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「……中柱白華を攫ってきたぞ。言われた通り、縛って牢屋に転がしてある」
ここは灰風会本部、その中でも幹部だけが立ち入りを許された会議室だ。
そんな部屋にブラックストームの三人は帰ってきて、指令を遂げた事を伝えた。
「おう笑お疲れ〜笑」
軽い口調で出迎えたのは、灰風会の会長である
「さっすが、我が弟だねぇ……」
「弟? てめぇとの縁は切ったはずだ……」
「悲しい事言うなぁ。お兄ちゃんはお前が探索者やりたいって言うから新しい戸籍用意したり、牢屋の外に出してやったりしたのに……」
ほとんど知られていないが、灰風強とブラックストームの土志炭は実の兄弟である。
本来逮捕されているはずのブラックストームが外に居るのも、灰風強が警察に
「……はっ」
そんな恩が有るにもかかわらず、土志炭は頭の一つも下げない。
「相変わらず素直じゃないんだから笑。……なあ、アンタ。コイツとの仕事は苦労も多かっただろ?」
灰風強は、ずっと黙っていた部屋の隅の男に声を掛けた。
「……なあ、神陀多沼さん」
「いえ、土志炭さんは実に優秀な弟さんでしたよ。今回は運悪くこんな結果になってしまいましたが」
……神陀は今まで以上に冷めた目でそう答えた。
「元々アンタを外に出す気は無かったけど。面白い計画を持ち込まれちゃったからなぁ。千擁四郎への復讐計画って奴を」
「……ありがとうございます」
「よーし、我が弟とその友達。こっからが本番だ、用意した最高級装備に着替えてきな。いやぁ……ウチの組がこんな贅沢に金を使えるとは、資金提供者の下戸さんには感謝しないとなぁ」
(お、おい。神陀君……? 千擁に仕返しが出来ると聞いて私は隠し財産も含めた全財産のほとんどをつぎ込んだが……こんなヤクザみたいな連中とは聞いてないぞ……!)
下戸は、神陀と同じく部屋の隅で固まっていた。彼は神陀に震えた小声で問いかける。
(……尋常な手段じゃ、アイツは殺せませんから)
何故、神陀がここに居るのか。それは下戸をも巻き込んで、灰風強との交渉を成功させたからに他ならない。
「念の為もう一度、計画を確認する」
「はい」
「俺達の計画は千擁四郎の虐殺ショーを闇サイトで全国放送する事だ。まず、中柱白華を誘拐、これで千擁四郎を呼び出せる上に無抵抗を強いれる。そして念には念を入れて最高級装備も用意、余った金で配信設備を整える」
「ええ、間違いありません」
「俺にとってこの計画は素晴らしい。弟の仇も取れる、あの千擁四郎を殺ったって実績も作れる、オマケに灰風会の資金は一円も使わなくて良い……一石何鳥とやらだ」
灰風強はニヤッと笑う。警察組織との闇の繋がり以外、目立った長所の無かった灰風会が最近躍進しているのは、この神陀の計画と資金提供の為だった。
「神陀さん、アンタ探索者よりこっちの方が向いてるんじゃないねぇの? 全部終わったら灰風会に椅子を用意しても良いぜ?」
「今は……アイツへの復讐以外何も考えられません。ですが、考えておきます」
「そうかい。クックック……明日の朝が楽しみでしょうがねぇなぁ!」
*
今回の登場人物説明です。
二代目灰風会会長。
弟である土志炭には愛情が有るものの、あまり兄弟仲は良くない。
強欲でチャンスは逃さないタイプで、小さな組織だった灰風会を警察に圧をかけれるくらいにまでのしあげた立役者。
今回の神陀の計画にも迷わず乗った。
知っての通り千擁の元・上司。
しつこい。
本来なら下戸共々逮捕されるはずだったが、病院で今回の計画を立案。
灰風会の協力を約束させ、刑務所行きになる前に脱出した。
下戸にも灰風会の事は伏せた上で資金提供をさせた。
話術一つでここまでやれる辺り人を利用する才能だけは本物である。
元、親切探索者事務所所長。
雲上の手でゴミ捨て場に不法投棄させられた後、本来なら刑務所行きだったが、神陀によって難を逃れる。
しかしいつの間にか反社組織に全財産を提供する羽目になっており、一文無しになったうえにますます罪を重ねている。
内心嫌な予感しかしていないが今更抜ける事は出来ない。
ブラックストームのリーダー。
神陀の計画が無くとも、元々彼だけは灰風強によって刑務所の外に出される予定だった。兄の事は嫌いらしい。
兄や神陀に手駒として使われている事に内心苛立っているが、反抗する度胸は無い。
しかし、実力自体はそれなりにあるので、ブラックストームの面々と中柱を誘拐した。