねぇ……!)


 雲上は拳を握りしめ……しかし次には思い直したかの様に手を開く。


(いやでも、この状況になったの神陀を五体満足で返した私のせいな所ちょっと有るしな〜! 我慢我慢……いや一発くらい叩いても……)


「あの……そろそろ猿轡以外も解いて貰えると嬉しいんすけど」


「はいはい! 分かりましたよ!」


side千擁四郎


「ハァ……ハァ……なんだコイツ……なんなんだよコイツ!」


「信じらんねぇ……」


「そ、そろそろ魔力切れかな」


「……むう」


「そんなものか?」


「私、自分の目が信じられません! 数分前おもむろに刀を納めた千擁四郎! 何を考えてるのか全く分かりませんがとにかく! 現在まで銃や魔法、剣と拳の嵐を無被弾でしのいでおります!」


〈なにこれ舐めプ?〉

〈どっちも真面目にやれよ〉

〈千擁が強いのかこいつらが雑魚過ぎるのかどっちだ〉

〈殺せー!〉


 刀の使用禁止を突きつけられた時は流石に驚いたが……何とかなるもんだな。

 それでも実況が言うより余裕が無い。

 さっきまでと違って「避ける」しか出来ないので同士討ちも狙いにくいし……


「くそっこうなりゃ……お前らアレだ!」


 灰風が指示を飛ばすと、奴らは何やら小瓶を取り出し……その中身を飲み干す。

 攻撃が禁止されてるので防ぎようがないが……ろくでもない予感がするな。


「ケッケッケッ……こっからが本番よ!」


 ブラックストーム達は肩で息をする様な消耗具合だった。

 しかし、小瓶を飲み干した瞬間、元気を取り戻した……いや、前借りしたように見える。

 恐らく、小瓶は興奮剤や増強剤の類いだったのだろう。


「本当に何でも有りだな……!」


 いい加減うんざりしてくる……。けれど戦うしかない。

 改めて構え直したその時!


「先輩!」「主任!」


 聞き馴染みの有る声が上からして……声の方を見た。


「雲上……!? それに中柱も!」


 どういう事だ!?


「なにいっ!?」「馬鹿なっ!?」


〈えええええ!?〉

〈雲上乱入か!?〉

〈おいおいおい千擁が勝ちそうな雰囲気してきたじゃねえかよふざけんな……〉


 二人の登場にはその場の全員が驚きの反応を見せている。

 これは奴らにとっても想定外の事態……なるほどな。


「今までお疲れ様でした! この通り中柱さんは助けたんで! 後は好き勝手やっちゃってください!」


「自分の分まで遠慮なくやっちゃってくださいっす!」


 ……やっぱり、またもや雲上に助けられてしまった様だ。

 後でお礼を言わないとな。

 だが、まず今は……やるべき事を終わらそう。


「んなっ……!」


「さっき、『こっからが本番』とか言ってたよな……。奇遇だな、俺もそろそろ本番を始めたかったんだよ」


 俺は腰の刀を抜き、構えた。


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